絶望からの出会い
少年と少女が出会い、未知の歯車は動き出す―。
白雪玲衣は夢を見ていた。
学校から帰ろうとした矢先。
「また変な格好してんじゃん」
数人の男子。しかも年上の。
「えっ…と…」
何度となくあった嫌がらせ。
「おい!お前のせいで俺の存在がなぁ」
「いいよなぁ〜。金持ちの家に生まれた奴は」
「人生幸せだよなぁー」
「恵まれてるって感じ?」
「俺らのことずっと下だって思ってんだよなぁ?」
周りを囲まれ、逃げたくても逃げれない。
「なんか言えよって!」
ドン!
「いっ…」
肩を押されて尻もちをついた。恐る恐る顔を上げると、にたぁっと嫌な笑顔と目が合う。恐怖心で体が動かない。嫌だ。やめて、と言いたいのに声がでない。呼吸が荒くなってくる。息が吸えない。
「やめ、て…」
声を出したことにより、一瞬で現実に引き戻された。玲衣はガバッと起き上がる。夢で見ただけなのに息が乱れて冷や汗が止まらない。
「どう、して…」
玲衣は、疲れが溜まっている時、過去に起きた嫌な出来事の夢ばかりを見る。今回は小学3年生くらいの時の出来事だろうか。玲衣は無意識のうちに溜め息が出た。
「夢の時くらいは自由でいたいのに」
そう呟いてからだんだんと視界がにじんでくるのを感じたが、涙を止めることはもうできなかった。
⬜︎◆⬜︎◆⬜︎
辺りは少し薄暗くなってきた。
木には春に花を咲かせようと準備をしているつぼみが雪に埋れている。そこらの住宅地の屋根は雪がところどころに残っており、寒さで凍っている。地面は雨によって雪のふわふわが失われ、雨なのか雪なのか区別がつかないものが凍って、安全地帯がない。そんな誰もがヒヤヒヤしながら歩くであろう道をこの男―月島律は躊躇なく進んでいた。
「ふぁ…眠すぎる…」
律は今、睡魔と闘っていた。冷たい風が顔を刺すようにして吹いてくるからいくらかましだが、重いまぶたはなかなか開いてくれない。それと一緒に思考も停止してきた気がする。
今日は、午前中に雨が降っていて午後はずっと曇っていたため誰もが眠いと律は思う。高校受験を控えているというのに5、6時間目はクラスの3分の1が机に突っ伏して寝ていた。律はその時、今と同じように懸命にまぶたを開けていたから、ぎりぎり寝ていない。その反動でか、今凶悪な睡魔が律を襲っているのだ。
「絶対昨日やりすぎたせいだよな…」
ボソっと呟いた言葉は寒空の下で消えていく。その時―。
「おわっ!」
突然足元が滑った。律は一瞬で血の気がひき現実に引き戻される。体は一瞬宙を浮き、すぐさま重力によって地面に打ちつけられた。
「いってぇ…」
まさに漫画のように派手に転んだ。ここに自分以外誰もいなくて良かったと思う。が、転んだ際に打ったお尻がジンジンと時間差で痛んできた。今日はついていない。律は慎重に痛む体を持ち上げて今度は慎重に歩き出した。
学校から電車に乗って徒歩10分ほどで着くそこは、律がほぼ毎日のように通っている一軒のビルである。入口には警備員がたっていて、律が通ろうとすると止められてしまった。
「すみませんが、身元をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
警備員は不謹慎をあらわにしている。確かに通学カバンを背負って制服を着ている見るからに学生が、平然と中に入ろうとするのだから仕方ないだろう。警備員は毎回立っていて、顔見知りになったら止められずに通してもらえるが、今回は新人だろうか。見慣れない顔である。
最近は問題なく通してもらっていたため、警備員が求めている物はカバンの奥底に押し込まれているはず。
(めんどくせぇ…)
律は学校カバンを手荒に探り、このビルで作ってもらった自分の身分証を取り出して少々八つ当たり気味に警備員に見せる。警備員はびっくりしたような顔でぎこちなく中に入れてくれた。
律は慣れた手つきでビルに入ると、エレベーターに行く。が、故障中と書かれている紙が異様な存在感を放っていた。
「マジか…」
今日は本当についていない。律は諦めて階段を上り、自習室と書いてあるドアを開けた。
「やあ!マシキツ君。今日は遅かったね。来ないかと思って心配したよ」
律が入った途端、見慣れた中年男性―社長こと、高沢由氏が話しかけてきた。
「すいません。今日ついてなくて」
そう返しながら、律は自分の定位置に座って学校カバンを机の横に置く。
律が毎日のように通っているこのビルは、数ある中の有名なIT企業だ。何故律がこのビルに通っているかは、高沢由氏にスカウトされたからである。
