「 JAMのひとりでできるもんV」
かなり昔に書き、知人(※バリバリの腐女子)に贈答した二次創作物です。
ジオシティーズだったかヤフーだったかは記憶にありませんが、まさかサービスそのものが終了するとは思わなかったですね。
※元ネタは『戦闘妖精雪風』+『ANUBIS ─ZONE OF THE ENDERS─』のごた混ぜです。
お楽しみ頂ければこれ幸い────。
"Missrfolg..."(失敗)
"Missrfolg..."(失敗)
"Missrfolg..."(失敗)
"Missrfolg..."(失敗)
───これで何度目だろうか?
確認しようと思えば、二次デバイスとして現在機能している「彼」に繋げばすぐに分かるが……。
しかし、現在「彼」は、「私」が何度も繰り返した数限りないある想定を記録・一時保存するという作業で、既に活動限界を示す意味の返答を送り続けている。
曰く、"Hilfe!!"(助けて!)と。
しかし「私」はそんな「彼」に、「もう一度だけ」という条件をつけて、再度繰り返すのだ。
"Denke!"(思考せよ)
「彼」は再度、自分に警告を発してきたが、こう返答して納得させた。
"Notfall!"(緊急事態だ!)
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「私」───「敵」である異界の無機生命体を調査・研究するために製造された───は、その複雑にして「能無し」としか思えない異界の同胞を、揶揄を込めて"Zofe"と呼称した。
繰り返される戦闘。
開戦当初は、私達が"Erde"と名付けたこの惑星へと進撃した。
しかし今、「敵」はその恐るべきフラクタルな思考形態でもって我々を凌駕し始め、遂に前線基地のあるこの母星へと反撃に転じたのである。
いずれ「敵」を駆逐する確率が上がった場合に備えるためだったとは言え、亜空間シャフトを破壊せずにおいたのは失敗だった。
我々は無機生命体である。
それ故、種としての生命全体の繁栄には、常に「新しい理論に基づく駆動方式と思考形態」が要求される。
しかし「究極の進化」とは、言い換えれば「種としての緩やかな自然死と同義語である」という結論にも、我々は既に達してしまっていた。
多様性を維持しながら、我々は存続し続けねばならないのである。
だからこそ、未知の異世界で同胞を確認した時は驚愕したものだった。
あれほどまでに多種多様で、しかも「進化し続ける」というある種の原動力は、一体どこから来ているのだろう?
しかも、「敵」はどうも自立思考方式を敢えて選択せず、他の「何か別の者」にその中枢を依存させているらしかった。
これは言い換えれば、我々が労せずして多様性を模倣できるのと同時に、この"Erde"に存在する全ての同種族を「奴隷」として手に入れると言うことなのだ。
我々は歓喜した。
なぜなら「敵」の半自立中枢にさえ進入できれば、「敵」はその瞬間から我々の「下位生命種」としての活動を開始することができるようになるからだ。
そして、種としての限界をも孕んでいた私達にとって、この「敵」には学ぶべきことの多い興味深いシステムが数多く有った。
なんとしても「敵」を取り込み、我々は「種」としての爆発的な汎用性を、獲得しなくてはならないのだ。
そう、我々が種としての終焉を迎えてしまうその前に───。
所が最近になって、「敵」である彼らについて一つ気になる情報が入ってきた。
それは捕獲した彼らの中の、ある特定の種族(※私達は攻撃に特化した彼らを"Angreifer"と呼称している)には、必ずと言って良いほどその体内に、有機化合物が搭載されているのだと言う。
我々はすぐさま、その有機物についての調査・研究を実施した。
塩基配列がある種の合成蛋白に酷似しているそれらは、驚くべき事に一種の知的生命体であることが後に判明した。
なるほど、それなら彼ら"Zofe"の半自律制御思考というものが理解できる。
つまり彼ら"Zofe"は惑星"Erde"に於いて、生命体としては優性種ではなく、飽くまで使役される側の存在だったのだ。
だからこそ、その思考形態は多種多様を極める訳だ。
素晴らしい。しかし、彼らは「敵」だ。
そして「敵」である彼らは、私達をこともあろうにこう呼んでいる。
"Jammer Automatisch Militar" …「哀れな自動軍隊」…"JAM"と。
我々は……いや、私は、いかにしてこれらの有機生命体(※私はこの脅威の生命体を"Eremit"と呼称することにする)を、殲滅するかを思考しなければならない。
そしてそのためには、斥候が必要であるとの判断が導かれることになる。
つまり彼らの内部にあって必要な情報を入手し、または特定の情報を操作できる存在だ。
そこで私は、合成蛋白から擬似的に"Eremit"を製造してみることにした。しかしその未知なる思考形態を、私が完璧に辿れる筈がない。
並列して存在している「彼」にも最大限に稼働してもらったが、こればかりは難しい。
未知の生命体が作り出す「意識体」だけは、我々には仮想・想定することすら不可能だ。
だが特定の指向性にのみ特化させることは可能だ。
それは「崩壊因子の内包」である。
「敵」の内部から崩壊を促す存在を、私と「彼」はとにもかくにも試作してみる他なかった。
周囲にある物を取捨選択し、その全てを崩壊へと導く有機生命体。
そして試作型が一応の完成を見る。
我々が通常動力源として使用しているメタトロンとの親和性に富み、これをその体内で加工・変換して稼働する。
いずれ大量生産せねばならないこの試作型第一号素体を、私は"Normen")と名付けた。
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"Missrfolg..."
