2、決断力があるんだかないんだか
記憶喪失ってどんな気分なんですかね(´∇`)
数秒前
(はぁ……、死刑宣告受けてると思ったら記憶喪失のおまけ付きかよ……
正直これってほとんど生まれたての状況でギロチンにかけられてるってことだよな……
こんなの、いくら赤子でも産声の前に
「えっ、流石に冗談でしょ?
ちょっとー!冗談きついっすよマジで!」
とか言ってくるぞ……
まぁ幸い、赤子とは違って知識はあるけど……
でも、この知識もどこまで合っているのやら……
そしてなぜ、記憶だけがなくなっているのか……
よしっ!
とりあえず、まずは情報収集だな!
そのためには……良好なコミニケーションを取らなければ!
まずは、第一声が大事だぞ!
舐められないようにこっちの知性を最大限に見せつつ、ユーモアもあるというところを見せるチョイスは………
フッ、これだな……)
「あのーすいません、蜂って女王蜂と交尾した瞬間に爆死するって知ってます?」
………………………
「は?いきなり何言ってるだお前」
永遠とも思える沈黙の後に、答えてくれたのは一番近くにいた二人組の兵士の片割れだった
「やっと起きたと思ったら豆知識披露してきて」
「ですよねー、まぁ自分でもそう思いますけど……」
そう言って、少年は斜め下に視線を逸らすと同時に
(よしっ!手応えバッチリ!
これはかなり良い友好関係を築けるな!
へへへ!)
と、類い稀なる自己肯定力で自分を騙していた
そんな少年を尻目に、兵士の片割れが続ける
「まぁ無理もねぇな、自分の国が今まさに乗っ取られようとしてるんだからな!
そりゃあ多少おかしくもなるよな!
いや元からか?王子様!」
(…………ん?)
一瞬の沈黙があった。
無理もないだろう。常人の場合、自分のことをいきなり王子様と言われたら、狼狽して思考が止まってしまうだろう。
だが、この少年は!
「そっ、それな!
僕が、えーと、モテるお仕事ランキング!
無条件、殿堂入りのお、王子様であるぞ!
控えおろう!」
即座に、偏見まみれの王子分析をすると共に、自分のキャラクターを躊躇なく王子に歩み寄らせていた!
「お、おう」
まぁ、兵士の反応は冷たかったが
そして、正直、即座に反応したと言っても少年の心中は……
(俺って王子だったのか………
……白馬ってどこにいるのかな?)
だいぶ浮かれていた。
しかし、
(そもそも、さっきチラッと自分の姿が反射した時に見えた、格式の高そうな服、オッドアイ……
ある程度当たりはつけていたけど、王子だったのか………
そうなると、これで大体のことが分かった
と思うんだけどなぁ……
でも当たっていた場合、状況は最悪だよな……
どうしよう、モチベーションが上がらない……
とりあえず、もう少しだけ様子を見るか……
正直、何も見えてこないうちに死ぬのは、多少不本意だし………
はぁ……とりあえず数撃つか……)
ある程度まじめに考えてもいた
そして数秒後、少年はおもむろに喋り出す
「すいません。
後生なんですけど、この拘束解いてもらえませんか?」
案の定二人の兵士からの反応はなかった。
(おかしい、あんなに仲良くなったはずなのに⁉︎
……はぁ、やるか……)
渋々決心を決めた後、少年は大声で次のように続けた。
「じゃあ今から三つ数えるので、その間にこれ外してもらえませんか?
じゃないと、うっかり、舌を噛みちぎってしまいそうな気がするので!」
「は?」
近くにいた兵士達が揃って同じような疑問符を浮かべた後、少年は大声で続ける。
「はい、3ーつ!」
兵士たちは傍観している。
正直、間にうけているものはいなかった
「2ーつ」
それもそのはずだ。
まだ年端も行かぬ少年が、そう易々と命をかけれるはずがないと
少し舌を噛んで終わるだろうと
「1ーーー」
ブチッ
という音と共に兵士たちは思い知った
自分たちの持っている常識のか細さと、それを隠れ蓑にして動かなかった自分たちの愚かさに
そして気づいていなかった
今、この瞬間も自分たちが傍観という愚行を起こし続けていることに
バキッ
という音と共に少年の首枷は破壊された。
一人の足蹴りによって
「いっだ!
