7話
「将来性ねぇ」
そうなんだ、という言葉の代わりに俺はこの言葉をつぶやいていた。
思い返してみれば将来の事なんて何も考えていない。
まずはドラゴンを討伐出来るチームに入りたい、今はそれ位。
後はSランク冒険者になりたい、その為に強くなりたい、何処までも。
じゃあその先どうする? と考えてももっと強い、強大な敵を打ち倒したい。
そう、ご先祖様は仲間達と共に魔王を討伐している。
だから俺もご先祖様みたいに魔王を打ち倒せる位に強くなりたい。
とは言え、今のセザール大陸に魔王は居ない。
別の大陸に魔王が居ると噂は聞いた事がある位で、その目標を達するのは果てしなく遠い未来だろう。
「そうよ。貴方このまま強くなりなさい、そしてエリク君の様なSランク冒険者になるの、そうすれば物凄いお金を稼げるようになるのだから」
少しばかり瞳を輝かせているアリアさんである。
一方妹のルミィさんはこの話に対し興味無さそうな仕草を見せている。
「お金、ねぇ?」
俺はぽつりと呟く。
別に欲しい物は無い。
特別食べたいものも無い、これと言ってお金を欲しいと思った事は無いな。
「そう、お金、お金があれば何でも手に入るし苦労する事が無くせるの」
妙に力説するアリアさんだ。
お金で何か苦労した事があったのかと思えて来る。
「ふーん」
「そっか、君はお金で苦労した事は無いんだね?」
アリアさんが溜息を小さくつくと、何か言いたげな間を作る。
「特には無いですよ」
「やっぱり。なら、聖女の話は知らないかしら?」
アリアさんが、少しばかり真剣な眼差しで聖女という言葉を出した。
「聖女と言っても沢山居るんだけど、どの聖女の話?」
聖女とは、主に聖女の称号を得た昔の人の血筋を引いた高貴なプリーストの事を指す。
その血筋が無くとも、プリーストとしての技能及び人格が優れている物は新たに聖女の家系と認められる事もある。
つまり、セザールタウン内だけでも聖女自体はそれなりに存在する訳だ。
「君に関係する聖女の話で分かる?」
「俺に関係する話?」
そんな事言われても、俺の両親及び家族にプリーストの人間は居ない。
いや、まてよ? 確か。
「君のご先祖様ザナッツ・レヴィン。その配偶者、アリナ・ルーツ。これで分かるかしら?」
そうだ。
アリアさんが言った通り、ご先祖様のお嫁さんは魔王を討伐した際仲間に居た高貴なプリーストだった。
それで、彼女が魔王討伐の功績を含め聖女の称号を得た訳だ。
彼女もまた寿命を迎える寸前自らをアーティファクト、聖神の杖に変換させた。
持ち主の神聖魔力を極限まで高められるとの事で、持ち主次第では死者蘇生も実現されると噂されているが、聖神の杖自体長い間封印されているせいか実際に死者蘇生が行われた話は聞いた事が無い。
「うん、分かるよ。それで、そのアリナ・ルーツが何かあるの?」
「そう、大ありよ。私は、アリア、アリア・ルーツ。そして、妹のルミィ・ルーツ。つまり、私達は聖女アリナ・ルーツの血を引き継いだルーツ家の子孫と言う訳」
ふーん、今目の前に居るのが聖女サマなのか。
いや、確か聖女ってその称号を得る為には物凄い鍛錬が必要で、ルーツ家で今聖女の称号を持っているのはフィーリア・ルーツって人だけだったような。
違う、確か何年か前盗賊か何かに家を襲撃され命を落としたと話題になっていた気がする。
まてよ? フィーリア・ルーツって人はそれなりの年齢だった訳で、だからと言って老婆ではない。
つまり、アリアさんとルミィさんの母親である可能性が浮上する。
って事はこの二人……?
