9話
「ルミィ? ……そうね、ご先祖様は女性に対してびっくりする位興味無かったって聞く。カイル君はレヴィン家直系だからそれも分かる。ルミィもレヴィン家傍形だから覚醒遺伝をしたのね」
そう言われると、物凄く説得力があるなぁと感心できてしまう。
俺が女性に対し極端に興味が無いのはご先祖様の関係か。
いや、俺の父親も浮いた話を聞いた覚えがない気がする。
だからつまりは、そんな所まで血筋の影響が出ているのか。
成る程と納得してしまった俺は2度程頷いていた。
「ええ!? 私カイルさんに興味あるから違うよ?」
確かにルミィさんの言う通り。
妹からもっともな事を言われたらアリアさんは少し考え込み、
「そう言われてみるとそうね。どちらかと言えば、男性に興味が無い私の方がザナッツ・レヴィンの血を継承しているのかしら?」
確かにそうかもしれないと言わんばかりに俺は無言で頷く。
「あーそうですね、アリアさんって精霊魔法を使った事はありますか?」
「いえ、無いわ。私達ルーツ家は聖女として生きていく為の術を叩き込まれているから精霊魔法の話なんて欠片も出て来ていない」
エリクさんがハーブティーを一口飲み「そうですか」と小さく呟き小考した後、
「でしたら、試して見ると良いかも知れません。精霊魔法は、当人に当該属性を扱う資質があるならば数日試すだけで最低限の魔法が扱えます。もし、ザナッツ・レヴィン様の血が隔世遺伝しているとするならば、2属性扱える可能性があります」
エリクさんの提案に対し、アリアもハーブティーを一口飲み小考し、
「お言葉ですが、聖女への道が遠くなるのでお断りさせて頂きます」
アリアさんが言う通り、聖女の道を目指す人間にとって精霊魔法の会得、なんて寄り道をしている暇は無いと思う。
「その聖女の道ですが、もしもアリナ・ルーツ様の血筋を強く引いていないのでしたら最悪その道に辿り着けない可能性はあります」
エリクさんの言葉に対し、アリアさんが少しばかり険しい表情を見せる。
「正直な所、アリアさんはプリーストとしての才能や手腕は高いと感じています。しかし、聖女の方と比べてしまうと何かが足りないと感じています」
アリアさんはその事を薄々感じていたのか、小さくため息をつき「そう」と呟く。
「その点からも、ザナッツ・レヴィン様の血が覚醒遺伝してしまい、アリナ・ルーツ様の血を強く継承出来なかった可能性が考えられる訳です」
「はぁ、サブマスターは伊達じゃないのね。認めたくない事実なんだけど」
アリアさんが少しばかり肩を落とし、チョコレートケーキを少し口へと運ぶ。
気分を落ち着かせる為だろう。
「ははは、そう言って頂けると光栄です。ただ、ザナッツ・レヴィン様の血が覚醒遺伝したならそれはそれで悪くありませんよ。アリアさんもセイジは知っていますよね?」
セイジ。
つまり、ウィザードの上位クラスに該当するクラスか。
攻撃に寄っている精霊魔法だけでなく、治癒や補助に当該する神聖魔法の両方を扱う事が出来る。
ただ、どちらも扱う事が出来る人間は滅多に居ない為、中々貴重なクラスであったりする。
「ええ、知っている」
「僕は神聖魔法が扱えないので、ハイ・ウィザードの道を歩む事しか出来なかったのですが、アリアさんならば攻撃も治癒も両方可能なセイジの道を歩めるかもしれません」
ハイ・ウィザード。
純粋な魔力量や扱える属性の種類が豊富な人間が辿り着けるクラスだっけ。
此方の場合は1つの属性を徹底的に極める事でも辿り着く事が可能だからセイジよりも敷居は低くなっている。
それでも厳しいことに変わりはないけれど。
「それに、何か意味が? 聖女がダメだとしてもハイ・プリーストを目指せば良いだけじゃない?」
これもまた、その通りと言えばそうなるか。
わざわざセイジを目指す必要がない様に思えるが、しかしエリクさんが提案する以上意味はあると思う。
