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鈴谷さん、噂話です

大人気のゲームイベント

 新聞サークルのサークル室で園田タケシ、通称ソゲキがなんだか騒いでいた。

 「完全に騙されましたよ!」

 多分、完全に騙されていない。

 いや、知らないけど、こいつの言う事は大体が外れているので、きっとそうだと僕は思ったのだ。

 「あのゲームは人気でも何でもなかったんですよ! それなのに、“大人気”なんて誤情報を掲載してしまいましたよ! これは印象操作を狙った奴らの陰謀です!」

 うちは大学の新聞サークルだ。だから当然新聞を発行している。このソゲキは一応は新聞サークルの一員で、だから当然記事を書く。ただ、あまり積極的には参加しない奴で、参加したらしたで僕らが迷惑を被る事も多いので、それほど参加して欲しくはないのだけど、とにかく偶には記事を書く。そして、つい先日書いた記事で、こいつはちょっとした“やらかし”をしたらしいのだ。

 ただし、今回のやらかしの件については、一点だけこいつに感謝をしなければいけない事がある。

 鈴谷さんが尋ねた。

 「……それで、一体具体的には何があったの?」

 そう。

 ソゲキの奴は「騙された」と主張して彼女、鈴谷さんを呼んで来てくれたのだ。彼女は民俗文化研究会に所属しているのだけど、妙に勘が鋭くて、簡単に悩み事を解決してくれたりする。だから、ソゲキは彼女に相談したのだろう。

 そして、僕、佐野隆は彼女に惚れている。それはもうえらい勢いで。だから彼女が来てくれる事は僕にとって非常にありがたいのである。

 

 ちょっと前に、うちの大学がゲームイベントの会場になった。今、流行り…… かどうかは分からないけど、少しずつ広がっているいわゆるeスポーツというやつだ。

 そのイベントの記事をソゲキは書いた。そのイベントは、なんとかというマイナーな対戦型格闘ゲームの対戦会だったのだけど、それはそこに何故か多くの女性が集まって来ていたからだったらしい。

 「こんなに人が集まって来るのなら、このゲームは人気があるに違いない! しかも、女の子人気が高いだなんて!」

 実はこの時点で僕と新聞サークル員の一人の火田という男はその情報をかなり疑っていた。格闘ゲームは女性に人気のあるジャンルではない。

 本当に女の子に人気なのだろうか?

 ただ、大学の外から女の子がたくさんやって来ている点だけは事実だ。大きな嘘はついていない。それに人気がまったくない漫画やゲームに“大人気”という煽り文句を付けるのなんて普通にある事だから、そのままその原稿を通したのだ。

 が、後日、やっぱり“大人気”というのは誤りだと発覚したのだ。軽い苦情があり、ネットで調べてみるとほとんど注目されていないゲームタイトルだと分かってしまった。

 ――で、

 

 「完全に騙されたんですよ!」

 

 と、ソゲキは騒いでいる訳だ。

 どうもこいつはゲーム会社かファン団体が、宣伝をする為にこの新聞サークルを騙したとか思っているらしい。

 が、もちろん、それはどう考えてもおかしい。大学の新聞サークルの新聞で取り上げられたくらいじゃほとんど宣伝効果がないのは明らかだからだ。しかも、トップ記事でも何でもないし。

 話を聞き終えると鈴谷さんは「ふむ」と呟いてこう続けた。

 「“裁判の傍聴をする為に、行列ができている”なんてニュースが流れる事があるのを知っている?

 これ、間違っているニュースではないのだけど、正しいニュースでもない場合があるそうなのよ」

 ソゲキはそれに不思議そうな顔を見せる。

 「どういう事ですか?」

 「その傍聴を待つ行列のほとんどは、新聞記者やテレビ関係者、つまりマスコミ関係者だったりするらしいの。一般の人達が集まった訳じゃない。

 今回のそのゲームイベントの件も、似たような感じじゃないの?」

 それに僕は疑問の声を上げた。

 「つまり、その女の子達は、ゲーム会社の関係者だって事? いや、それはないよ。女の子ばかりだよ? そんなゲーム会社はないって」

 いや、知らないけど。多分ない。

 それに彼女は「そうは言っていないわ」と続ける。

 それから、「そのゲームイベントの宣伝とかって今でも見られる?」と尋ねて来た。

 「ネットのページはまだ消されていないと思うけど」と僕が答えると、「ちょっと見せてくれない?」と頼んで来た。ノートパソコンで検索をかけてそのページを見せる。彼女はしばらくそのページを眺めていた。何にも見つからないと思う。僕らだって何かあるのかと思って調べたんだ。

 やがて彼女は何を思い付いたのか、検索サイトを開くとキーワードを打ち込み始めた。「何をしているの?」と僕が尋ねると、

 「物理学者のアインシュタインが人気になった切っ掛けって知っている?」

 と彼女は訊いて来た。

 「いや、知らないけど」

 「マンハッタンの最南端、バッテリーにある港に集まっていたシオニズム運動を支持する為に集まったユダヤ人達を、アインシュタインを歓迎する為に集まったと勘違いをした新聞記者達が、大きく新聞記事で取り上げたからよ」

 彼女が指定した検索キーワードを見てみると、ゲーム名とイベント名、そしてそれに加えて“アイドル”という文字がスペースを空けた上で入力されてあった。

 僕は首を傾げる。

 “これに何か意味があるのだろうか?”

 が、それから彼女はこう言ったのだ。

 

 「これじゃない?」

 

 見てみると、検索された結果の内の一つにSNSに投稿されたコメントがあった。クリックすると、「絶対に行きます」、「ゲームが分からなくても大丈夫ですよね?」なんて返信がたくさん書き込まれてあった。恐らくは女の子達のものだ。

 それから、別窓で再び彼女は検索をかける。

 「どうも、このコメントをした人、アイドルっぽいダンスグループの一員みたいよ。もちろん、マイナーだけどコアな人気があるみたい。その人がこのマイナーゲームのプレイヤーだったのよ」

 「つまり……」と僕は言う。

 「そういう事、そのゲームイベントに集まった女の子達は、このダンスグループのファンだったのね。ゲームが好きだった訳じゃない。それをソゲキ君は勘違いしちゃったのよ」

 それを聞いて僕はソゲキを見てみた。ソゲキは目をパチクリとさせている。一呼吸の間の後に口を開いた。

 「つまり、そのアイドルもどきは、ファンを使ってボクらを騙したワケですね!」

 「なんでそうなるんだよ!」

 と、僕はツッコミを入れた。

 

 ……本当に人騒がせな奴だと思う。

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