55話
が、それよりも少し前にリリアが怒りを元に発狂している様を見たカイルは慌てて自分とルミィに対し魔法抵抗を掛け、リリアが放っている魔法矢に対する防御力向上を試みた結果、リリアより乱射された魔法矢のダメージを0にする事が出来た。
「ちょっと待て、リリアさん! 俺にも当たってるんだけど!」
幾ら自分にダメージが無いとは言え魔法矢の乱射は危なっかしいと思うカイルがリリアを止めようと叫び、
「わーーーーリリアちゃん!?!?!?」
ルミィは頭を押さえながらしゃがみ、リリアが乱射している魔法矢から身を守る。
「知らない! アンタにダメージが入らない程度の加減ぐらいしてる! 痛くないんだから黙りなさい! 元はと言えばアンタが敵に捕まるのが悪いんだから!」
カイルに止められ様が、リリアは魔法矢の乱射を止めない。
カイル達の周囲に4属性の魔法矢が無数に飛び交い、それ等の矢はカイルを拘束している魔法の鎖へ直撃する。
何発も何発も直撃する事で、魔法の鎖にもダメージが入る。
更に、属性同士が結合をした結果元々リリアが飛ばしている炎、氷、地、風の4属性の他にも氷と炎の結合により生じる水属性、その水と風属性の結合により生じる雷属性と言った多種多様な属性をぶつけられた結果、カイルを拘束していた鎖にピシッと音を立てひびが入り、バキバキバキと音を立て砕け散る。
鎖からの拘束から解き放たれたカイルは空中から地面に向け落下、足から着地し、2,3度地面を転がり身体に受ける衝撃を吸収し終えるとゆっくりと立ち上がった。
「つっ、助かった、課程は兎も角助かった、有難う」
カイルがリリアに礼を述べると、
「そ、そんなつもり無いわ、そんな事よりもあたし魔力使い切っちゃったから後はアンタがなんとかしなさい」
カイルより礼を言われたリリアは、顔を赤くし肩で息をしながら言う。
少しばかり平静を取り戻している様に見えるのは、カイルの拘束が解けこれ以上セリカからカイルの衣服が剥がされる心配がなくなったからだろう。
「分かった、後は俺に任せろ」
カイルはリリアに対し意気込んだ返事をする。
カイルの目の前には、リリアが今しがた乱射した魔法矢のお陰で肉体の半分が失われその部位の骨がむき出しになっているジャイアントゾンビの姿がある。
注視すればところどころ骨にひびが入っており、先程カイルの盾を溶かした酸性の肉の量は減っている。
今ならジャイアントゾンビの骨を狙い済まし剣による斬撃を行えば有効打を与えられそうだ。
「神聖魔法と息を合わせるのだ」
突如、何処からともなく声が聞えて来た。
その声は渋みの効いた男性の声であり、30歳位の男性が発したものであると伺えられる。
恐らく声の主は、カイル達の身に万が一の事があった時の為同行していた人間であり、ジャイアントゾンビに対しトドメの手に悩んでいたカイルへの助言だろう。
カイルは、一瞬声の主が誰なのかと気に掛けるが、
「ルミィさん、ジャイアントゾンビに神聖魔法を!」
「わ、分かりました!」
ルミィが立ち上がり、神聖魔法の第三階層である聖光の詠唱を開始。
カイルは、声の主の助言通り神聖魔法と合わせる為の手をどうするか、考える。
剣で合わせるか、魔法で合わせるか。
「俺は炎の魔法で行くっ!」
カイルは残された魔力を集中させ炎属性第3階層の魔法、爆裂炎の魔法を完成させ、ジャイアントゾンビ目掛け放つ。
カイルがジャイアントゾンビ目掛け突き出した手の平より、人間の頭よりも1周り大きい3つの炎の塊が放たれ、ジャイアントゾンビの心臓部分の周囲にて等間隔で一旦制止をする。
「私も行きます!」
カイルが手の平より炎の塊を展開した瞬間、ルミィは右手に持つ杖をジャイアントゾンビの心臓部に向け、完成させた聖光を放つ。
ルミィの杖より放たれた、カイルが放った炎の塊の倍程の大きさを持つ球状である聖なる光はジャイアントゾンビの心臓付近に到達すると、スゥっと吸い込まれる様にジャイアントゾンビの体内に潜り込む。
「コイツでトドメだ!」
自分が放った魔法がジャイアントゾンビの周囲に展開された事を見たカイルは、右手に持つ剣をジャイアントゾンビの心臓部に狙いを定め地面を強く蹴り飛び上がる。
カイルは機動増加と筋力増強の魔法の効果により、通常の人間では成し遂げられない7M程の跳躍を見せ剣の先を前方に突き出しながらジャイアントゾンビとの距離を縮めて行く。
先に発動していた爆裂炎がジャイアントゾンビに向け勢いよくぶつかり直撃。
それと同じタイミングで聖光がジャイアントゾンビの中心より爆発。
ドカン、ドカンと二つの魔法の爆発タイミングが重なり合い激しい爆裂音が鳴り響く。
二つの魔法の直撃を受けたジャイアントゾンビの胸部は外部と内部がはじけ飛び、心臓を守る肋骨も多数が粉々に吹き飛び辛うじて数本残っているだけだ。




