8話「」
「嘘だろ? 俺が調子悪い時にやった模擬戦の時、リリアさんが勝ったけど手を抜くなって凄く怒っていた事覚えているぞ」
「そんな昔の事覚えてないわよ、ほら、ヴァイス・リッターが近いわ、あたしとアンタが一緒に居るところを他のギルドメンバーにみられると面倒事が起こるからあたしは先に行くわ」
「あ、お、おい、まぁ良いけどさ」
俺との対話を無理矢理止めた様に見えるが、だからと言ってリリアさんが言う通り俺とリリアさんが一緒に居るところを他のギルドメンバーに見られたらめんどくさい事になる様な気がする事も事実で。
俺は走り去っていくリリアさんを遠く眺めながら自分のペースでヴァイス・リッターのギルドハウスに辿り着いた。
ヴァイス・リッターのギルドハウスは白を基調としたデザインの建物だ。
ギルドの名称自体、白い騎士から取られたらしく、入り口には白い石材で作られた騎士の石像が来訪者を歓迎するかの様に左右に設置されている。
このギルドハウス内には大体200人位の冒険者が入る事が出来るとの事だった。
また、敷地も中々に広く数棟ある別棟には簡易的な訓練場に勉学の為必要な書物が揃えられた部屋、食堂や医務室、緊急時に宿泊が可能な部屋が複数、会議を行う為の部屋と言った様々な設備が整えられていた。
「やぁ、カイルさん、おはようございます」
俺がヴァイス・リッターギルドハウスの中に入ると、緑色のとんがり帽子と丸眼鏡が特徴的な先輩のウィザード、エリクさんが出迎えてくれた。
「おはようございます、エリクさん。今日も宜しくお願いします」
俺は丁重なお辞儀をし、エリクさんに挨拶を返す。
「ははは、カイルさん、そこまで丁重にしなくてもいいですよ」
俺の先輩であるにもかかわらずエリクさんが気さくに言ってくれ、一見すればとても良い人に思えるエリクさんなのだけども、
「あ、カイルさんだーおはよー」
今度はギルドハウスの奥から、俺を見付けてトタトタトタと足音を立て右手を軽く振りながら、ピンク色で鎖骨辺りの長さである髪をふわりとさせながら非常に嬉しそうな顔を見せルミィさんが駆け寄って来た。
また、ルミィさんは後頭部辺りにトレードマークとも言える赤色で大き目のリボンを装着しており、それが彼女の可愛さを一層引き立てている。
「ルミィさん、おはよう」
俺がルミィさんに挨拶を返し、
「る、るみぃさん、おはようございますッ! 今日もいい天気ですね、はっはっは」
エリクさんがルミィさんに挨拶を返すが、ルミィさんはコンマ1秒たりともエリクさんへ視線を向ける事無く、
「ね、ね、カイルさん。美味しそうなスイーツのお店見付けたんだぁ☆ 今度一緒に行きませんか?」
ルミィさんは俺に近付き上目遣いで、スイーツとやらを一緒に食べに行こうと誘ってくる。ルミィさんだけは他の女の子達に比べ妙に積極的に、俺に近付いて来て気がする。
鍛錬中だったら適当な言い訳もつけるんだけど、ヴァイス・リッターに到着したばかりでこれから鍛錬と言うのも何だか味気無い気がする。
いや、さっきリリアさんから指摘されたから無駄に意識しているのかもしれないが。
ってそれよりも、
「え、え!? あ、いや、その!?」
ルミィさんとの距離が妙に近い! ちょっと動けばルミィさんの身体に当たってしまいそうな位だ。
女の子からのアプローチに対し不慣れな俺は、思わず自分に近付いたルミィさんとの距離を半歩程遠ざけてしまう。
「スイーツですか、良いですねわたくしエリク・ロードもご一緒しましょう!」
俺がルミィさんのアプローチに対しておどおどしていると、ルミィさんから誘われている訳でも無いのに眼鏡をクイッと上げ、得意気にエリクさんが言う。
「えっと、その、ごめんなさい? エリクさんには私よりも素晴らしい女性が居ると思いますのでそのお方とご一緒して下さい」
ルミィさんがエリクさんの申し出をやんわりと断る。
「う、ぐっ、そそ、そうですよね! わたくしなんて根暗で陰険でうじうじしたウィザード何かじゃ太陽みたいに明るく輝いているカイルさんに叶う訳ありませんから」
ルミィさんに断られ、ずーんと、負のオーラが帯びだしたエリクさんだ。
すっげー悲しい目をしてしゃがみ込むと、地面に落書きを始めたのであった。
しかし、スイーツを食べに行くだけなら別に俺とエリクさんとルミィさん、まぁあと一人誰かを誘って行けばいい気がするんだけど? エリクさんを断ったのは何故だろうか?
と、ここで再び誰かが此方に向かい近付いて来る足音が聞こえた。
「ルミィ? 女垂らしな男の相手したらダメって言っているでしょう?」
足音の主は、ルミィさんの姉であるアリアさんだった。
肩程まで伸びた黒色のストレートヘアーが美しく、白を基調としたプリーストが身に纏うローブを纏っており彼女の美しさを際立たせている。
アリアさんもまた、エリクさんと同じく眼鏡を掛けており美しさだけでは無く知的な印象も引き出している。




