5、おわかれ
そろそろ動き出します ( ̄▽ ̄)
「端的に言えば作戦の失敗、
肉付けは……僕が本物じゃないこと」
場の空気が一瞬で変わった。
言い終えると共に、少年は胸ぐらを掴まれ立髪の目線まで持ち上げられた
「いつもなら冗談は好きだが、今回ばっかりはそうも言ってらんねぇーぞ!」
立髪の恫喝により、今まで様子を伺っていた兵士たちの視線が一気に集まる
少年はここで、初めてたてがみと目を合わせながら言葉を吐く
「こんなことしてますけど、全然さっきの言葉、信じてないのでしょ?」
「………まぁな」
両者笑いながら続ける
「その馬鹿に目立つ左目、それがある時点で王族である証明だ。
そしてお前のその聖圧、到底偽物が出せる質じゃねぇぜ、坊ちゃん!」
聞いた瞬間、少年が笑い出す
「こそ泥風情が、聖圧を語るなんて!
片腹痛しッ!」
少年が言い終わるより先に、胸ぐらをつかんむ手に一層力が入る
「あんまり調子に乗らない方がいい。
あくまで今は、俺が質問している番だぜ」
立髪の眼光が一段と鋭くなる
「それか、もっと答えやすくしてやろうか?」
次の瞬間、今まで体の周りに集中していた、立髪の聖圧が閃光のように広がった
「どうだ、案外効くだろ?
こそ泥風情の聖圧が……
あまり舐めるなよクソガキ、
お前がこれまでどんな環境で、何を教わって生きてきたのか知らねぇーが、お前はとっくに、自分自身で何かを選択できる段階は終わってるんだぜ!」
少年は顔を歪める
今にも吐き出しそうだ
「それともさっきみたいに神頼みでもするか?まぁ、神様がいるなら聞き届けてくれるんじゃねぇか?
正直いるとは思えねぇーがな!」
そう言って笑う立髪に少年が事切れそうな声で続ける
「ど、どうしてそう思う?」
立髪は、またしても笑いながら
「ハッハッハッ!まだ喋る元気があるか!
それは結構!
だが、残念ながら神なんてものはいないと思うぜ!
今まで俺は金のためだけにたくさんの人間を殺してきた。
それこそ老若男女全てだ!
なんなら、膝下ぐらいのガキをその両親の手で殺させたこともある。
こんな俺は、後で酷い死に方をするのかもしれねぇーが、あのガキは救われなかったぞ!神や仏がいるなら、なんの罪のないガキがそんな酷い死に方するわけねぇーだろ⁉︎あぁ!だから俺は嫌いなんだ!
いざとなったら神や仏に頼ろうとする馬鹿がよ!」
ドロリ
少年の聖圧が立髪を飲み込むように広がる
「2ついいか?」
落ち着いた声で少年が続ける
立髪の額から汗が噴き出る
「1つ、あんたはなにを持って自分を裁かれるべき悪だと決めつけた?
言っておくが、それは謙遜だ。
理由として、あなたは、将来的に大量殺人者になるはずだった子供を涙ながらに止めたダークヒーローであり、
将来的に起こるであろう、人口増加による食糧難の解決を先進的に進めた、聡明な人であり、
人間という激ヤバ捕食マシーンから生き物や植物、環境を守った英雄でもあるのだから!
……まぁ、こんなふうに善悪なんて主観でしかないのだろうし、第三者である神様から見たら善悪の判断なんて、到底つけられるわけがない。
だから神様は傍観者でいる。
………という人間に便乗して…
……というより、そういう思考に至る人間の自分に対する都合の良さを見て、一人芝居に冷める。
だから人間に何もしない…………というだけで、神様はいると思うよ」
少年は立髪の腕を握り返す。
「2つ、あんたは何を持ち得て他人を馬鹿だと考えた?
感情やら、意識やら、心か?
正直、僕はそれらに心底恐怖している。
なんせ、たいていの人間はそれらに何の疑問を持つことなく、それを用いる。
君島が悪い。
あんたは考え事をするとき言語を使っているだろ?
だが、それは後天的に身に着けたものだ。
なのに、言語は心という自分だけの空間に土足で踏み入ってくる。
そして、我々は平然とそれを使ってしまう。
自分の中で生じる感情とやらを、無意識に言語という大衆的な概念に当てはめてしまう。これは常識という名の監獄に人間を捕らえるための罠だ。
さらに言えば、あんたが人を嫌いになるとき、それこそ理由はそれぞれだろう。
不潔だから、暴力をふるってくるから、自分より優れているからなどなど、色々あるだろう
だが、これらはあたかも人を嫌うという自分の心が選んだ選択のように見えるが、
不潔な人は一緒にいると自分が汚れる、暴力をふるう人の近くにいると自分が傷つく、自分より優れた人の近くにいると自分がかすんでしまうなど、全部経験則からの対処でしかない。
結果、何が言いたいかというと、人間はただの箱でしかないということだ!