律が当時中学2年生の時にたまたま日本がプログラミングの世界大会の開催地で、律は興味本位で参加したところ、その歳で世界大会7位という記録を叩き出したのだ。
律は由氏から貰ったパソコンを開いた。いつものように画面がつくはずなのだが…。
「エラー?」
画面にはエラー表示がされてあった。律は何もしていないはず。そんな疑問に由氏は飄々と答えた。
「あーそれね、僕がいじっといた。今日の課題ね」
(おいおい)
律は自分の顔が引きつるのを感じる。ちょくちょくこういった課題が出されるのだ。今の律にあったレベルで。
律は引きつった頬をしまい、エラー画面と向き合う。一呼吸した後、物凄いスピードでキーボードを打ち、黙々と治していく。ほんの1分ほどで元の画面に戻った。
(ん?何か簡単だったんだけど…)
律は拍子抜けする。由氏からの課題は今の律にあったレベルで出される。つまり難しいのだ。いつもはもっと無理難題を用意してクリアするのに1時間くらいかかるときもあると言うのに。
キーボードが止まったことで律がクリアしたのが分かったのか、由氏がこちらへやって来た。
「うーん。もう少し難しい方が良かったかな」
律はその言葉に引っ掛かりを覚える。
「もう少しって…。社長の課題、毎回激ムズじゃないですか」
律の反論に由氏はニヤっと笑う。
「いや、元々の課題は別にあるからね。これはちょっとした遊びだよ」
由氏の言い草に嫌な予感がする。そしてその予感は当たってしまうのだった。
由氏は黒い布に包まれたなにかを持ってきて、律の机に置いた。
「オープン!」
由氏が元気よく黒い布をバサリと取った。そこにあったのは…。
時限爆弾だった。タイマーは赤い文字で、09:59、09:58、ともうカウントダウンが始まっている。
「は?え?」
律は呆然とそのカウントダウンを見つめるしかない。
「それはね、時限爆弾だよ。僕が作ったんだ。まぁ残念ながら爆発はしないんだけど。マシキツ君にはそれを解除してもらおうと思ってね」
突飛すぎる。中学生に爆弾解除をやらせるのか。まさか。
「社長もしかして、昨日刑事もののアニメ見ました?」
「そう。当たり!」
律はため息を隠せない。
由氏は大のアニメ好きである。そして、すごく影響されるのだ。
今だって律に時限爆弾の解除をさせようとしている。律は課題という口実で由氏の趣味に付き合わされているのではとヒシヒシ感じていた。
ちなみに由氏が律にマシキツ君と言うのはただのあだ名である。月島を反対から読んでマシキツ。
律は現実逃避しようとどうでもいいことを考えてしまっている。今も刻一刻と時間が過ぎているのに。
律はもう一度大きなため息をついてから、気合を入れる。爆弾の構造は前に教えてもらった。今の律に出すというのだから、できると分かっているのだろう。律はペンチを握って切らなければいけない導線を探す。律がやってくれると分かったのか社長はどこかへ去って行った。
数分が経過した。残り時間はあと10秒。律はあと一歩の所まで来ていた。よし、いける。最後の導線にペンチを挟んで切っ―。
突然バンという音がしてドアが勢いよく開いた。
その衝撃で体がビクッと震え、握っていたペンチを落としてしまった。あっと思った時にはもう遅く、タイマーが00:00と表示された瞬間、ビーというブザーが鳴り出した。律は慌ててペンチを拾い、最後の導線を切り、ブザーを止めた。
律はドアのほうを見る。そこには’’すみません’’と書かれた筆記用のノートを持った氷室誠がいた。その顔は無表情で、今日も行動と顔が合っていない。顔に感情が出ないせいで損をしているが、心優しい人だと律はもう知っている。
誠は社長の右腕とも言われている優秀な部下で、年齢は27歳。誠との会話は基本的に筆談で、よくここに居て仕事をしているため、律の事情を知っている人だ。
「あ、全然大丈夫です」
『でも、社長からの課題だったのでは?』
「まあ…」
誠は律の邪魔をしてしまったと落ち込んでいる。こうなると平行戦だろう。律は無理矢理話題を変えた。
「それより、どうしたんですか?勢いよく入ってくるなんて」
律が言い終わった途端、由氏が誠と同じく、いやそれ以上に勢いよく入ってきた。
「マシキツ君!大ニュース!」
はぁはぁと息切れながら興奮した様子で叫ぶ社長。それから律の方に来てぐっと身を乗り出し、律に言った。
「君、領成高校のスカウト欄に名前が乗ってたよ!」
「え?ホントですか?」
