9話
「お姉ちゃん? ごめんなさーい、でもエリクさん? は私の方から話かけてないよ?」
ルミィさんが、ウィンクをしながら小さく舌を出して見せた。
まだこのギルドに入って日は浅いのだけども、ルミィさんが言う通りエリクさんは女の子であれば所構わず話し掛けている為、エリクさんがアリアさんから女垂らし扱いされるのは仕方が無いのかもしれない。
「お、お、お、我等の女神アリア様じゃないですかーーーー!!! ぜぜぜ、是非僕と一緒にスイーツを食べに行きましょう!」
いじけてしゃがみ込んでいたエリクさんが、急に立ち上がると拳を握り締め瞳を輝かせながらアリアさんを誘うが、
「違う、そこの緑髪の事よ」
アリアさんはエリクさんを華麗に無視し、ルミィさんに言う。
ルミィさんだけでは無くアリアさんにまでも拒否されたエリクさんは再びしゃがみ込んで落書きの続きを描き始めた
「ふぇ? お姉ちゃん? カイルさんは女垂らしてないよ?」
俺を女垂らし扱いしたアリアさんに対し、ルミィさんはムスッとした表情を見せ抗議する。
「ルミィ? 貴女知らないの? そこの緑髪と言ったら、セザール学園在学中に学園内の女の子を食ってはポイ捨てしていたのよ?」
何処で聞いた話か分からないが、アリアさんはツラツラと言っている辺り嘘を付いている様には見えない。
となると、誰かが流した噂となのだろうか?
「いや、俺はそんな事してません」
「カイルさんも違うって言ってるよ」
俺が否定し、ルミィさんも俺の援護に回ってくれるが、
「いい? ルミィ? 女垂らしが女の子の前で自分が女垂らしなんて言わないわよ? 平気で嘘ついて近付いて用が済んだらポイ捨てするのよ?」
アリアさんは二人の言葉を無視して言葉を続けた。
この人、俺の言葉を信用する気が無いのだろうか?
「そんな事無いもん! お姉ちゃんの昔の男なんて知らないもん!」
アリアさんの言葉に対し思う事があるのか、ムギギとルミィさんがアリアさんを鋭く睨み付ける。
「ルミィ? 私が酷い目に遭ったから教えてるのよ。お姉ちゃんの言う事無視して傷付く事になるのはルミィなのよ?」
アリアさんがルミィさんをたしなめる様に言うが、
「そんな事無いもん! カイルさんは悪い人じゃないもん!」
「ルミィ? 緑髪とは出会って日が浅いよね? 男なんて深く関わっても危ないのに、浅い関わりで危なくない人だなんて決め付けるのは無謀よ?」
怒っている為強い口調で話すルミィさんをアリアさんは冷静に諭す。
「カイルさんと出会ってから浅く無いもん! 私、カイルさんの事は修道院に居た時から知ってるもん!」
とルミィさんは言うのだが、俺はセザール学園在学中にルミィさんを見た記憶は全くなく、彼女を知ったのはこのヴァイス・リッターに所属してからだった。
じゃあ、なんでルミィさんが修道院時代から俺の事を知っているのだろうか?
「ルミィ? それを知り合ったと言うならば私だって緑髪とは昔から知っている事になるわよ」
俺が疑問に思っていると、どうやらアリアさんも昔から俺の事を知っているとの事だ、これではますます疑問が深まるのだが。
「私が知ってるって思うんだから知ってるの! もしかしてお姉ちゃんもカイルさん狙ってるの? 狙ってるなら狙ってるって言ってよ!」
ルミィさんは随分と感情的になっている様で、アリアさんに向けて支離滅裂な言葉が吐き出された。
「ルミィ? 私が駆け出し冒険者なんて稼ぎの悪い貧乏人を狙う必要無いわよ。私は数多の男からくどい程アプローチを受けてている事はルミィも知っているでしょう? ランクの高い、お金を稼げる冒険者を選べる状況で態々駆け出し冒険者を選ぶ理由は無いの」
「男の人はお金だけじゃないもん!」
アリアさんの言葉に対しルミィさんが顔を真っ赤にし反論する。
「そうね、そこに異論無いわ。ルミィが男を選ぶ基準はそれでいい。お姉ちゃんは生活を守らなければならないから男をお金見なきゃならないだけ」
アリアさんの言葉に対し、ルミィさんが目を丸くし絶句する。
「私達プリーストは一人で魔物を討伐出来る訳じゃない。だから冒険者ギルドからの依頼をこなしたければ他の冒険者に組んで貰わなければならない。その為に男に対して恩を売るのは当然だけど、ルミィは覚えなくて良い」
アリアさんは、地面にしゃがみ込んでいじけているエリクさんに視線を向け、
「エリクさん、先程の誘いをお受けします」
「え? え? アリアさん、良いんですか!? ではでは、早速行きましょう! いざスイーツの都へ!」
アリアさんから、誘いの返事を受けたエリクさんが立ち上がり瞳を輝かせる。