9話 求)第一印象の改善方法
多勢に無勢。小学校の頃、こんな光景はありましたか?
2025/8/21 加筆修正
「これより、バケモノの尋問を開始する!」
(助けてもらえたのはありがたいけど、なんでこんな事に…)
エルフ達の里へ連行されたワンダは、壁に囲まれた運動場のような場所へ連れてこられた。大勢のエルフに取り囲まれているのだが――。
(なんで女性しかいないんだ?)
族長らしき人にワンダの処刑を進言されている最中、男性のエルフがいたのを見ている。何故か、尋問という言葉を聞いた男性エルフ達は、哀れみの目を向けてきた。
(こんな怪しいよそ者を哀れんでくれるなんて、優しい人達だな。解放されたら、仲良くなりたいな)
周りには怒り心頭、といった女性達がワンダをにらみつけている。今にも石を投げつけてきそうな、険悪な雰囲気である。
(孤立無援だな。あの少女なら弁護してくれそうだけど…)
弓使いの少女は、残念ながら見当たらない。尋ねてみたいが、安易な質問は命取りになりそうだ。慎重に行こう。
動けないように手首足首を縛られた。せめてもの情けか、外套は着せてもらえている。
(良く考えたら、外套が無かったら全裸なんだよな…)
いよいよ、尋問が開始されるようだ。地面に突き立てられた丸太に縛り付けられるワンダ。
何故か、上下逆さまに。
「配置完了です!」
「ご苦労。下がって見学していてくれ。」
「まったく、族長も甘い。こんな奴、さっさと処刑すればいいのに」
「長万部様に感謝しろよ!」
「あリがトウござイます。なゼサかサニさレテイるンですカ?」
「良い質問ですね、早速実践してあげましょう」
ダンッ!
傍らにいたスレンダーなエルフが、鋭い踏み込みと共に腕を突き出す。
腕には、ごちゃごちゃした器具が装着されていた。何かのタンクと、木製の銃身のような筒から伸びる銛、銛の横に設置された剃刀のような刃物が組み合わされている。
プシュァーッ!
トリガーが引かれた瞬間、器具から白い蒸気が激しく噴き出した。熱気を孕んだ霧を突き破って、鋭い返しの付いた銛が閃光のように筒から射出された。
ガッ!
見事、銛は鼻の中央を貫通した。小指ほどしかないのに、凄いコントロールだ。どういう機構なのか、刺さった銛は筒の中へ吸い込まれるように戻っていく。その先に待ち受けるのは――。
シャリンッ
戻る銛に引っ張られた鼻が、豆腐のようになんの抵抗も無く切断されてしまった。器具の先端に配置されている、剃刀のような刃物の仕業だ。鼻とは言え、普通の木の枝なのに…恐ろしい切れ味だ。
そして、更に恐ろしい事に気づいてしまった。もしや、この器具の目的は――。
(なんて凶悪な…。エルフは何を考えているんだ!?)
何故、自分が逆さに縛り付けられたのか。
何故、男性エルフ達は哀れみの目を向けてきたのか。
今しがた、切断された鼻の位置は――。
全てが繋がったワンダは、その武器の標的の末路を想像して震えあがった。威力や速度は、地球の鉄砲の方が圧倒的に上だろう。だが、わざわざ得意な遠距離攻撃の弓を捨ててまで、至近距離で目的の物を切り捨てる――。その尖ったデザインからは『必ず屈辱を与えて、尊厳を奪い取る』という設計思想が感じられた。
「マさカ、ソれハおトコのアレヲkill タメの…?」
「察しが良いですね。そう、これは男を処刑する為の道具です」
自分に使用されてからは、ただの武器ではなく、小さくとも絶望的な断頭台に見えてしまう。そんな非人道的な武器を、誇らしそうに撫でながら紹介してくれる。
「使用する時の音から、男捨離と呼ばれています。美唄姉さまが開発してくださいました」
「こいつを披露すると、大抵の男は前かがみになりながら震えて逃げていくのさ。大の大人がみっともない、笑えるだろ?」
(笑えない。エルフコワイ)
喉元までこみ上げた言葉をぐっと飲み込み、慎重にうなずくことで機嫌を損なわないよう努めた。目の前でその光景を見たとしても、彼らを笑うことは出来まい。こんな武器を見せつけられた日には、男は全員白旗を上げて地面に這いつくばり、命乞いをするだろう。
「だが、扱いが難しくてな。こうして、罪人を練習台にしているのさ」
「ナるほド。でモ、ボクはなニもしテナ「おい、こいつ今スカートの中覗いたぞ!」
「「「サイテー!」」」
(逆さに固定されてて、覗くなっていう方が無理でしょ?!)
「フかコうリョくデス!」
シャリンッ
必死の抗弁も虚しく、今度は鼻の根元からスパッと切られた。すぐ目の前を凶器が通り過ぎて、無いはずの臓器がキュッとなった。
(これはもう、何を言っても聞いてもらえる気がしない)
無くなった鼻の代わりに、口で棒を咥えるように指示された。通常であれば太ももで挟むらしいが、どちらの方がマシだろうか――。諦めの境地で、せめて協力する姿勢を見せようと、不動の姿勢を続ける。
そんなタイミングで、更なる試練が追加されてしまう。
「お?こいつの鼻、もう次の葉っぱが出て来てるぞ?」
影の無い、日当たりの良い広場の真ん中である。逆さに縛られたワンダの顔には、日光がしっかり当たっていた。
「再生が速いですね。この調子なら、一日に何回か斬れそうです」
作り物の体とはいえ、咥えているだけの棒とはわけが違う。更なる絶望に打ちひしがれるワンダをよそに、リーダーらしき人物が指揮を執り始めた。
「よし!男捨離が使える者は順番に練習だ!まだ使えない者は、いつも通り素振りから。始め!」
また下から覗かれないようにと、ワンダは目隠しをされた。冤罪から逃れられ、凶器も見えなくなるならむしろありがたいと思ったのだが、視覚が遮られると逆に風切り音を意識してしまう。いつ来るか分からない分、むしろ恐怖は増してしまった。
様子を見に来た族長達が止めてくれるまで、尋問(拷問)は続けられたのだった…。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