律はあまりの爆弾発言に固まる。そこで誠もやってきて、コクコクと頷いた。更なる追い討ちで律は思考が停止しそうだった。
領成高校とは1人1人の『可能性』を伸ばし、将来をより良くしていくという教育の下、白雪グループが運営している学校である。
さまざまな分野で何らかの結果を残してきた者がスカウトされる、いわゆる超エリート校だ。
入るためには基本的に白雪グループからスカウトされるか、学校からの推薦に認めてもらうかのどちらかである。全員、面接はするのでその時に自分を猛アピールし、入学を勝ち取った人がいるとかいないとか。
普通高校なら絶対はあるであろう一般試験がこの高校にはない。そこまで特殊な高校は珍しいだろう。
そして、この高校に入れば周りから尊敬の目で見られるという。なんてったって将来有望な人材が集められる高校に入れるのだから。だから皆、一度は夢に見る高校なのかもしれない。
律はあまり早く働かない頭で今の現状を理解すると、はぁとため息をもらした。その様子に違和感を感じたのか、由氏が疑問を投げかける。
「どうしたの?マシキツ君!嬉しくないの?」
「嬉しいですけど…」
律は曖昧に返す。
「あぁ、もしかして財閥系の人とどう付き合っていけばいいのか心配なの?」
由氏が律の心配を見透かしたかのように言った。
この高校は超エリート校のため、財閥の人がいることがある。律は’’生まれた時から権力を持っていて自分が偉いと思って育てられている人達’’というイメージを持っていて、少しでも逆らえば何をされるのか分からないと思ってしまうのだ。
数年前から白雪グループが大きくなっていったことにより、財閥というものが身近になっていった。
白雪グループは数十年前から権力を伸ばしており、今ではもう国をも動かせる力を持っている、最高権力者。
その人たちが運営している学校に入るのは名誉なことだが、同時にヘマをすれば即座に退学という噂を聞いたことのある律にとっては微妙なところだった。
律は財閥の人だけでなく、全ての人との人間関係が苦手。だからこそ、更に不安要素が入ってくる高校に入るのは―。
「大丈夫だって!あんまり関わらなければいいし。それよりもマシキツ君のPCスキルで入れる高校なんだから、このチャンス逃しちゃ駄目だよ」
『私もそう思います。領成高校に入れるのは、ほんのひと握りの人だけですから』
律の心配は2人によって一掃された。
「そう、ですよね…」
「まぁさっき関わらなければいいって言ったけど、いろんな人と関わるのはマシキツ君の成長に大事なことだからね。これを機に人間関係が苦手じゃなくなるかもしれないし、一生の友達ができるかもしれない。僕が言いたいのは世の中、いろんな人がいるって事」
珍しく真面目な顔をしている由氏。律も真剣な顔になって「はい」と返事をした。
あれから数ヶ月が経過し、律は超エリート校―領成高校の入学を決めた。
爽やかな風が吹き抜け、まだ散っていない桜が満開に咲いている。何か特別な日が起こると錯覚されそうな日に、領成高校の入学式が行われた。
領成高校の制服に身を包み、晴れやかな顔をしている者もいれば、どことなく緊張している者もいる。律もどこかソワソワしていた。
まだクラスが公開されていない時間帯。
(ちょっと早過ぎたか…)
周りの人達は仲の良い人同士で話している。律は暇な時間を潰そうと、皆から離れたところに座って様子を見ることにした。
眼鏡をかけた女の子が活発そうな女の子と話している。下を向いていておどおどしている男の子は元気にはしゃいでいる男の子と一緒にいる。背が低めな子はキョロキョロと辺りを見回している。その近くには全身にマントを着ている子がうずくまっている。
(社長が言ってたけど、ホントにいろんな人がいるな)
律はさっきと反対の方向に視線を向けてみた。そこには複数の人に囲まれて微笑んでいる女の子がいた。
太陽の光を反射して輝いている長めの茶色っぽい髪の毛は複雑に編み込まれている。日焼けを知らない真っ白な肌。どこまでも洗練されている佇まい。その子はいるだけで目を引くような、そんな存在感があった。
(誰だ?)
律は興味本位で少しだけ近付き、その子達の会話がギリギリ聞こえる位置に移動する。
「白雪様とこうしてご一緒に入学できること、心からお喜び申し上げます!」
「玲衣様は本日もお美しいですね」
あの女の子を中心に囲っている者達が興奮したように女の子に話かけていた。
(白雪玲衣…か)
そう思ったところでハッと気づく。
(まてよ?白雪ってもしや白雪グループ?)