「仰る通りですが、誰かを守る力はあっても損はありませんよ。私の見立てではルミィさんがアリナ・ルーツ様の血を強く引いていると思います。神聖魔法の練度からそう思うだけかもしれませんが。その場合、ルミィさんが聖女になったとします。身内に彼女を守る力を持つ人間がいた方が安定すると考える訳です」
アリアさんが、何かを思ったのか天井を眺めている。
再び一息付くとエリクさんへと視線を戻す。
「そう。だから私はルミィにはカイル君みたいな人をくっつけさせたい」
「成る程。しかし、カイル君は彼を追い求める女性があまりにも多いです。仮にルミィさんが聖女になったとしても、彼が配偶者になりルミィさんを守る盾になるかと言われたら難しいと思います」
エリクさんの言葉を受け、アリアさんが俯いた。
どちらかと言うと強気な印象を持つ彼女にしては珍しい気がする。
「強い男程野蛮で身勝手で自己中心で女性を道具としか思っていない傾向が強いと思います。それ等を踏まえ、勿論提案しているだけですので聖女になる為ハイ・プリーストを目指しても構いません」
エリクさんの言葉に対し、アリアさんは何も言わない。
「おねぇ、ちゃん……?」
ルミィさんが、心配そうにアリアさんへ声を掛ける。
アリアさんはゆっくりと顔を上げ、ルミィさんに笑顔を作る。
けれど、その瞳からはうっすらと涙が伝った跡が見えている。
アリアさんもまた、聖女になりたかったのだろうか? 何と無くそんな気がして来る。
「精霊魔法って痛そうな感じじゃない? ほら、炎の魔法を暴発させて手がやけどしちゃったりとか、ちょっと怖いなって思って」
「あはは、大丈夫だよ。セザール学園に通うウィザード学部の人達見る限りそんな事無かったから」
ルミィさんが満面の笑みを浮かべている。
彼女もまた、アリアさんの何かに気付いたのだろうか?
「はっはっは、空気壊してごめんなさいね。ケーキのおかわりが必要ならば頼んでください、僕の奢りですから。ささっ、カイルさんも遠慮なさらずどうぞ」
エリクさんも何かに気付いたのか、明るい声で話題を切り替える。
ルミィさんもアリアさんも彼の言葉に甘え、俺も素直に言葉に甘える事にした。
エリクさんのお言葉に甘えた俺達は、折角なのでセザールフルーツケーキ頼む事に。
エリクさんが女性店員を呼んでその注文を終えると、
「中々可愛らしい御方ですね、宜しければお仕事の後僕と一緒に素敵な食事でも……」
にへらと若干気持ちが悪い笑顔を見せながら、女性店員を軟派するエリクさん。
店員さんからは殺意が込められた目で睨みつけられ、無言で踵を返される。
アリアさんからは、深いため息を付き「そういうところよ」と呟いていた。
女性店員に振られ、がっくりとうなだれるエリクさんであるが何と無くそれは自業自得だとは思う。
程無くして、ふわふわのスポンジケーキに白いクリームが塗りたぐられたケーキが運ばれて来た。
8等分位にされたケーキのてっぺんにはセザールフルーツ、セザールタウン近郊の森で採取される親指位の大きさで赤色の丸い実が乗せられている。
それだけでなく、スポンジ部分の間にもてっぺんのそれよりも小さいセザールフルーツが数粒程組み込まれている。
「美味しいー」
それを一口食べたルミィさんが甘い笑顔を見せる。
アリアさんも同じ様な反応。
俺も彼女達に続きそのケーキを口に運ぶ。
口の中にはふわふわなスポンジケーキの食感と、甘い生クリームの味が広がる。
かと思えば、セザールフルーツのほのかな酸味が甘さと上手く調和しより一層の美味しさを引き立ている。
「喜んで貰えて何よりです」
エリクさんもまた俺達が美味しそうに食べる様子を見て嬉しそうにしている。
このまま暫く雑談が続いた所で俺達はこの店を後にするのだった。




