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7、きっつ、だいぶ


少年が片目を開けると、

高速で動く地面が見えた


ので、

とりあえず少年は笑顔で

……吐いた


「うっわ!汚ねぇだろうがテメェー!」


下から立髪の声が聞こえる

どうやら担がれて運ばれているらしい

それにしては柔らかい

というか毛だった



「へぇ……これが………

………よいしょ、あなたのギフトってわけですか」


「あぁ、そうだが……

……お前今、俺の尻尾で口拭かなかったか?」


補足

立髪の寄贈物は体調4メートルを越す大柄のライオンというところから『物質系寄贈物、題名 遺伝子、限定 獅子』と言ったところだろう


「で、おじさん。

どこに逃げようとしてるの?」


言い終わった後、少年は立髪の背中にうつ伏せになる


「逃げるなんて人聞の悪いこと言ってんじゃねーよ。

逃げてるんじゃなくて、お前の治療だ治療!

………まぁ正直な話、お前の目の治療という名目のもと、とりあえず、王都から距離を取ろうという寸法だ。

……というか、これは元々、お前の策だったんじゃないのか?

自分の目を潰し、簡単に寄贈物を捨てて見せ、自分が王子であるという信憑性を薄め、我々の作戦失敗の色を濃くさせ、治療という名目のもと、とりあえず悪魔から距離を取らせる………という。」


「えーと、一つにはあった……気がするけど、

そんなことより、順調に距離は稼げてるの?」


少年は仰向けになる


「とりあえず、100kmってところだな。」


立髪が息を荒げながら答える


少年が少し考えた後続ける


「あのさぁ、実際、その悪魔ってどんなやつなの?」


少し間を置いたあと、立髪が顔をゆがめながら続ける


「…………始祖の理、時の悪魔だ」



聞いた瞬間、少年は立髪の上で盛大に笑い転げる


「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!だったら、諦めるしかないじゃん!」


立髪が呆れたように返す


「お前ってほんとなんでも飲み込むよな。

普通信じねぇーぜ始祖の理なんて?」


少年は立髪を軽く小突きながら返す


「なんだなんだ!

人を異常者呼ばわりしやがって!

何も信用できないからこそ、全てを鵜呑みにしているんじゃないか!

逆に、嘘つきじゃないものを持ってきてほしいものだね!

なんせ!

………

いいや、この話は長くなりそうだから後でしよう。」


そう言って、少年は立髪の毛皮に顔をうずくめた


「その後を作るために我々は何をすればいいんだ?」


立髪が上を向きながら聞く。


「そりゃあ、本当に絵本なんかに出てくる始祖のやつだとしたら、何したって無理でしょ!」


再び仰向けになった少年が返す


「だよなぁー、やっぱりお前を人質に取ろうか……」


「なに、本人の前で物騒な話してんだよ……」


「まぁ、それも意味ないだろうがな。

とりあえず死界に向かおうと思う。

そうすれば、そう簡単には追ってこれねぇーだろ。

まぁ俺たちが死界で何秒持つかわからねぇーがな……」


補足

この世界は人間界と死界とで、底の見えない谷を境に分かれている。

人間界については字面のとおり、人が住んでいる穏やかな場所ということだが、死界についてはほとんど知られていない。

ただ、踏み入れてはいけないということを除いては……


「じゃあ、本当に僕はいざという時の餌というわけですね……」


「まぁ、それもこれも死界にたどり着ければの話だが」

「一つ策がある。」


少年が食い気味に答える


立髪が驚いて返す


「お前な……さっきどうしようもないって言ってただろうが!」


「まぁね、でもこれでも珍しいんだよ。

策が一つしかないと言うのは。」


「で、どんな策なんだ?」


「それはねぇ………………もう」

「諦めることかな?」


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


唐突に少女の声が耳元から聞こえる


少年の体は、ビビり散らかして飛び跳ねようとするが、上からかぶさる形で押さえつけられた


「し、心臓に悪いわ!

水をかけるのは足から順番にでしょうが!」


少年は震える体で前を見たまま、精一杯の去勢を張る


耳元で声が続く


「いいだろこれくらい?

私が君をどれだけ……」


森林を抜け、開けた場所に出る


それを機に、少年が振り返ろうとした時、


「あ、そうだ。

これは忠告だが、しっかり口は閉じておいた方がいい。

なんせ……彼が持たなさそうだ。」


少女は、そんなことを言いながら少年の口を押さえる



どろり



殺戮的な聖圧が覆いかぶさる

少年の左目から包帯越しに血液が溢れ出す


立髪は一切の受身を取らず前のめりに倒れ込んだ


振り落とされた少年は地面を数秒転がった後、少女に受け止められる


今度は目隠しをされながら


「やはり、そっちの彼は耐えきれなかったか……

当然と言ったら当然なのだけど、後で謝らないと……

でも君にその必要はないだろ?」


少女の指が包帯に食い込み出す


少年は今にもこと切れそうな息遣いで続ける


「か、過大評価が……すぎる……

………そんなにできる子に育てられた覚えはないんですけど!」


少年が振り返ると同時に振ったナイフが、

少女の腹部に深々と突き刺さる


少年は驚いた


驚いた理由として、自分程度が雑に振ったナイフが最強の悪魔に刺さったということもあるが、一番は少女の姿についてだった


少年は


(クルクマを摘みたい!!!)