さっきの内容から律は自分の考えに嫌な確証をだいてしまう。
(あんまり関わらないようにって思ったけど、社長が成長に必要って言ってたからなぁ)
律が1人で悩んでいると、彼女の取り巻き達ではない方から声が聞こえてきた。
「ねえねえ、あの人が白雪グループの令嬢かな?」
「取り巻き連れて話してるなんて庶民と格の違いを見せつけたいのかなぁ」
あからさまに悪口を言っている。
「令嬢様はさ、白雪グループの令嬢ってだけで入学したらしいよ」
「え、何それ。ずるっ」
「だよねぇ。うちらは頑張って結果出してんのに」
「最悪だわ〜。同じクラスになりたくないね」
律は自分の顔が険しくなってくるのを感じた。
白雪グループは数年前から権力を伸ばしていて、今の地位についている。だからそれを妬んでいる人は少なくないのだ。
だが、悪口を言った人は明らかに玲衣に聞こえるように言っていた。見返りが怖くないのだろうか。相手は最高権力者の娘である。今ここで退学させられてもおかしくないというのに。
いや、その前に人の悪口を言うことはどうかと思う。律はドス黒い感情を吐き出すようにため息をついた。
これから彼らと同じ学年で一緒に生活していく。律は気が滅入りそうだった。
律は玲衣に視線を向けた。彼女は今、どんな表情をしているのか気になって。でもその顔は、微笑んでいた。まるで聖女の微笑みかと思うほどに整えられた笑顔。
玲衣は取り巻き達が文句を言っているのを笑顔でなだめている。
慣れているのだろうか。なんともないと言いたげな顔で余裕すら感じられる。
(さっき一瞬だけ悲しそうな顔をしていたのは俺の気のせいか…)
そうこうしているうちに、昇降口にクラス分けの表が貼られた。皆が一斉に見ようと集まって行く。律もそっちに行こうと立ち上がって歩き出した。
律は1年1組だったため、比較的早く見つかった。
もう昇降口は開いていて、皆、続々と入っていく。律もその中に入っていった。
1年1組の教室に律が入ると、もう半分以上の人がいて、立って話したり、静かに座っていたりと自由に過ごしている。
律はとりあえず自分の席を見つけて座る。左右を見れば、ほとんどの人が複数人で固まっていた。律は、ふうっとため息をつく。
数分もすれば全員が教室に集まった。先生が指示を出し始め、体育館に集められた。
綺麗に並べられた椅子に座ると、全員が座ったことを合図に入学式が始まった。
式の内容はあまり変わり映えのしないものばかりだった。お祝いの言葉だとか、校長先生の話だとか。律はそれらをボーッと聞いていた。お祝いしてくれるのは嬉しいが、ずっと座って話を聞いているなんて眠くなるに決まっているし、退屈でしかない。
(早く終わってくれ…)
律がそんな事を考え始めた時。新入生代表で、玲衣が呼ばれた。
玲衣は綺麗に立ち上がり、壇上へ歩いていく。その動きは洗練されていて、1つ1つの動きに迷いはなく、流れるように壇上へ上っていった。彼女の隙のない、美しい動きは誰の目もくぎ付けにされ、律でさえ無意識に目を奪われる。
玲衣は目線を全体に巡らせ正面を向き、すうっと息を吸った。それだけで会場全体がしんっとなる。何の音もしない。律は無意識に息を止めた。
本当に時が一瞬止まったように感じられた。
玲衣は芯の通った声で流れるように話し始める。皆の注目が一気に彼女に集まったが、玲衣は堂々と話し続けていた。彼女の声だけが会場に響く。
玲衣が話し終えると、どっと拍手が沸き起こった。それはもう、盛大に。それでも彼女は薄く微笑むだけで壇上を後にした。
その後白雪グループの会長が来る予定だったのだが、急遽来れなくなったらしく代わりに校長先生が前に出た。
「今から会長の代わりに表彰式を行いたいと思います。入学テストで上位5名の人の名前を呼ぶので呼ばれたらこちらへ来て下さい。」
校長先生はそう言って次々に名前を呼んでいく。が、行くのを迷ってるのか誰も壇上へ行く気配がない。
入学テストは、一般試験とは別ものだ。クラス分けをする際に参考にしたいがためにやるものだと勝手に思っていたが、まさか表彰式をするなんて。
「早く来―」
校長先生がもう一度言おうとした時、誰かがすっと立ち上がった。
玲衣だ。彼女は皆の視線をもろともせず颯爽と進む。
(すげぇな…)
何というか、貫禄があるというか。
玲衣が立ち上がると、他に呼ばれた人も恐る恐る玲衣に続いて壇上へ向かう。
ホッとした校長先生はそのまま式を進めていく。
「テスト結果で学年1位の成績を収めた、月城結翔!」
体育館中に名前が響きわたる。名前を呼ばれた男の子はビクッと肩を震わせて自信がなさそうにうつむきながら賞状を受け取った。
(何でビクビクしてるんだ?)