何かを考える時、自分の中に勝手に入れられた情報を取り出しているに過ぎない。
何が魂だ!何が心だ!
所詮、すべてが他人からの請負でしかない!そして、自分なんてものは外的要因に創作された人形でしかないというのに……
よって、あんたは僕を馬鹿だと言ったが、時代の常識によって賢者の形が変わってくるから、不安定な足場で他人をとやかくいう資格はないぜ。
なんてベタベタなことは言わない。
なんせ、人間なんて中身を吐き出しているだけの箱なのだから!
馬鹿にする価値すらない!
ハハハハッ、笑えてくる!
我々がやっているのは、コミニケーションなんて綺麗なものじゃない!
神様に無理やり連れられた、様々な状況から情報をすすって、卑しく肥えて、それをしたり顔で吐き出し、
今度は、その吐瀉物を他がすすっての繰り返しですすり合い。
それで心が通じ合ってるなんていうんだから笑えてくる!
……いや、ちょっと待って……
他人は全て、自分という箱に入れ物を入れてくれる神様だ。
違っているのは外枠だけ……….
と言い直しておくよ。
今、そう思ったんだから……
いや、そういう天啓が降りてきたから変えておこッ!」
ボコッ
少年は後方に投げ飛ばされ、そしてギロチンの台座にぶち当たった
「お前、よくそれで人間してられるな!」
立髪の笑い声が響く。
「いっだ!余計なお世話だい!
それよりも、おじさん膝が笑ってますぜ!
もっと早めに投げ飛ばしとけばいいものを!」
ぶつけた頭を左手で押さえつつ少年は涙ぐみながら返した
実際立髪は相当へばっていた
「まぁな、だがそれはお互い様だろ?
お前も慣れないことしてへこたれてるだろ?温室育ちの坊ちゃん?
でも、実際引き離すのに手こずった
が、確信したぜ!
お前は王子だと!」
「だから違うって……………………………………
……………………………………………………はぁ」
少年は大きなため息をついて、右手に隠し持っていたナイフを取り出す。
それを見て、立髪は咄嗟に自分の腰元に手を伸ばす
「へ、なにがこそ泥だ……
お前の方がよっぽど手癖が悪いッ!」
立髪は、自分が話終えるより先に走り出した
少年がナイフを自分の目元に突き立てているのを見て
「馬鹿、よせッ!」
「……やっぱり、人一人動かすのも楽じゃないな」
グサッ
………………………………………
「ハハハハっ!」
甲高い笑い声で少年は目覚めた。
声の主はどうやら、この珍妙な箱の少女らしい
(えーと、なんだここ?)
少年は長机の端に座らされており、もう一端には立髪、真ん中には箱が座っていた。
「馬鹿にされたからって!
あんな馬鹿な返しwww」
少女は机を叩き、自分のお腹を押さえながら笑っている
少年は手応え通りの反応に、とりあえず机の下でガッツポーズをとる
「………じゃあそろそろ指切りしましょうか」
ひとしきり笑い終えた少女が、話を進めようとすると
「その前に一つ聞かせろ。」
立髪が低い声で割り込む
「どうしたの?
スリーサイズ以外なら答える
って言う女性の好き嫌いについてだったら教えるよ。」
「助走で聞くまでもねぇよ」
食い気味だった
「いや、あんたじゃなくて、そこのイかれたガキに聞きたい」
「へ、へぇー」
そう言いながら少女は机にうなだれた
割とショックだったらしい
「じゃあ聞くが、」
「待った、それは許可できない。理由はフェアじゃないから」
そう言って、今度は少女が、立髪の質問を遮った
そして、ゆっくりと立ち上がり、少年に近づきながら手袋をはめた
「えーと、今からなにをッ!」
パチーン
と高い音が鳴る。
音の正体は、ハコ助が持っていた、クルクマによるビンタである
少年は事態を収集できず、数秒放心していたが、すぐさま自分を取り戻し、
「え、なんで手袋はめたん?」
すごく純粋な質問した
そしてそれに少女が答える
「フッ、クルクマの花言葉には『あなたの姿に酔いしれる』というものがあってね……
そんな私に叩かれるということは、
一種の好………皆まで言わせるなよ!
もぉーーーー!」
「あ、そっか。
暴力って理不尽だから暴力なんだった……
……ん?私って?」
二人とも、ニヤニヤしだす
「おい、そろそろ茶番は終わったか?」
「「茶番とは失礼な!イチャイチャだ!イチャイャ!」」
「なんで揃うんだよ……というか、そこのガキの記憶を戻すんじゃなかったのか?」
「あぁ、それなら戻ってるよ」
「え?」
一番驚いたのは少年だった
「えーーと………確かに!
さっきまでなかった記憶がある!
……なんかばっちい」
「おいおい!人の良心を……」
一つため息をついた後、少女が進行を進める。
「それじゃあ、君たちが先程交わした『約束』の内容から振り返ろうか!」
少年は早速、もらった記憶を遡る。
我々も少し戻ろうか。
………………………
頑張ってますねぇ( ̄▽ ̄)