49話
黒ずくめのウィザードが、右手に持つ杖を俺の方に向けながら言う。
この人、今セリカ……って言った? そう言えばエリザさんがその名前を口にしていたっけ。それで、確かエリクさんがセリカさんに会いに行ったような? あれ? そう言えばエリクさんはセリカさんに会いに行くと出掛けてからヴァイスリッターに戻ってきていないが……?
「お前がこのジャイアントゾンビを召喚したんだな? 悪いけど、セザールタウンの平穏の為討伐させて貰う!」
目の前のゾンビはあまりにも巨大だ。
剣で斬りかかっても効果は薄いだろう。
ならば魔法による攻撃で何とかするしかない。
俺は一旦後方に向け走り敵との距離を取り、炎矢の魔法を完成させ手の平から放つ。
俺の手の平から放たれた炎の矢がジャイアントゾンビの右脚部を襲い、燃え盛る炎の矢が直撃するも、ジャイアントゾンビの腐食した肌を少しばかり焦がすだけで大した有効打を与える事が出来なかった。
所詮はナイトが扱う魔法に過ぎないのか、学校に居た時はこれでも周りに比べれば魔法に関しても長けていたのだけども。
俺は自分が狭い世界の中で成績が良かっただけに過ぎない事を情けなく思い、同時に何か悔しさを覚える。
「おーほっほっほ、可愛い魔法です事! 次はこっちの番ですわ!」
セリカさんが、ジャイアントゾンビに対して俺に対して攻撃命令を下す。
主より攻撃命令を受けたジャイアントゾンビが右手を大きく振り上げ、俺目掛けて拳を振り降ろす。
だが、思った通りジャイアントゾンビの動作は鈍く、その攻撃を見てから回避する事は容易だった。
俺は右方向に10M程翔け、ジャイアントゾンビの攻撃をあっさりと回避。
俺が元々居た場所には、ジャイアントゾンビが放った拳による一撃が炸裂。大きな音を盾地面が抉られる、と同時にジャイアントゾンビの右腕がひじの部分から折れ右手から肘までの部分が空中に飛び散り、ジャイアントゾンビの腐敗した肉が空中に撒き散らされ剥き出しになった骨が空中で回転しながら俺の方を目掛け落下しようとしている。
俺は盾を上方に構え、空から降り注ぐ肉片に対し防御をしながら迫り来るジャイアントゾンビの右腕の骨を回避する為更に右方向へと翔ける。
どーん。と激しい音を立て、ジャイアントゾンビの骨が地面に突き刺さる。
その衝撃で地面が揺れ、僅かながらに足を取られるがすぐに揺れは収まり事なきを得る。
空から降り注いだジャイアントゾンビの肉片を受けた、鉄製の盾はジュッと嫌な音を立て肉片を受け止めた部分が溶けている事に気が付く。
ジャイアントゾンビの肉体は、強い酸性なのだろうか? 後何回か受け止めればこの盾は使い物にならなくなってしまいそうだ。生身に受けてしまったら無事で済まないだろう。
今の様子を見、鉄製の剣で切り刻んでも武器自体が溶けてしまいそうだ。
やはり、魔法による攻撃を続けるしか無さそうだが到底魔力が持つとは思えない。
幾ら何でもリリアさんとルミィさんを説得して3人で戦うべきだっただろうか?
一旦合流するか? いや、俺が下がってセリカさんを自由にする事はあまり良くない気がする。もしかしたらまた別のアンデッドを召喚されるかもしれないし。
「わたくしのジャイアントゾンビの右腕を吹き飛ばすなんて、貴方、やりますわね」
いや、今のは自滅じゃないか? 何を言っているんだろうかこの人は?
セリカさんの言動に対し少々疑問を覚えながらも、俺は、リリアさんとルミィさんが自分の元へ駆け付けてくれる事を信じ、ジャイアントゾンビの右脚部、さっき炎矢を直撃させた場所目掛け、同じく炎矢を5連射させる。
俺の手の平から放たれた5発の炎の矢がジャイアントゾンビの脚部に直撃、小さな炎が一瞬だけ直撃した場所を包むが、その部分から僅かに骨が顔を覗かせるだけで大きなダメージを与える事が出来ていない様だ。
「チッ、やっぱりキツイ」
効果が薄いと分かって居たが、実際にその現実を突き付けられてしまうと中々キツイものがある。
けれど、二人が来るまでの時間は稼がなければならない。
炎の効果が薄いなら次は、氷の魔法でどうだ!
俺は、氷矢の魔法でジャイアントゾンビの凍結を狙う。
魔法の着弾ポイントが上手く凍りついてくれれば、もしかしたら打撃攻撃に弱くなりジャイアントゾンビの酸性の肉体が機能しなくなるかもしれない。
そうすれば、剣による攻撃が有効になる。
それが淡い期待に過ぎない事は十分承知、けれど今の自分に出来る事はそれ位しかない以上、俺は氷矢を完成させ、ジャイアントゾンビの左脚部目掛け先程と同じく5連射させる。
俺の手の平から放たれた氷の矢は、ヒュンっと風を切る音を立てながら狙ったポイントに全弾命中。魔法の効果によりジャイアントゾンビの左脚部が凍結するかと思ったが……。
「クソッ」
恐らく、ジャイアントゾンビの左脚の直径数センチ程を凍結させるだけにとどまり、大して上げる事の出来なかった戦果に対して思わず俺は声を零す。