この超エリート高校で学年1位の成績を収める実力があるのなら、中学校でも良い成績を残しているだろうに。
(まぁ、緊張してるだけか)
律は深く追求するのをやめた。
そして退屈な入学式は終わりを告げる。
入学式の翌日。高校生活1日目は学校を周ったり、授業のオリエンテーションがあったり、自己紹介をしたりと、軽めの内容ばかりだった。
(それにしても、進め方ってやっぱ特殊だわ)
律は帰りの準備をしながら、ふとそんな事を思う。
授業内容は普通の高校と同じような内容なのだが、進め方が違うらしい。まずどの教科でもクラスわけをする。
例えば国語は苦手だけど数学が得意で入った人と、数学は苦手だけど国語が得意で入った人では出来る難易度が違う。だから基本的にA,B,Cでクラスわけをされるそうだ。
勉強だけではなく、何もかもが充実していると律は思う。校舎もしっかり整備されているし、食堂もメニューが豊富にあった。すごく優遇されているとひしひしと感じられる。
(さすが領成高校か)
律はリュックを背負って教室を後にする。すると、廊下のはしで話している人達を発見する。
(げっ…白雪玲衣)
律は早々に退散しようと早歩きで前を進む。めんどくさい事に巻き込まれたくはない。
だが、通り過ぎる瞬間に玲衣の微笑んでいる顔が、昨日よりほんの少しだけ暗く、疲れているように見えた。
慣れない廊下を歩きながら出口へ向かうと、2人の男子生徒が話しながら前を歩いていた。横を向くときに見覚えのある顔が見える。
(あの人達って同じクラスの人か?)
元気そうな男の子は楽しそうにしている。
(隣の人って学年1位の人か)
仲がいいのだろうか。今日の自己紹介で周りからの好機な眼差しを受け、あんなにビクビクしていた彼は今や楽しそうに元気そうな男の子と話している。
(友達いるんだ…)
律は少しばかり驚く。勝手にぼっちと思っていたのだ。偏見は良くない。
(友、達、ね)
そう心の中で呟くと鉛を飲み込んだかのように重く、何かがのしかかった気がした。
それと同じタイミングでさっきの玲衣の顔が頭にちらつく。まるで、明日死ぬ決意をしたかのように絶望の色が見えた。
(気のせいだ)
出会って2日も経っていない。彼女の些細な変化が律なんかに分かるはずがない。
だと言うのに何故か玲衣の暗い顔が頭から離れない。
(俺には関係ないし、多分関わることもない)
無理矢理そう自分に言い聞かせて玲衣の暗い顔を頭から振り払った。
(早く帰ろ)
律は複雑な感情を見ないフリして校門を出た。
入学式から約二週間が経過し皆ぎこちなさが少なくなり、律も高校に慣れてきていた。
今は昼食の時間。ほとんどの人は食堂にいて、メニューを選んでいたり、固まって話していたりと自由に過ごしている。
食堂は全校生徒が余裕で入れるような広さがあり、今もいろんな学年の人がそこらかしこにいる。
ちなみにこの学校の生徒は、学生証を見せるだけでメニューが半額になるという素敵なシステムがあり、それを利用してる人は多く、律ももちろん使わせてもらっている。
律も昼食を食べようと注文する。迷ったが、Aランチの唐揚げ定食に決めた。
食堂をぐるっと見回し、空いている席を探す。
(あそこがいいか)
律は見つけた席に腰掛け、目の前の唐揚げ定食をじっくり観察する。
(うまそ〜)
満足してから割り箸を割り、手を合わせて美味しくいただく。
「うまっ」
脂の乗ったジューシーな唐揚げは下味が効いていて少し濃いめな味付け。そして唐揚げを食べた後にほかほかのご飯を口の中に放り込むと一気に満たされる。
(ここの食堂優秀すぎだろ)
律が幸せに浸っていると、隣のテーブルからわざとらしい声が聞こえてきた。
「玲衣様!本日も学食を召し上がるのですか?」
「家のシェフに作らせればよろしいですのに」
律はそれを聞いた途端、幸せな気持ちが一瞬で吹き飛んだ。というか、吹き飛ばされた。
(この唐揚げ定食を舐めるんじゃない!)
律は心の中で反論したが、無駄だとすぐさま気持ちを切り替え、続きの唐揚げ定食を美味しくいただくことにする。
「こんな庶民の味で玲衣様の味覚が狂わないか心配ですわ」
隣のテーブルからまた何か聞こえてきたが律は聞かなかった事にする。
「そうでしょうか?わたくしはこの学食、とても美味しいと思いますよ」
(え!?)