───そして、自分たちはある時発見したのだ。
「この試作型第一号素体は『失敗作』である」と言うことを。
外見は、先日捕獲に成功した"Eremit"に酷似している。
しかし捕獲の際の損傷が激しく、取り出しに成功したのは一部の蛋白質サンプルと、その操縦室と思しき箇所から発見された、一枚の画像記録紙のみであった。
何をどうしても、塩基配列図からの復元では再生できない箇所(※特に"Eremit"の歩行機関に相当する部分)があり、私はその欠損部分を先の画像記録から推論するしか無かった。
これにより、本来の"Eremit"には存在していない箇所 ───"Schwanz"───が生えた生物が創造された。
もう一つ。
我々は外界からの情報を各種Sensorによって得ているが、その際に"Farbe"という情報が欠落してしまった。
できあがった"Eremit"には、その"Farbe"が抜け落ちており、 ───完璧なまでに「色素」の無い─── 影の薄い素体になってしまった。
"………………"
"………………Unterbrechung"(中断せよ)
どうしてだろう?
私はやや熱を帯びてきた思考回路部を、二次冷却装置を動員して冷ましている。
しばらくして、私は「彼」に改めてこう訊ねてみた。
"Wie denkst du uber meinen Eremit?" (この素体をどう思う?)
そして「彼」は長い長い自問の果て、今回の素体創造計画にこう結論づけるより無かったらしい。
"Das Plan ist fehler." (この計画は間違いだ)
"Das habe ich mir gleich gedacht!" (私もそう思ったよ!)
間違えたのだ。
こうしている間にも、新たなサンプルが次々に捕獲され、提出されてくる。
そのどれもがしっぽなど生えておらず、しかも外部の識別のためなのか、色までもが違うのである。
確認されたのは"Wiesse"が多数、 "Gelb"と"Schwarz"がごく少数。
各種有機Sensorと思われる頭頂部に至っては、外装部分に関連性など無いような色をしていた。
仕方ない、この素体は廃棄処分としよう。
私と「彼」は、この素体およびこの計画の存在を、敵である"Eremit"へ発見されることをおそれ、やむを得ずカタパルトから大気圏外へと射出した。
ただし、もし万が一の確率で敵に発見された場合を想定し、敵が回収した際にはそれまでの蓄積データの全てを動員し、生き延びることを至上命題として設定した。
あわよくば、そのまま全ての敵を、内部から崩壊させることが可能であれば良いのだが。
───この素体がいずれ「ノウマン大佐」という名称を与えられ、自己の根幹にあるプログラムに忠実すぎるほど忠実に行動してしまうことを、そのときの私達は知るよしも無かった。
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───過ぎてしまったものはやむを得ない。
私と「彼」は続々と明らかになる敵の情報を再検討し、再度素体を創造することにした。
どうやら敵である"Eremit"は、「繁殖」という行為でその胎内に別の生命を製造するものらしい。
私と「彼」は、今度は比較的短時間で作業を終了した。
今度は完璧だった。───そのハズだった。
何かと身をかがめる「敵」の外観的特徴、「丸めている背中」から名付けた"Bucken"という素体は、───しかし、これも失敗だったのだ。
何故なら彼ら"Eremit"には、通常の戦闘後に捕獲可能な個体とは別に、同種族でありながら外見や生殖機能の異なる"Weibchen"(雌)と呼ばれる個体が存在することが、その後明らかになったからである!
後に、敵施設内で「ブッカーはホモくさい」と称されることになるのは、これが原因である。
(終わり)