4話
エリクさんが被っている帽子は、セリカさんのショーツと言う新たな得物を認識し狙いを定め、手を伸ばす。
シュンッ! 風を切る音が俺の耳に耳に響く。
直後、セリカさんが穿いていたであろうショーツは職人技とも呼べる早業で帽子の口の中へと放り込まれる。
……さっきセリカさんはブラジャーを自ら脱いでおり、今しがたショーツを剥ぎ取られた訳であり、今現在セリカさんは何も来ていない全裸である。
だがしかし、悲しい事か、天井に張り付き見降ろしている俺にはセリカさんの背中しか見えない。
何とも残念な気持ちにされられてしまい、こんな事ならば変わり身の術を使わなければよかったと少しばかり公開してしまう。
「あらぁー。カイル様、わたくしに大衆の前で恥ずかしい事をなされとおっしゃるんですか? カイル様の命令で御座いますならわたくしセリカは例え駄犬の目の前で御座いましょうが人肌御脱ぎにならせて頂きます」
うっとりとした表情を見せ、腰をくねらせるセリカさんだ。
一肌脱ぐも何も、貴女は既に見に付けていた服を脱いでいる訳でこれ以上脱げるものは無いでしょうに、と心の中でツッコミを入れると同時に、
「ウィンドカッター、ウィンドカッター、うぃんどかったーーーっ」
アリアさんが顔を真っ赤にしながら、セリカさん目掛けてウィンドカッターを乱射。
シュン、シュン、シュンと何度も風を切る音が響き、セリカさんを外したウィンドカッターが壁を切り刻む。
「わわわ、お姉ちゃん? お姉ちゃん?」
「だまらっしゃい」
「ひいい、ごめんなさいぃ」
ルミィさんが、暴走したアリアさんを止めようとするのだが、アリアさんの威圧感に圧倒され、シュンとし縮こまる。
「ハァ、ハァ、うぃんどかったー、ウィンドカッターっ」
アリアさんの勢いはとどまる事を知らず、ウィンドカッターを乱射。
このままでは誰かに直撃してしまうんじゃ? そろそろアリアさんを止めなければマズいよな、と考えていると、ガチャッと扉が開く音が聞こえた。
誰が入って来たんだろうと部屋の入口に目を向けるとそこにはヴァイス・リッターのギルドマスタールッセルさんが居た。
「おや? 皆様お集まりで、随分にぎやかですね」
ルッセルさんは、少々困惑した表情を見せながらも俺の身代わり人形の前でお座りをしているエリクさんの前にやって来た。
あれ? このままだともしかしなくても、謎の帽子がルッセルさんの下着を剥ぎ取るのでは?
「わ、わわわわわ、ぎぎぎぎ、ギルドマスター様ですか!?!?!?」
俺が疑問を抱いていると、ルッセルさんが身近にやって来た事を認識したセリカさんが
顔を真っ赤にしあわてふたむきながら胸部と下腹部を手で隠し先程脱ぎ捨てた服を拾い、身にまとうと部屋に設置されている机の下に潜りこみ、余程恥ずかしい思いをしているのか両手で顔を覆い隠した。
「着替えの途中でしたか、それは申し訳ありません。一度退出致しますね」
と、ルッセルさんがエリクさんから離れようとしたところで、新しい獲物を見付けた怪しい帽子が、自らの手をルッセルさんの穿き物へと手を伸ばし、
シュッ!
風を切る音と共にルッセルさんが穿いているおぱんつ君を奪い取る!
自らが身に付けるおぱんつ君を奪い取られた事に気が付いたルッセルさんは、近くでお座りしたままでいるエリクさんの方をポンと叩き、どこか憐れむ様な表情を見せながら、
「エリクさん。貴方が女性に不モテに対する心中はお察しします。ですが、私には心に誓った女性が居ますので申し訳ありませんが」
エリクさんを諭したのである。
「えへへへへ、ルッセル様とエリク様がピーしてピーしてえへへへへ」
一瞬だけ凍り付いた部屋内の空気であるが、エリザさんが何かの妄想にふけりにへにへとしながら大きな独り言を言い、やぱpり室内の空気は凍り付いたままであると思った所、エリクさんが被っている謎の帽子がもそもそと動き出し、
「これだけあれば十分だわん☆」
と可愛げのある声が帽子の中から聞えて来た。
可愛げのある声である事から間違いなく声の主はエリクさんではない。
となると一体誰が? 可愛げのある声を出しそうな人はこの部屋に何人もいるのだけども語尾に「わん☆」とつける人はエリクさん以外に居ない。
「エリクさん? 何が十分なのかしら?」
多分俺と同じ疑問を抱いたであろうリリアさんがエリクさんに尋ねるが、
「僕は何も言ってないわん?」
思った通り声の主はエリクさんではない。
では誰なのだろうか?