予想もしていなかった言葉が聞こえて、律は自分の耳を疑う。
聞いている限り、玲衣は曖昧に返答していたり、微笑んでいるだけの事が多いように思う。だが、聞こえてきたのは異論の声。
取り巻き達も驚いたのか「そう、ですか…」と呆然としている。
(白雪玲衣って何か不思議な人だな)
そう思いながら律は机の死角で小さくガッツポーズをした。
⬜︎◆⬜︎◆⬜︎
お昼休みが終わり、玲衣は次の授業の教室に行こうと廊下を歩いていた。
(疲れました…)
玲衣は久しぶりに1人でいる。取り巻き達よりも早く教室を出たからだ。
1人は本当に気楽だと玲衣は思う。作り笑顔をしなくてもいいし、取り巻き達のトゲがある発言にひやひやすることもない。
本当の自分を出せるのは1人の時だけかもしれない。だが、そう思うだけ不安になる。これからもっと取り繕うことが増えるはずなのだから。
(やっていけるのでしょうか…)
中学校ではずっと1人ぼっちだった。当時はそれがすごく悲しかったが、今思えば取り巻きがいなかったそっちの方がよほど気楽だったのかもしれない。
初めての友達がつくれるかもと高校に入るまでは考えていたが、それは叶わない夢になりそうだ。
玲衣はつい、はぁとため息をつく。すると、おずおずとこちらの様子を伺うように女子生徒が近づいてくるのに気がついた。
「どうかしましたか?」
「えっと、わ、私、あなたと話してみたくてっ」
彼女の発言に玲衣はびっくりした。いつも取り巻き達が周りにいるせいで玲衣に話しかけてくれる人は極々少ない。でもまさか話しかけてもらえるとは。
玲衣は嬉しくて疲れた気持ちなんて一瞬で吹き飛んだ。
「はい!ぜひ…」
天にも昇る勢いで返事をしようとしたが、後ろからドタバタと誰かが走ってくる音がして反射的に振り向く。
玲衣は後ろから走ってくるその人物を視界にとらえ、嫌な予感がした。
「れ、玲衣様に、何言ってんだ! 自分の身分を分かっているのか? 庶民が軽々しく玲衣様と話すなんて無礼だぞ!」
声を荒げて叫ぶその人はいつも玲衣と一緒にいる取り巻きの1人だった。
(何てことを言うのですか!というか、何でいるのですか!)
玲衣の方が叫びたい。どうやって違うと説明すれば良いのだろうか。
玲衣が考えていると掠れた声がしてはっと女の子を見る。
彼女は目に涙を溜めて「ごめんなさい…」と謝罪したのち、走って行ってしまった。
玲衣はどうしていいのか分からず呆然とそこに立ち尽くす。消失感で胸が苦しい。
玲衣が呆然としているのなんて気にもとめず、ましてや自分が元凶なんて小指の爪先さえも思っていない取り巻きの1人がにこやかに話しかけてきた。
「玲衣様!ご無事でしたでしょうか?教室に玲衣様がいらっしゃらず、心配してきたのですよ」
その言動に玲衣はカチンとくる。心配してくれたのは嬉しいが、来なくて良かった。せっかく友達になれるかもしれなかったのに、あの様子では二度と声をかけてくれないに違いない。
いっそこのまま感情的にこの男に全てをぶつけてしまおうか。
『玲衣お嬢様、感情的に動くことは淑女としてありまじき行為でございます。感情的に動いてしまえば取り返しがつかなくなる事態が起こってしまうかもしれませんよ』
心の中でそう響く。玲衣は目を閉じてどろどろに煮えたマグマのような気持ちを押し殺す。
感情的に動いてはいけない。玲衣は目をゆっくりと開き、何度も練習して身体に覚え込ませた最上級の笑顔を作る。
「失礼いたしました。楽しそうにおしゃべりしていらしたので先に行こうと思いまして」
これは嘘だ。一刻も早く1人になりたくて、彼らの様子なんて確認していない。
「申し訳ありませんが、お手洗いに行きたいので先に行ってくださって構いません」
玲衣は今彼と一緒にいたくない。いたら溜まった鬱憤が出てきてしまいそうで。
「いえ、私は玲衣様をお待ちいたします。玲衣様がお1人になられると先程のようなよからぬ連中が寄ってきますから」
彼は火に油を注いでいるとはつゆほども思っていないのだろう。自分は正しい事をしていると。
「心配してくださりありがとうございます。ですが先に行ってください。待ってもらうのは心苦しいですから」
玲衣はそう言い、彼の返事を待たないうちに廊下の角を曲がり、壁にもたれかかる。
「はぁ…」
早くさっき話しかけてくれた女子生徒を探さなくては。見つけて、あの男が言ったことは違うと、話しかけてくれて嬉しかったと伝えなくては。
玲衣が歩き出そうとすると、後ろから声がかけられた。
「あのぉ、玲衣様だっけ?私と友達になってくれないかなぁ?パパがあなたと仲良くしたいんだって。私のお家に来ない?」
彼女は猫撫で声で言い寄ってきた。