で、できればもう少し、早く、丁寧にしてもらってもいいですか⁉︎
口の中、鉄分まみれなんですけど!」
「うるせぇ!
助けてもらっただけありがたく思え!
このいかれたガキが!」
そう言って返したのは、立髪みたいな髪がとてもお似合いなライオンみたいな男だった
「い、いかれてるって!
もう少し優しくしてくれても良いでしょう!
こっちはツーナッシングで、自暴自棄まであと一球なんですよ!
………死刑宣告に、『記憶喪失』で」
そう言った少年の言葉に、立髪は一瞬狼狽した
だが、即座に飲み込んだ様子で、
「そういうことか………
やっと合点がいったよ」
何かに納得したようなこの立髪の言葉で、少年は自分の考察において、確信に近いものを感じていた
まぁ、感じ方はというと
(うっわぁ……
一応考察はまとまったけど全然自信ないし、そもそも当たってほしくないなぁ……
だって、当たってた場合、神頼みがプランAになるし……)
だいぶブルーよりではあったが……
そして、少し間を置いた後
「何はともあれ、外してくれてありがとうございます」
と、少年は簡単にお礼を言い、処刑台の上で座り込み、熟考に入った。
そっと目を閉じ、顔の前で指の第一関節同士を合わせる形で手を組んで…
(ここから、どうしたものかな……
いや、どうするも何も、
正直、策を立てるための情報収集すらままならないし……
はぁ……とりあえずは様子見しかないかな……
……ん?)
ここで少年は違和感を感じた。
理由としては、今まで聞こえていた人の声や風の音などの雑音が、一切聞こえなくなったことがある。
そしてビビり散らかしていた。
(え、なんでいきなり何も聞こえなくなったの!?
すごく怖いんですけ、)
「さぁ!目覚めよ!少年よ!
なんかこう……悪いやつをしばき回すことでしか快楽を得られない、悲しき殺戮ロボットを目指して!」
少年の心の中での呟きは、静寂の中で響く甲高い声により遮られた
そして、少年はその言葉に答えなかった。
とてつもなく嫌な予感がしたからだ。
「えーと……
もしもし……
はぁ…………
………
眼球デコピンまでーー、3!2!い、」
「う、うーーん!よ、よく寝たーー!
本当によく寝ていたなぁー!」
少年は起きた。
正直な話、もう少し狸寝入りを決め込んでいたかったが、だいぶ物騒な単語が聞こえたのでそうするわけにもいかなかったからだ。
少年はここで、伸びをしながらゆっくりと目を開けた。
そこで目に入ってきたのは、青い空とそれを反射する水面がどこまでも広がっている様子だった。
「ゴッホん!んっんん!ゴホゴホゴホ!」
少年が呆気に取られていると、すごく振り向いて欲しそうな咳払いが後ろから聞こえたので、少年は渋々振り向く。
するとそこには、はこがいた。
……えーと、箱と言っても長方形の形に、3本線で表現された顔、熊のような耳、青色のクルクマが持たされている丸い手、という特徴があった。
そして、その箱から無駄にスタイルが良い体と、悔しくて舌打ちしたくなるような綺麗な銀髪がはみ出ていた。
(どうしよう……めちゃくちゃ波長が合いそうだ……)
少年はその箱と話す前から薄々そう感じていた。
そして聞いた
「えーと、今から色々と始まると思うんですけど、とりあえず貴方の名前……というかその箱の名前はなんですか?」
「えーーと……
…………………憤怒?」
(何があったんだよそいつに!!)
少年は盛大に笑い転げた
そろそろ、少年の能力がわかると思います(´∇`)