何のための日々?
幼少期の俺はよく積み木で遊んでいた。色々な形の積木を一つひとつ重ねていく。丸いやつ、四角いやつ、バランスをとりながら慎重に置く。
「亮君すごいね!上手上手!きっと将来賢くなるよ」と母はよく幼い俺を褒めていた。笑う母の顔を見ていると気分がよくなり、俺は積木をもっと高く重ねていく。やがて全てが崩れるまで、、、。
高橋亮は先月の誕生日に不惑である40歳を迎えた。それなのに昼間から仕事もせずに、右手でハンドルを捻りながら呆然と飛び交う玉の動きを追う。
平日だというのに、パチンコ店は朝から大勢の人が群がっていた。どいつもこいつも目が血走り、辛気臭い。
亮の左隣の台に若い大柄な男が座った。外はかなり暑いのだろう。随分と汗臭い。
、、、、どうしようもない奴らめ。働けよ。
そう、心の中で悪態をつく。
台の液晶では、リーチが発展した。某人気アニメのキャラクターが3つの図柄を揃えようと奮起するのを眺める。当たれ、当たったくれと強く願う。
これで財布にあった一万円札はなくなる。あとは千円札が2枚だけしかない。朝から打ち続けた結果、これで三万円負けだ。
昨日入ったばかりのバイト代も、残り二千円だけだ。亮の台のリーチはあっさり外れた。その直後にさっき隣に座った若い男の台から大チャンスを告げる音が響き、画面に3の図柄が揃う。
「チッ、、クソッ、、クソッ」と思わず舌打ちと声が漏れる。もうやめて帰ろう。夕飯を食べて風呂に入って寝る。それから明日にでも単発のアルバイトでもして金を稼げばいい。
、、、そうだ。
働けばいいだけだ。大丈夫、当たるかもしれないし、このまま帰るのは癪だ。取り戻さなければ。
小さく震える手で財布から千円札を取り出す。
アスファルトの道は日中の日差しで受けた熱を持て余し、歩行者に不快感を与える。
パチンコ店から亮の住むアパートへの帰り道、いつも買い物をするスーパーを通り過ぎる。もう夕飯を買う金もない。
少しだけ涼んでいこうかとも考えた。しかし、クーラーのない部屋に帰ることを思うと気持ちが萎えた。
木製のアパートは歩く度にギシ、ギシィと苦しげな声をあげた。隣との壁も薄いから気をつけて生活している。
少しでも部屋に溜まった熱気を逃すため、窓を開けて扇風機のスイッチを入れた。
質素な部屋には布団が敷いてあるだけだ。テレビや冷蔵庫はなく、服やゴミ袋が畳の上に乱雑に広がっている。
ここでの生活も気がつけば2年目になる。日々は変わることもなく、ただ過ぎ去っていくばかりである。いったいこれから何を目標に生きていけばいいのだろう。
若い頃は順風満帆な人生だった。学生の頃には生徒会に入り、サッカー部のレギュラーとして全国大会に出場した。それからも、第一志望ではなかったが、世間では十分に一流と呼ばれる国立の大学に合格することが出来た。しかし、この大学生活中に亮はレールから大きく外れることになる。
きっかけは1人の男との出会いだった。