彼女の父親が玲衣と仲良くしたいのは地位目当てや世間体を気にしているからだろう。’’白雪グループの娘’’と仲良くしたいのであって’’白雪玲衣’’と仲良くなりたいとは思っていないのだ。
「申し訳ありませんが、予定が詰まっていますので難しいと思います」
玲衣はそう言い放ち、声をかけてくれた女子生徒を探しに行く。
少し歩けば廊下のはしで彼女がいた。玲衣はすぐさま駆け寄ると、その子は泣いていた。
玲衣は何と声をかけるべきか分からなくて戸惑っていると、その子は涙声で「ごめんなさい…」と謝ってきた。
「もう何もしないので、退学にしないでください。お願いします」
彼女はそう言って頭を下げてから去って行こうとする。
「待って…」
慌てて止めようとしたが、彼女は行ってしまった。玲衣の伸ばした手は何も掴むことなく、空をきる。
(なんでこうなってしまったのでしょうか…)
ただあなたと友達になりたかっただけ。普通に生きたかった。白雪グループの娘としてではなく、白雪玲衣として誰かに接して欲しかった。
だけど現実は、作り笑顔で取り巻き達と過ごす日々。
(もう疲れました…)
自由に生きたいのに。それは叶わない。
突然、玲衣は強烈な眩暈に見舞われた。立っていられなくてその場にしゃがみ込む。その次に気持ち悪くなってきて、玲衣は目をぎゅっとつぶる。
(誰か…)
⬜︎◆⬜︎◆⬜︎
律は今、移動教室に向かっている最中。歩きながら律は悶々としていた。
(ぜってぇ具合悪くなってきてるよなぁ)
律が悶々としている事は、玲衣の事である。学食を食べている時に気になったのだ。
玲衣は入学式からどんどん顔色が悪くなっていると律は思っていた。そして今日は一段と顔色が悪い。律の気のせいならいいのだが。
(ん〜でも、取り巻きが気づいてないから違うのか?)
律はいろいろ考えているがそれはただの言い訳だ。彼女の異変に気付いているのに1回も声をかけていない。
怖いのだ。何か言われたらどうしよう、相手が不快な思いをしたらどうしよう、勘違いだったらどうしよう。
行動する前にいろいろ考えて、言い訳を作って、行動しようとしない。それに直面するたびに自分は臆病な人間だと再確認して、嫌になる。
「はぁ…」
ため息を吐きながら階段を降りると、隅の方で誰かがうずくまっているのを発見した。
(え…!?)
こんな事態に出会ったことなんてない。律は戸惑いながらも、うずくまっている人に駆け寄る。
「あの、大丈夫で―」
律はうずくまっている人の顔を見て固まる。
(白雪玲衣!?)
うずくまっている人が玲衣だと分かった瞬間、律は途端に罪悪感でいっぱいになった。
彼女の顔はもう真っ青で血の気がない。ぐったりとしていて、律が少し揺らすと玲衣の体はぐらっと傾くくらい。律は慌てて玲衣を支えた。
(クソ…)
見てる方が辛くなってくるほど玲衣の容体は良くない。この場合、どうすればいいのだろうか。とりあえず保健室に連れて行って…。
(どうやって!?)
彼女はぐったりとしていて、歩くのはおろか、立つことさえできない。
律は迷ったが、今は緊急事態だ。覚悟を決める。
「すいません、連れて行きますね」
返事をしない玲衣にそう呼びかけてから玲衣を抱える。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
玲衣はぐったりとしているがそれでも軽い。華奢な体が弱々しく見えて律の心の中は罪悪感でいっぱいだった。
保健室のドアを開けると、保健の先生と目があう。先生は事情を察したらしく、慌てて律の方に来た。
「ちょっとちょっと!どうしたの!?」
「移動中に廊下の隅でうずくまっている彼女を発見しまして…」
律はそう答えながら玲衣をベッドに寝かせる。彼女は真っ青な顔で今も苦しそうにしていた。
「あら、そう…」
先生は神妙な顔で頷いているが、妙に演技っぽい。律がそう思ったのが分かったのか先生は耐えきれずにふふっと笑いだす。
「ちょっと…!」
玲衣が苦しそうにしているのに笑うなんて、先生として大丈夫なんだろうか。
「ごめんごめん。なんか少女漫画みたいに思えてきちゃって。ほら、あるじゃない?両片思いの男女2人に起こったアクシデント!彼女の具合が悪くなってしまい、彼氏がお姫様抱っこで保健室に連れてくるっていうやつよ〜。これだから保健の先生はやめられないわね」
反省しているのかしていないのか。本当に大丈夫だろうかこの先生は。
「俺、もう行きますんで」
心配になってくる先生だが、もう行ったほうがいいだろう。授業はもう始まっているし、誰にも言わずに来たから迷惑をかけているはず。
「え!?彼女についててあげなくていいの?付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってません!」
