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早く帰ってカツカレー食いたい

前回はなんかノリで書いちゃって長続きしなかったので、今回はもうちょい気楽な感じになります。

気楽に人が死んでいくかもしれません。

不定期更新の予定です。よろしくお願いします。

ソッコーで書き直しました。ノリで書いてるから……

 おいおいおい。

 おいおいおいおいなんだありゃ。


 ばら撒いたマシンガンの弾が、まさかの全弾ハズレである。

 男にとっては信じられないことだった。

 男の乗る人型兵器(HT)は確かに性能は低い。低いと言うか、低い。底辺だ。

 最低限のシステムで鉄の、金属製の巨大な人間である人型兵器を動かすための、本当に最低限のものしか積んでいない。

 もちろん、動くのだからそれで良いし、それで良かった。


 だが。


(おいおいおいおい冗談じゃねえぞ。

 一発も当たらないなんてことある?マシンガンだぞ?装弾数50発だぞ?)


 火力と射程を兼ね揃えた、まあまあ良いマシンガンなのだ。

 結構高かったのだ。結構どころかかなり高かった。本体は高いけど、弾代が安いのが決め手になったマシンガンだ。

 戦果も値段相応に高いのだ。仲間内では銃の性能のおかげと言われる男の戦果だが、男にとっても同感だった。


 だったらつまり、なんだ。


(俺の腕が悪いから、こいつを使っても当たらねえって言いてえのかよ!!)



 50発の弾を撃ち切ると、弾倉は自動で交換される。

 マシンガンから弾倉が外れて放り出され、腰に付いている予備弾倉へとマシンガンを押し付ける。

 がちん、と音がして、腕を標準位置に戻して完了だ。

 大体6秒くらいかかったが、これは自動にしては遅い部類だ。もちろん、機体の性能が低いからである。


 オンボロ機体ではあるのだが、足りないことはなかった。

 男はこれに乗って、仲間たちと共にこれまで生き延びてきたのだ。


 今ちょうど、足りなくなっただけだ。



「当たれ!当たれぇ!当たれえええ!!!」


 照準がロックオンを告げると、男はトリガーを引く。

 このマシンガンの連射速度は毎分600発ほどだ。

 50発の弾を約5秒程度で撃ち切ってしまうが、弾数の差によって、平均的なマシンガンに比較すればその息は長いほうだ。

 他のマシンガンなら、装弾数は約30発が多い。

 相手がマシンガンだったとして、相手が撃ち切ってもこちらはまだ撃てる。すばらしいことじゃあないか。


 加えて威力も高めなため、当たれば大きな衝撃を与えることになる。

 相手の装甲や当たった場所によっては、たったの一発でその部位を無力化することも十分に可能だ。

 非常に強力な武器だと言えた。

 当たれば、の話だったが。


 ロックオンマークに視線が引っ張られ、相手の姿が見えた。

 照準は間違いなくロックオンしている。ど真ん中だ。

 だが、発射された弾は相手の横をすり抜けて、当たらない。

 相手の動きが速いのだ。

 度重なる戦闘が行われたこの場所には、瓦礫がそこら中に散乱している。

 その中を、相手の機体はまるで滑るように、そして踊るように動いていた。



(あれがHTの動きだッて言うのか!

 あんな動きが!

 ちくしょう!機体の性能差で押し切りやがってッ!!)