いや、この手の話を聞く訳にはいかないな。
「へぇ、凄いじゃないですか」
「でしょう? 君が将来沢山お金を稼ぐ事が出来れば、もれなく聖女さんが君のお嫁さんになってくれるのだ。素晴らしい話と思わないかい?」
アリアさんが、ルミィさんに視線を向け1つ笑顔を作る。
「ふぇ!? わ、私は別にカイルさんがお金を稼げるとか稼げないとかそういうの興味無いよ? だって、聖女になれば沢山お金が稼げるし、ね?」
ルミィさんが、何か申し訳なさそうにしている。
「そう言えば、代々聖女の家系のルーツ家も裕福な生活をしているって、両親から聞いた事あるな。確かに聖女になればお金に困る事は無いとは思うけど」
だからと言って何一つとして興味がある訳では無いのだけど。
「あのね、ルミィ? 聖女の称号を手にするのにどれだけ大変か分かっている?」
アリアさんが少しだけきつい口調で、ルミィさんを諭すかのようにも聞こえる。
「え、う、うん。すっごく大変だよ?」
ルミィさんの曖昧な返事に対し、アリアさんが片手で頭を抱える仕草を見せる。
恐らく呆れているのだろうか、また1つ溜息をつくと、
「その大変な間、私達プリーストはあまりお金が稼げないって、知ってるかな?」
子供を諭すかの様にアリアさんが言う。
「う、うん。知ってるよ?」
「ねぇルミィちゃん? 貴女が生活出来ているのは誰のお陰か知ってるかなぁ?」
アリアさんが、少しだけ顔をひきつらせている。
もしかしたら、アリアさんはルミィさんの天真爛漫さに思う事があるのだろうか?
「えっと、おねぇちゃん?」
「よく分かってるじゃない。えらいわねぇ」
アリアさんは少しばかり棒読みだった。
特に後半部分。
「あはは、そうでしょ?」
何かを察知したのか、乾いた笑いで誤魔化すルミィさん。
「はぁ、良い? 私は冒険者としてプリースト業をやっているの。だからいつまで生きてられるか保証出来ないのよ」
確かに、アリアさんが言う通り冒険者を稼業とするならばいつ命を落としても分からない。
「え? じゃ、じゃあお姉ちゃんも適当な男の人捕まえれば良いんじゃないかなぁ、なんて、あはははは」
ルミィさんは、アリアさんの無言の威圧に負け言葉を濁している。
とは言え、あんな鋭い眼光で睨みつけられれば、誰しもそうなってしまうが。
「そうですよ! ほら僕なんてどうですか!? お金もありますし」
人差し指で眼鏡をクイッと持ち上げ、エリクさんが得意気にアピールをする。
確かに、アリアさんが言った通りお金があるなら勝ち目はありそうだ。
「はぁ、だから、私、女垂らしな男が死ぬ程嫌いって言わなかったっけ? 貴方それでもサブマスターなのかしら?」
アリアさんの強烈な一言がエリクさんの胸を貫いたらしく、エリクさんは胸元を手で押さえ顔を歪めている。
「うぅ……お金なら、お金なら余っているんですけれどぉ、どぼぢで誰も僕を選んでぐれないんでずがぁぁぁぁ」
そしてエリクさんは涙目になりながら机に突っ伏してしまう。
「あのねぇ、貴方、少なくともヴァイス・リッターの女の子質ほぼ全てに手を出しているじゃない? 女垂らしで節操の無いエロ眼鏡ってギルド内の女の子達の噂になってるのよ」
ヴァイス・リッター内の女の子達ほぼ全てと言ったら、何人だ?
確か、ヴァイスリッターには100人位居て、2人に1人が女の子としたら50人か?
つまり、50人の女の子に手を出した、しかも同時にと言う事になる。
アリアさんの言う通り節操が無いとは思うけど、その行動力は凄い気がする。
「そんなぁ、僕は女の子を嫌らしい目で見て無いですよっ」
エリクさんが机に突っ伏したまま、アリアさんに抗議をする。
その姿を見てどちらかと言うと、一瞬だが可愛いと言う感想をいだいてしまったが……。
「自業自得ね。貴方の節操の無い行動のせいで女の子達が報復がてら過大な事を言ってるのよ」
「うー、だってだって誰も僕に靡いてくれないんだから仕方ないじゃないですかー」
エリクさんは相変わらず机に突っ伏したままだ。




