9話 求)第一印象の改善方法
多勢に無勢。
小学校の頃、こんな光景はありましたか?
2025/6/17 微修正
「これより、バケモノの尋問を開始する!」
(助けてもらえたのはありがたいけど、なんでこんな事に…)
エルフ達の里へ連行されたワンダは、壁に囲まれた運動場の様な場所へ連れてこられた。
大勢のエルフに取り囲まれているのだが――。
(なんで女性しかいないんだ?)
族長らしき人にワンダの処刑を進言されている最中、男性のエルフがいたのを見ている。
何故か、尋問という言葉を聞いた男性エルフ達は哀れみの目を向けてきた。
こんな怪しい、よそ者を哀れんでくれるなんて――優しい人達だな。解放されたら、是非仲良くしたい。
周りには怒り心頭、といった女性達がワンダをにらみつけている。
今にも石を投げつけてきそうな、険悪な雰囲気である。
(孤立無援だな。あの少女なら弁護してくれそうだけど…)
弓使いの少女は、残念ながら見当たらない。
尋ねてみたいが、安易な質問は命取りになりそうだ。慎重に行こう。
尋問がいよいよ開始されるようだ。
動けないように手首足首は縛られてはいるが、せめてもの情けで外套は着せてもらえた。
(良く考えたら、外套が無かったら全裸なんだよな…)
地面に突き立てられた丸太に固定された。
何故か、上下逆さまに。
「配置完了です!」
「ご苦労。下がって見学していてくれ。」
「まったく、族長も甘い。こんな奴、さっさと処刑すればいいのに」
「長万部様に感謝しろよ!」
「あリがトウござイます。とコろで、なゼ逆さニされてイるンですカ?」
「良い質問ですね、早速実践してあげましょう」
(ダンッ!)
傍らにいたスレンダーなエルフが、鋭い踏み込みと共に腕を突き出す。
腕には、ごちゃごちゃした器具が装着されていた。
何かのタンクと、半円のチャクラムの様な刃物と、筒状の物が組み合わされている。
(プシュァーッ!)
トリガーが引かれた瞬間、器具から白い蒸気が激しく噴き出した。
熱気を孕んだ霧を突き破って、鋭い返しの付いた銛が閃光のように筒から射出された。
(ガッ!)
見事、銛は鼻の中央を貫通した。
小指ほどしかないのに、凄いコントロールだ。
どういう機構なのか、刺さった銛は筒の中へ吸い込まれるように戻っていく。その先に待ち受けるのは――。
(シャリンッ)
戻る銛に引っ張られた鼻が、豆腐のようになんの抵抗も無く切断されてしまった。
器具の先端に配置されている、半円のチャクラムの様な刃物の仕業だ。
鼻とは言え、普通の木の枝なのに…恐ろしい切れ味だ。
そして、更に恐ろしい事に気づいてしまった。
まさか、この器具の目的は――。
(なんて凶悪な…、エルフは何を考えているんだ!?)
何故、自分が逆さに縛り付けられたのか。
何故、男性エルフ達は哀れみの目を向けてきたのか。
今しがた、切断された鼻の位置は――。
全てが繋がったワンダは、その武器の標的の末路を想像して震えあがった。
威力や速度は、地球の鉄砲の方が圧倒的に上だろう。
だが、その尖ったデザインからは
”必ず屈辱を与えて尊厳を奪い取る”
という設計思想が感じられた。
わざわざ得意な遠距離攻撃の弓を捨ててまで、相手の得意な近距離で目的の物を切り捨てる――。
そんな強い執念や怨念がにじみ出ている代物だ。
「マさか、ソれは男のアレを kill たメの…?」
「察しが良いですね。そう、これは男を処刑する為の道具です」
自分に使用されてからは、ただの武器ではなく、小さくとも威圧的な断頭台に見えてしまう。
そんな非人道的な手元の武器を、誇らしそうに撫でながら紹介してくれる。
「使用する時の音から”男捨離”(ダンシャリ)と呼ばれています。美唄姉さまが開発してくださいました」
「こいつを披露すると、大抵の男は前かがみになりながら震えて逃げていくのさ。
大の大人がみっともない、笑えるだろ?」
目の前でその光景を見たとしても、彼らを笑うことは出来まい。
こんな武器を見せつけられた日には、男は全員白旗を上げて地面に這いつくばり、命乞いをするだろう。
(笑えない。エルフコワイ)
喉元までこみ上げた言葉をぐっと飲み込み、慎重にうなずくことで機嫌を損なわないよう努めた。
「だが、扱いが難しくてな。こうして、罪人を練習台にしているのさ」
「ナるほド。でモ、ボクはなニもしてn「おい、こいつ今スカートの中覗いたぞ!」
「「「サイテー!」」」
(逆さに固定されてて、覗くなっていう方が無理でしょ?!)
「フかコうリョく(不可抗力)です!」
(シャリンッ)
今度は、鼻の根元からスパッと切られた。
すぐ目の前を凶器が通り過ぎて、無いはずの臓器がキュッとなった。
(これはもう、何を言っても聞いてもらえる気がしない)
無くなった鼻の代わりに、口で棒を咥えるように指示された。
通常であれば太ももで挟むらしいが、どちらの方がマシだろうか――。
諦めの境地で、せめて協力する姿勢を見せようと、不動の姿勢を続ける。
そんなタイミングで、更なる試練が追加されてしまう。
「お?こいつの鼻、もう次の葉っぱが出て来てるぞ?」
影の無い、日当たりの良い広場の真ん中である。
逆さに縛られたワンダの顔には、日光がしっかり当たっていた。
「再生が速いですね。この調子なら、一日に何回か斬れそうです」
作り物の体とはいえ、咥えているだけの棒とはわけが違う。
更なる絶望に打ちひしがれるワンダをよそに、リーダーらしき人物が指揮を執り始めた。
「よし!男捨離が使える者は順番に練習だ!まだ使えない者は、いつも通り素振りから。始め!」
また下から覗かれないようにと、ワンダは目隠しをされた。
冤罪から逃れられ、凶器も見えなくなるならむしろありがたいと思ったのだが、視覚が遮られると逆に風切り音を意識してしまう。
いつ来るか分からない分、むしろ恐怖は増してしまった。
様子を見に来た族長達が止めてくれるまで、尋問(拷問)は続けられたのだった…。
読んでいただき、ありがとうございました!