律は食い気味に否定する。だが先生はにやにやと意味ありげに微笑む。
「あ〜分かってるわよ。両片思いなのね」
「違います!」
律は、はぁっとため息をつく。ちらっとベッドを見ると玲衣はさっきと変わらず、見てるほうが苦しくなってくるほどに具合が悪そうだ。
(俺が何か言ってあげていたら彼女は今、苦しまずに済んだのかもしれない)
自分のちっぽけさに腹が立ってきた。
「授業遅れてるのでもう行きます」
律はそう言い残して保健室を後にした。
⬜︎◆⬜︎◆⬜︎
「ん…」
玲衣はゆっくりと瞼を開ける。
(また嫌な夢を見てしまいました…)
最近は、疲れがが溜まっていて必ずと言っていいほど嫌な夢を見る。それが怖くてなかなか寝れていないのだけれど、どうやら寝てしまったようだ。
のっそりと起き上がると、頭がくらっとした。
(そういえば廊下の隅で具合が悪くなって…)
困ったことにその後の記憶がない。辺りを見回すとどうやら保健室で寝ていたようだ。
「あら、起きた?」
玲衣の起きた気配がしたのか保健の先生がベッドを囲っていたカーテンを勢いよく開ける。
そのまま玲衣の顔をじっと見て、「顔色良くなったわね」と安心したように言った。
「はい、さっきより気分が良いです」
まだ完全には回復していないけど寝れたようで今はすっきりとしている。
「良かったわ…もう無理しないようにね。あ、そういえば…」
先生は何やら思い出したようで向こうへ行き、すぐに戻ってきて玲衣に付箋を渡してくれた。
「あのね、あなた廊下の隅で倒れてたみたいだからたまたま居合わせた男の子がここまで連れてきてくれたのよ〜お姫様抱っこで」
先生は心なしか少しはしゃいでいる。
(連れてきてくれたのですか!?お、お姫様抱っこで…)
玲衣はなんと反応すればいいのかわからない。無意識に顔が熱くなってきたような…。
玲衣は恥ずかしさを紛らわすように手元の付箋を見た。そこには、かくかくした男の子っぽい字が丁寧に並べられている。その内容を読んでつい、くすっと笑ってしまった。
『お大事に。あんま無理しないでください。月島』
そんなに特別なことなんて書かれていない。むしろ決まり文句だけれど玲衣はじわじわと嬉しさが込み上げてきた。
玲衣が嬉しさに浸かっていると、ベッドの向こうで何やら騒がしい声が聞こえてきた。
玲衣は気になってまだふらふらする体を持ち上げ、カーテンの隙間から向こうの様子を伺う。
「俺は良いですって。彼女の様子がどうなったかを聞きに来ただけです」
「そんなこと言って〜ほんとはあの子の顔が見たかったんでしょ?大丈夫!私は邪魔しないわよ」
「何言ってるんですか…!って…」
玲衣は彼と目が合ってしまった。気まずい。玲衣は急いでふらふらする体を動かしてベッドへ戻ろうとする。
「あっ…」
突然、頭がくらっとして反射的に目をつぶる。するとまだあまり力の入らない体が崩れる感覚がした。ぼーっとしている思考で転ぶと体を身構える。
「…っぶねぇ…!」
玲衣は焦った声を聞き、はっと目を開ける。すると、腕を掴まれて焦っている様子の男の子と目が合った。
助けてくれたのだ。玲衣はお礼を言おうと口を開こうとしたが、先に男の子が口を開く。心なしかむっとしているようだ。
「何してるんですか!?まだ完全に回復してないんだから休んでてください!」
玲衣はそう言われ、強制的にベッドに寝かされる。
男の子はじっと玲衣を見て「体調どうですか?」と聞いてきた。
玲衣は戸惑いつつも大丈夫だと伝えた。
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
こんなに心配してくれているのに彼に見覚えがなかった。
「あぁ、えっと、月島律です」
(つきしま…?)
そこであぁと思い出す。付箋の最後に書かれた名前と同じだ。
彼は優しい人だなと玲衣は思う。
すると隣からまた視線を感じた。
「大丈夫じゃないですよね?さっきだって倒れ掛けてたのに。顔色、まだちょっと悪い気がしますが」
彼、律は眉間に皺が寄っている。
(怒らせてしまったのでしょうか…?)
玲衣は慌てて、これ以上心配されないように微笑む。
「大丈夫です。助けてくださってありがとうございました」
そう言ったのに律はさらにむっとした。
「嘘だ。元気じゃないのにそうやって笑って隠して。平気なふりして。倒れるまで我慢するなんて阿呆か!」
律の突然の罵倒に玲衣はびっくりする。
「元気じゃない時は誰かに言わないと分かんないだろ!何でそうやって感情押し殺すんだよ…あ…」
律は、しまったという顔をして気まずそうに視線を下げる。
「すいません…。何も知らないのに勝手なこと言って。俺行きます」
彼はそう言い残して行ってしまった。