「い、今の声、コボルドさんの声じゃないですか?」
部屋の隅っこでスカートを押さえながらルミィさんが言う。
そう言えば、以前『わんわん☆ぱらだいす』ってコボルト達が構えている集落に行った時、コボルド達はこんな感じでしゃべっていたな。
でも、何で帽子の中からコボルドの声が聞こえるのだろうか?
「成る程、そういう事ですか」
何かを閃いたルッセルさんは謎の帽子を持ち上げ口の中を覗き込んだ。
「わん?」
謎の帽子の中で、ルッセルさんと目の合ったコボルドが不思議そうな顔をしながらルッセルさんを見つめる。
「ほほー、なるほどなるほど。中にコボルドが居ます。恐らく何か事情があるのでしょう。一つ伺ってみますね」
ルッセルさんが、謎の帽子の中に居るであろうコボルドに話し掛ける、謎の帽子の中から30cm程の小さな犬型獣人コボルドが出て来た。
この大きさだと多分仔コボルドだろう。
その愛くるしい姿を前にしたルミィさんが、思わずスカートを抑えている手を緩め、目をキラキラと輝かせながらうっとりとした表情を見せている。
その隣に居るアリアさんが、チラッチラッと何度もコボルトを見ており、内心ではアリアさんもコボルドに魅了されている様に見える。
リリアさんもアリアさんと似た様な仕草を見せ、エリザさんは特別興味をしめしていないみたいで妄想にふけったままである。セリカさんは相変わらず机の下で顔を真っ赤にしているみたいで、仔コボルドどころではない様だ。。
「わんわん、実は、わんわん☆ぱらだいす含めて、僕達コボルドの領土で食料が不足しているんだわん」
コボルドが、身振り手振りで状況の説明をする。
手をぱたぱたさせながらしゃべるその姿は何とも愛くるしく思える。
「だからゴミ捨て場を漁ってたんですね~。でもでも~下着まで~可愛いワンちゃん達があんな事やこんな事を」
エリザさんがうっとりとした表情を見せながら、口元からは涎を垂らしている。
どうやら彼女の脳内ではまた別の妄想を繰り広げている様だ。
「そうですか。分かりました我々がお手伝いできる事があれば手を貸しますよ」
コボルド達の事情を把握したルッセルさんが、コボルドに返事をする。
「本当かわん? わんわん☆ぱらだいすの奥にトレントが大量発生したせいで僕達の餌が不足してるわん。トレント達の討伐をして欲しいわん」
「なるほど、トレントですか。お安い御用ですね」
トレントと言えば、樹の魔物で森の中で樹に擬態し獲物を狩る性質を持っている。
ルッセルさんがお安い御用と言う通りCランク、即ち中堅冒険者が討伐するレベルの魔物であり、Aランク以上の冒険者が多数在籍するこのギルドからすればトレントの討伐はお安い御用だった。
「あのっ、私わんちゃんに会いたいです!」
瞳を輝かせながら、立ち上がりトレント退治の立候補をするルミィさんだ。
仔コボルドがあまりにも可愛いのか、自分がショーツを奪い取られ事を忘れているみたいだ。
「そうですね。トレントの討伐でしたらルミィさんでも大丈夫でしょう。トレント討伐に向かう残りのメンバーですが、カイルさんとリリアさん、国王軍からカイルさんの同級生1名のメンバーでお願いします」
ルッセルさんがこの場でトレント討伐メンバーの依頼を出した。
「ありがとうだわん☆ トレント討伐の報酬は僕等のキングから受け取るわん。僕達の依頼を受けて貰えるなら今日集めたモノは返すわん」
仔コボルドは謎の帽子の中をガサゴソと漁り、みんなから剥ぎ取った下着を返却した訳であるが……。
「カイルさん、我々男性陣は一度撤収致しましょう」
どうやらルッセルさんは俺が天井に張り付いている事に気が付いていたらしく、天井を見上げながら俺に言った。
「分かりました」
俺はルッセルさんの指示に従い、出来るだけここに居る女性陣の姿を見ない様に注意しながら部屋を後にしたのであった。