 地面には段差がある。

 凹凸も凸凹もある。

 瓦礫はHTの足に引っかかるサイズのものも多い。

 こういう場所ではホバー移動を使わないのが常だ。


 そんな場所で、毎分、いや毎秒10発のマシンガンの弾を、しかもロックオンした状態で撃たれた弾を、弾が、全部、全て、何ひとつ当たらない。

 同じHTなのに自分はがしょんがしょんと歩き回り、相手はホバー移動でスムーズに滑っていく。

 瓦礫が当たっているはずだ。

 段差に引っかかっているはずだ。

 なのに姿勢は変わらない。何の障害も無いと言わんばかりに、時にはまっすぐに。時には鋭角に。時にはくるくると回転さえする。


「ふざけんなよおおおッッ!!」


 男が吠えた。

 相手の弾は一発だけ。

 相手もマシンガンであろう弾が一発だけ発射され、左腕の二の腕部分に当たった。

 装甲部分だ。コックピットも多少揺れたが、大した衝撃ではない。

 だがその一発が、男には強い衝撃を与えた。


 たった一発の弾が。

 こっちは50発、いや何発撃っても当たった気配がないのに。

 向こうはたった一発の弾が。

 狙いすましたかのように命中する。

 男の歯ぎしりと、内心の叫びが響いた。


(ふざけんじゃねえよおぉおぉぉお!!)


 圧倒的な差が、そこに示されたのだ。

 納得などできるはずもない。

 理解さえできるか怪しい。

 こんなにも差があっていいのか。

 同じ人間なのに。

 同じ人間なのに、一人で勝てる相手じゃない。


「クソッ!!」


 だが思い出した。男には仲間がいる。

 相手が何を考えているのかなど知らないが、撃ってきたのは一発だけだった。

 ナメているのか。ナメられているのか。

 この際どうでもいい。

 仲間と一緒にかかればあんな奴、簡単に叩きのめせるはずなのだから。



(ジュストは、グラケスは、馬季(マーキ)は……!)


 機体の推進器を吹かしながら、散乱する瓦礫を押しのけて敵から逃げる。

 仲間は一体何をやっているんだと悪態をつきながら、距離を取って周囲の状況を確認すれば、だ。

 目に入ったのはその仲間の機体、の、エンブレムが描かれた腕であった。

 そのちょっと奥に、胴体のど真ん中から黒煙を上げている人型兵器が転がっている。


「……なん、で……」


 馬季の機体だった。

 うちのチームでも図抜けて腕の良い、性格は多少悪いが本質は良い奴だった。

 男が状況を理解した瞬間、ボンと音を立て、倒れた機体のコックピット付近から青い炎が上がる。

 エンジンの燃料に引火した時の小さな爆発だ。中に人がいるなら蒸発する。



「クソがあぁぁああぁああッ!!」


 ”奴”のせいだ。

 奴が来なければ、こんなことには。

 何もかもが奴のせいだ!