と思ったらしい



少年は固まっていた


少女は、腹部に刺さったナイフを気にも止めず、帽子を被り直してから少年の顔を両手で抑える


「私の魔力に耐えるということは、やはり君が王子か?」


少女が首を少し傾けつつ聞く

少女の切れ目が一段と鋭くなる


「お、王子様ならあっちの方向に逃げて行きましたよ……

したがって、早速追った方がいいと思いますよ………


p.s.お腹痛くないんですか?」


少年はヘラヘラと目線を逸らしつつ答えた

完全にビビり散らかしている


(できれば、このまま何もせず帰ってくれないかな………)


そんな願望を唱えながら


「いいや、私は君に用があって、君が王子様であるかどうかについては……

……少なくとも私には関係ないんだよ。

そして………お腹は痛いよー」


そう言って少女は少年の顔を撫でだす


少年はというと、


(うっわ……終わっ、いや!

諦めるのはまだ早いぞ!)


珍しく、前向きだった


「だからこそ、そろそろ味見と行こうかな、というか味見で済めばいいが……」


そう言って、少女は視線を斜め下に動かす


「えーと、味というと?」


少年が心配そうに聞き返す


「ん?

それはもちろん君のことだが?

どうしようかな………味見ということだから、まずは皮だけかな?」


少女が嬉しそうに答える

それに対して


(もちろんってなんだよ……

そして、皮って……

味見という言葉のライトさと、私に降りかかるであろう悲劇のブラックさとで、釣り合いが取れてなさすぎる……)


少年はいつも通りの卑屈さを取り戻していた!


そして、少年が現実に打ちひしがれていると、不意に掴まれていた顔を一段と近づけさせられる


「君はそろそろ自分の魅力に気づいた方がいい」


少女の息遣いが荒くなる


「なんせ私は、さっきから君の匂いに辛抱たまらないんだよ!」


そう言って少女は、

………まぁ、辛抱たまらなさそうな顔をしていた


実際、少年からは近すぎて見えなかっただろうが、背中に悪寒が走った

よって、少年は即座に手を振り払って距離を取る


「はぁ、はぁ………じゃあ、結局のところ僕は食べられて終わりですか?」


そう言った少年の声はひどく落ち着いていた


「いいや、それだと私が長く楽しめない。」


「おっとーーー!」


少年の声色が上がる


「フフ、だからといって君を殺さないわけにもいかない」


「へ、へぇ………」


今度はひどく悲しそうだ!


そんな少年を尻目に、少女が指を挿しながら


「そこで、君の記憶を覗いて君を量産する!」


と言う


聞いた瞬間、少年の顔が曇り、少しの間を置くことになった


そして、


「へぇ……………味って記憶依存なんですね」


と、言葉上では感心していた


「で、どうやって記憶を見るんですか?」


目を合わせずに少年が聞く


「私が君の血を吸えば勝手に入ってくるよ」


そう言ながら、少女は帽子からはみ出した黒髪を触る


「へぇ………それは是非ともやめていただきたいなぁ……

………マジで、ほんとに」


そう言って少年は立ち上がる


「ん?何か止めるあてでもあるのかい?

自分で言うのもどうかと思うのだけど、私はそこそこ

理不尽だよ。

例えば………君はさっき王子様はあっちの方向に行ったと言っていたね」


そう言って少女は自分の影に手を突っ込んだ

この時点で少年はため息をついたのだが、

そこから少女は銃を取り出した

作りはショットガンのようで、真っ白な銃を、

そして、その銃口を先ほど少年が指した、立髪やその部下たちが這いつくばっている地点に向ける


「はぁ……

……本当に気が滅入る」




少女はそう言って、引き金を引いたのだろう


……なぜ、こんな不確かな言い方をするのかというと音がなかったからだ


……少女の銃口の先には何もかもがなくなっていたと言うのに


今まで見えていた兵士たちの亡骸、立髪、森や山々、地形ごと抉り取られていた


「さて、これでいくつ君の策をつぶせたかな?」


そう言って笑う少女は、なるほどの理不尽さだった


「ハハッ」


少年は地面にへたれ込んだ

片膝を立てる形で、力なく


と思えば、顔の前で手を組んだ

指の第一関節同士を合わせるように

そして目を瞑る


「……………無茶言うな、全滅だ。

正直、ここまで規格外の化け物だとは思っていなかった…………

………だから……

………策なら今から作る!」


少女が笑い出す


「ハハハハ、馬鹿にされたものだな!

私に急ごしらえの策で勝とうというのか?

それで勝機は幾つだ!

十に一つか?百に一つか?千に一つか?万か?億か?京か?

どれにしたってよりどりみどりだ!

…………………あまり舐めるなよ」


空気が重くなる


「あんたこそ勘違いしてる!」


少年が目を開く


「僕らの特徴は

『わかってないすらわかってない』だ。

あいにくお互い、神様の傀儡なんだから徳の残高対決と行こうぜ!

いや、これじゃあんたは上がらないだろうな……

……フフッ、そうだ、

グラスに正義は足りてるかい?

安心していい!

俺はあんたと一緒でカラカラだ!」


「あぁ!!!」


少年はそう言って、少年の言葉にブチギレた少女の方向に走り出した


少女は直立のまま立ち尽くしている


少年はある程度近づいたところで拳を振り上げた


それに対して少女は雑に構える


……


………通り過ぎた


いや、早とちりをしたのはこちらなのだから特に逃げたとしても何も言えないのだけど


「ハハハハッ!」


少女はとっても嬉しそうだ


少年は後ろを振り返らず、近くの茂みに向けて一心不乱に走る。




どんどん息が荒くなる





突然地面が迫り込んできた

言い換えるなら転けた







慌てて受身を取ろうとするが頭から転げ落ちた







立ちあがろうにしても、これがなかなか






それもそうだろう、





なんせ






少年の四肢は





なくなったのだから

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