51話
「カイル様、嗚呼なんて素敵で男らしくカッコイイので御座いましょうか、わたくしセリカはますます貴公が欲しくなり申し上げますわ。貴公を狙うわたくしのライバルは多数居るかと存じ上げますが、少なくとも目の前の御二人に負けるとは思いませんです事よ」
セリカさんが胸元をたゆんと揺らしながら魔法を完成させる。
何と無く、ルミィさんのそれよりも大きい気がするんだけど今はそんな事を気にしている場合ではない。
しっかし、俺を欲しいと言うなら俺にダメージを与える魔法なんか何で使おうとするのやら。
と思いながらセリカさんが発動した魔法に対し左方向に向かい回避行動を取る。
2人分の機動増加を重ね掛けされている今の俺は馬よりも早く走れる。俺が知り得る限りのウィザードが放つ魔法ならばそれでも十分過ぎる位余裕で避けられる。
俺はそう思っていた、セリカさんが魔法を放った瞬間までは。
「なにッ!?」
気が付いたら俺の足は地面を離れていた。
ジャイアントゾンビの脚部を見ていた俺の視界はジャイアントゾンビの腰部へと切り替わった。
確かに俺は、セリカさんの手の平から放たれた黒色の槍みたいな魔法を左方向に翔け抜け回避したと思った。
けれど、今の俺がまるで空中に浮いているかの様な感覚を覚えているのは何故? 心成しか、両腕辺りから何かから縛られている様な感じがする。
何が起こったのか? 俺は自分の右腕辺りをそっと見る。
するとどうだろうか? 俺の右腕辺りが黒い鎖の様な何かで縛られているでは無いか! つまりは左腕も、と左腕に視線を向ければ同じく黒い鎖の様な何かで縛られている。
つまり考えられる事は、セリカさんの魔法の鎖が俺の両腕を縛り、その魔法の力によって宙に浮かされたという事になる。
回避したつもりが当たった事は、ここら一帯を縦横無尽に駆け巡らなければ回避出来ない位の誘導性能があったのだろう。
クソッ、身体の自由を奪っているこの鎖を何とかしなければ!
俺は、自分の身体を拘束している魔法の鎖を外そうと腕を伸ばそうとするが当然上手く動かせず鎖に届きもしない。
縛られている辺りに力を入れ、筋肉の力で何とかしようと試みるがやはりどうにもならなかった。
自力で抜け出す事は無理そうだ。
こうなってしまっては、残念ながらリリアさんとルミィさんに助けてもらうしかない。
「リリアさん、ルミィさん、すまないがこの鎖を何とかしてくれ」
俺はリリアさんとルミィさんに助けを求めるが……。
*
セリカの緊縛魔法により、自分達の目の前でカイルが緊縛され空中に吊るされた。
その様子を見たリリアとルミィは一瞬驚くが、それよりも。
「あたし達に勝てるですって!? 高々胸が大きいだけ黒尽くめウィザードが良い度胸じゃない!」
リリアは、少々歯ぎしりをしながらセリカの胸元目掛け、ビシッと指をさす。
ルミィの時よりも凄い勢いで、周囲に風を切る音を立てながら。
「そうよそうよ! 信者もいない癖に私達に勝つなんて有り得無いんだからッ」
ルミィがムスッっとしながら、ジィーと自分より大きいセリカの胸元を見つめ、セリカの胸に誘惑されたら分かるよね? と言いたげにカイルを睨みつける。
「あら見苦しいですわね、発育の足りない幼児体系のおこちゃまが吠えていますわ。女性の武器を満足に扱う事も知らないなんて、何とも可哀想な事かしら」
セリカは、リリアに見せ付けるかのように、自慢の胸を揺らして見せる。
たゆんたゆん、と。これでもかと言う位にリリアに見せ付ける。
「なんですって! 淫乱しか能の無い女なんて遊ばれて捨てられるだけじゃない! ふん! 本気の恋愛した事無いなんて随分と可哀想な事じゃないの!」
セリカより胸の大きさで盛大なマウントを取られたリリアが、一瞬自分の胸元をチラ見し、悔しさが堪えきれないのか、1度大きく地面を踏み盛大な音を立てる。
「そうだそうだ、リリアちゃんの言う通りだー。おっぱいしか能の無いウィザードなんか男に遊ばれてポイされるだけなんだからねっ」
自分よりも高性能な武器を持つセリカが気に入らないのか、リリアに続いてルミィもセリカに対して畳み込むのであるが。
「貴女も似た様なモノじゃない」
リリアが小声で呟く。
一応はルミィと共闘しセリカを打ち倒さなければならない事を理解し、小声で呟く程度に留めておいたリリアであるが、残念ながらルミィがそこまで汲み取ってくれる事は無く。




