12話 エルフだけど、エルフじゃない
※エルフに関する設定は、私の妄想の産物であり、ソースはございませんのでご了承ください。
張り詰めた空気の中、恵庭様が静寂を破った。
「…そろそろ、我々の存在を公にしてもよい頃だと思っておった。この機会に、エルフの里にも伝えようと思う」
「恵庭様…」
「儂らがこの隠れ里へ移ってから長い年月が経った。もう、その必要も薄れておるじゃろ」
と切り出し、エルフの歴史について語り始めた。
「まず、先ほどの問いじゃが――。我らはエルフではない。森小人族という種族じゃ。少々長いゆえ、フォクシーと略すものもおるな。ワンダよ、エルフと森小人族…似ておると思わんか?何ゆえだと思う?」
「モしカして、こンけツナのでスか?」
「その通りじゃ。異世界人というのは、この手の話に長けておるのか?…まぁ、今は置いておこう。今エルフと呼ばれておる種族は、遥か昔に森小人族と混ざり合った、元は人間族の末裔なのじゃ」
◆ ⁂ ◆
――その昔、山の形すら変えてしまうほどの大災害が起きた。森小人族の里は壊滅的な打撃を受け、土地そのものを捨てての移住を余儀なくされた。
ようやく暮らせそうな森に辿り着いたものの、生活の再建は困難を極めた。食料はおろか生活の道具すら持ち出せなかったため、全てを0から始めなければいけなかったのだ。
その日をしのぐことすら難しい中、近くに暮らしていた人族との出会いがあった。自分たちだけでの再建は困難と判断し、彼らに助けを求め、共に暮らすようになった。
森小人族は魔力の使い方やその知識、魔力を用いた労働を提供し、人族は食料と生活の場を与えてくれた。こうして、互いに助け合う良好な関係が築かれていった。
やがて、森小人族と人族との間に混血の子が生まれ始めた。混血の子ども達は長命で耳が長く、現在“エルフ”と呼ばれる種族の特徴を備えていた。
◆ ⁂ ◆
「我ら森小人族は魔力の扱いに長けておる。魔力さえあれば何でもできるわけではないが、贅沢をせぬ限り、暮らしていくには困らなんだ。じゃが、里ごと失ってしまってはのう…。見ての通り、我らは体が小さく、力が弱い。魔力で道具を生み出すことはできるが、魔力とて限りがある。避難で疲れ果てた身では、山菜を摘み、獣を狩り、その日の糧を得るだけで精一杯じゃったわい」
「そして、我々エルフのご先祖様と森小人族が出会った結果、今の私たちエルフがあるのだ」
美唄さんからの補足が入った。
(美唄さんはいったいいッ!)
考えることも止めておこう。命の危険を感じた。
「じゃが、そう良いことばかりでもなかった。長命となったエルフたちは、我ら森小人族を愛でるばかりで、なかなか子を成さなくなってしまったのじゃ。まぁ、儂は可愛いからのう?仕方ないのう?」
(確かに可愛いけども、自信満々だな)
「恵庭様、無駄話はお控えください。日が暮れてしまいます」
ドヤ顔を決めた恵庭様に、案内役の渋い声の少女が鋭く突っ込んだ。小柄で愛くるしい見た目ながら、どうやら”しごでき秘書”ポジションらしい。
「はぁ…。まったく、くーちゃんは堅いのう」
「倶知安です。正しくお呼びください」
倶知安さんの目がキラリと光る。眼鏡が似合いそうな雰囲気だ。
「このくらい、ええじゃろうに。まぁ、他にも原因はあるんじゃが、儂らがあまりにも可愛い過ぎたせいで、エルフたちの出生率が下がってしまったんじゃ。その対策として、なるべく彼らの前に姿を見せぬようにしたのじゃよ」
「そのための、この隠れ里というわけです」
「儂らとの接触が減ったおかげか、ここ数百年で、ようやく子供が生まれるようになってきたのじゃ。エルフの大人たちの半分ほどは、この事情を知っておる。子供たちには、儂らのことを”近所の子”と説明しておる」
また、近年ではゴブリンやオークの村とも交流が始まっているようだ。こちらとの交流は一筋縄ではいかないようだが、エルフだけでは難しい事もあるため、徐々に進めていく方針のようだ。
「意外なことに、オークとエルフの混血も生まれておってのう。エルフの数が順調に増えておるなら、儂らが身を隠す理由も、もはや薄れてきたというわけじゃ」
(なるほど。この世界は他種族との交流が盛んなのかな?組み合わせによっては面白いことになりそうだ)
改めて、この世界への興味が湧いてきたところで、恵庭様から話しかけられた。
「そこでじゃ、ワンダよ。お主の説明と合わせて、儂らの情報開示をしたいのじゃが、どうかの?精霊様の遣いと説明すれば、お主の待遇も多少は改善されるじゃろうて」
「あリガとうゴザいまス、おネガいしマす。…とコろデ、エルフのショうシかのゲんイんは他ニモあるトいっテいまシたガ?」
「まぁ、そこまで大きな影響はないとは思うんじゃがの?ワンダよ、くーちゃんのことを女の子だと思っておるじゃろ?こいつは雄じゃよ」
「?!」
…なるほど、これは人口が減るのもしょうがないね。