 奴さえ来なければ、いつも通りだったのに。

 いつも通りにぶっ殺して、いつも通りに奪い取って、いつも通りに酒飲んで女を抱いて、最後にぶっ殺しまくって寝るだけの。

 いつも通りの、”日常”が。あんまりにもあっさりと崩れ去って。


 奴が来たから。

 奴が、奴さえ来なければ。


「こんなことにはァァアアアアア!!」


 逃げるのはやめだ、絶対にぶっ殺してやると咆哮を上げ、相手がいた方向に向き直る。

 しかし、だ。


 男が倒れた機体を確認して、状況を理解して、仲間のことを思い返して、そして、叫んでいる間に。


 背後に回り込まれていたのは、別に相手の機体の性能が高かったからではない。


 そもそも、男がレーダーを見ていなかっただけだ。



「――」



 次の瞬間には、男の視界も、声も、意識も、何もかもが途切れていた。

 巨大な杭が、男の体ごとコックピットを押し潰したからだ。



--



「着信。観測機からです。

 目標の撃破を確認、作戦は完璧に遂行された。――とのことです」


 本来ならば、通信室でわざわざこのことを喋る必要はないのだが、今日は違った。伝えるべき相手が通信室に来ていた。

 とある都市の外縁部……と言ってもかなり離れた位置にあるのだが、辺境と言ってもいいその地域が、しばらく前からならず者に襲われ続けていると連絡があった。

 どうやら本来報告を上げるべき治安維持部隊の一部がならず者に合流したらしく、現地は随分と混乱したらしい。

 公務員の離反はそれなりのスキャンダルではあるものの、責任者として頭を下げるのは、背後に佇む男にとってはまあまあ日常茶飯事である。

 それもこれも、この都市の生活基盤に問題が多いからだろう。


 それでも、ならず者たちの勢力が大きくなるのは、都市としては避けたい問題だった。

 下手に成長してしまえば都市の立場を脅かす存在になる。上層からの不満を逸らすにも限度があることくらいは、男も十分理解していた。

 まあ、だからこそ潰しに向かわせただけだが……


「正規部隊があれだけ苦労したものを、随分とあっけないものだな……」


 背後の男のこの言葉に、通信役の女性は大きなため息をすんでのところでこらえた。

 彼女は実のところこの件で通信を受け、普段は執務室にいる背後の男に報告するのは3度目になる。

 2度は失敗したのだ。1度目は中隊規模で。2度目は2中隊に増やしても。

 3度目の正直……などとは言わないが、この3度目の話より前に、女性は男の無能さを先に考えた。


 それもこれもこの男が、非戦闘員を危険にさらさないためという名目で、現地で補給と整備を行う、なんてことをやらかしたためだ。

 現地の人間が裏切っているのに、その現地に補給と整備を任せようという底無しに間抜けな指揮。

 行かされる羽目になった兵士たちには可哀想という感想以外に浮かばない。この話が広がって、この都市の正規兵が随分と傭兵に転向したりもした。

 それを背後の無能は能力の欠如として嘆くのであるからして、まったく救いようがない。


 無能な味方は有能な敵よりも恐ろしい。

 とは言え、中流階級(ドーナツ民)である自分は政府には逆らえないし、無能を罰する法律があるわけでもない。

 全くやってられない状況ではあったものの、それがこうしてなんとかなったのは、とある傭兵からコンタクトがあり、都市としては破格の条件でならず者の討伐を依頼したのだという。

 そういう事務を担当している同僚とのお喋りで知ったことだ。


 当初、背後の無能はよもや傭兵ごときにと考え、断る意向だったのだという。

 しかし部下はその傭兵のことを良く知っており、可能性に賭けて無能を説得したのだそうだ。

 説得と言うかヨイショというか。散々持ち上げておだてたらしい。

 そうして説得された無能はまさにお立ち台の上の猿だったらしい。笑っていいところかそれ?


 その傭兵はソロ活動だという話だったので、集団になりつつあるならず者に対抗できるのかという不安も挙がったが。

 報酬は成果報酬で、できるだけ値切ったことと、別に傭兵が失敗したところで都市の名誉は傷付かないということで、物は試しでとなったのだ。

 

 結果として、ならず者たちは掃討されたというわけだが……


「まあいい。犯罪者どもは片付いた。正規部隊の無能さも証明された。

 問題はない」


 そう言って踵を返す男に女性は、


(通信室の一オペレーターにぶつくさ独り言ってマジやばいわ)


 辞めよう。

 そしてその辺の傭兵のオペレーターとしてでも潜り込もう。

 そう決意した瞬間だった。



--



「ったく、マルキオの奴め、これ幸いとばかりに自分の手柄にしやがって」


 酒場で管を巻く男はそう言って酒をあおった。

 大して酔えるわけでもない安酒にうんざりしながらも、男はぐびぐびと大きなコップを傾けていく。

 その豪快な飲みっぷりに、対面の男は苦笑いを隠せなかった。


「結果オーライだったな。

 面倒な残業ともおさらばだ」

「全くだぜ。飲めりゃいいんだ飲めりゃあよお。

 まさにこの一杯のために生きている、だぜ」

「場末の安酒でか?まあ、悪くはない」


 男は更に酒を注文する。

 調子のいい男だ。明日にはまた頭が痛えだのなんだのと騒ぐのだろう。

 とは言え、対面の男も酒がうまいのはいいことだと思っているので、わざわざツッコミはしない。

 こっちはちびちび飲む派だ。


「そういやあんな傭兵、お前どこで知ったんだ?

 ずいぶん安い値段で雇ったって聞いたがよ、あんな強い傭兵をそんなに安く雇えるもんなのかよ?」


 男が言ったのは、今日ならず者を討伐したソロ傭兵のことだ。

 情報収集に興味のない男は、傭兵に格安で依頼して、しかもなんとかなったという話くらいしか知らない。

 それも、対面の男が手はずを整えた、程度のことしか。


「あの傭兵か。ちょっと噂を聞いてたのさ。

 やけに凄腕のやばい奴がいるってな」

「どこで聞いたんだそんな話?」

「俺は財政部だろ。

 凄腕の傭兵と言ったら、収める資源の量がでかい奴だ。

 そのまんまだよ」


 対面の男が財政部だと知っていればすぐにわかるだろうが、男はそんな細かいことは把握していない。

 「ふーん」とどうでも良さそうに息を吐いた後、またコップを傾け始めた。


「それに、別に安かったわけじゃあない。傭兵相手としては相場ど真ん中だ。

 正規部隊の使う兵器が高過ぎるだけさ」

「なんだそりゃあ?安いのを買えねえのかよ?」

「どれを買うか決めるのは俺たちじゃあないからな。

 どこから買うかも同じことだよ」


 「全くやってられないな」と付け足して、対面の男もコップを少し傾ける。

 財政部というものは色々な情報を把握することができるのだろう。

 対面の男の言うことは、要するに税金の無駄遣いを意味していた。


「どうにかなんねえのかよお?

 税金税金税金だらけだ。俺の給料は半分が税金だぜ」

「フッ。クソッタレな政府に反旗でも翻すか?

 傭兵なりならず者になって」

「馬鹿言うんじゃねえよ、臆病者の俺に傭兵なんて務まるか。

 俺は平穏無事に酒を飲みたいだけなんだよ」

「知っている。言ってみただけだ。

 それに……」


 対面の男はコップを一旦置くと、にやりと笑って男を見た。

 男がコップを置くのを待って、口を開く。


「安いなんて言うけどな。

 あの傭兵に支払った額は50万だぜ」

「……は!?ごじゅうまんだあ!?

 俺の給料何年分だよ!?」

「くくくっ。

 正規部隊の兵器は一機200万するからなァ。

 都市の損失は数千万を越えていた。

 そこから50万でなんとかなるんなら、そりゃあ安いもんだよなァ」


 そういう理屈で50万の出費を認めさせたというわけだ。

 実際、数千万でできなかったことが50万でできるとなれば、それを必要としている者は飛び付くだろう。

 これが詐欺という可能性もあるにはあるが、そういった意見を封じるためにも完全後払いという形式を採った。

 それなら誰からも文句は出てこない。

 失敗したところで、都市は痛くもかゆくもないのだから。


「それが大当たりしたってわけかあ?

 全く、悪い奴だなお前も」

「まあな。

 だから、本当に結果オーライさ。

 50万さっさと払って、それで後腐れなしだ。

 厄介事を片付けてくれた傭兵には感謝しかないね」

「違いない。

 そいつにも乾杯!」



 そう言って、男と対面の男はコップを掲げた。

 上層の腐敗。中流の悲哀。外縁の治安。

 世の中がめちゃくちゃになっても、酒の味は変わらなかった。



--



 それはそれとして、とある拠点で、10歳くらいの青髪美幼女がフルジャージで物質生成器の前に立っていた。

 しばらく経って物質生成器から、できたてのカツカレー辛さレベル2福神漬け乗せ(大人一人前スプーン付き)と、ミネラルウォーターがでてくる。

 めっちゃおいしい。幼女も満面の笑顔だ。

 これが12万ドルもする。

 報酬の3分の1が吹っ飛んだ。

 そういう世界であった。



--


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