3話
「え? 誰? ヴァイス・リッターの娘???」
聞いた覚えもない。
記憶にも無い。
プリーストって言われても、ヴァイス・リッターだけでも20人位居るって話だし一々顔なんて覚えてられない。
「そうよ。年はあたし達とであたし達とほぼ同じタイミングで入って来ているわ」
そう言えば、自己紹介の時に今年教会を卒業したプリーストが居た様な居なかった様な。
「ほぇー妙に詳しいなぁ」
しかし詳しい事は思い出せない。
精々ピンク色の髪の毛をしていた位か。
「そりゃ、アイドルやる以上ライバルの動向は気にするわよ。ってアンタ。学生の頃ルミィちゃんと仲良く話して無かった?」
ルミィって子、学生時代に接した事あんの? 全く記憶にないんだけど。
「いや、全然?」
「全然って、あたしは仲良く話している所何度も見たんだけど」
仲良くって言葉に違和感しかない。
だから断じてそんな事は無いのだが。
「何度も、うーん確か俺が昼休みに鍛錬している時によく話掛けに来ていた様な?」
「あのねぇ、ルミィちゃんってセザール学園の中でも2、3位を争う位可愛い娘なの、分かる?」
何故かリリアさんが腰に手を当てながら顔を近付ける。
「全く? てか、1、2位を争うんじゃなくって?」
「当然よ、1位はあたしなんだから、それは揺ぎ無いの」
リリアさんがツインテールの右側をそっと撫でながら言う。
またか。大した自信でやんの、と言いたいが学校を出てアイドルの仕事が舞い込んで来る以上それは正当な自己評価だとも思える。
「ああ、そう」
「何よ、その冷めた返事は。どれだけの男達があたしと並んで歩いて会話したいと思ってるのか知ってるワケ?」
何故か俺はリリアさんから怒られる。
そんな事言われても、偶々ギルドが同じで偶々ギルドマスタールッセルさんの命令で俺の家でご飯を作る事になっただけで、偶々噛み合っただけで他の人がどうこうとか言われても困る訳で。
「知らない、全然知らない」
「知らないの?なら教えてあげるわ。セザール学園全生徒の内半分、大体500人かしら? セザールタウン内でも200人はあたしのファンがいるみたい。だから少なくとも700人の男達があたしと並んで会話したいと思っているのよ。分かったかしら?」
何だか物凄くすごまれている。
自分のファンが700人居るって良いのか悪いのか分からないが、けれど賛美しないとひどい目に遭いそうな予感がする。
「へ、へぇ、それは凄いんだね」
しかし、俺が絞り出した声は棒読みだった。
それがバレたせいか、リリアさんの機嫌が悪くなったのが目に見えて分かる。
「アンタ、つくづくムカつくわね。どれだけ女の子に興味が無いワケ? 目の前にセザール学園一の美女が居てもなんで感情の起伏が乏しいワケ? そんな男、ホモやゲイ以外見た事無いわ」
と、リリアさんが言い切った所で目を見開くと、何だか哀れみに満ちた目で俺を見ながら俺の方を叩く。
「そっかそうよね、貴方、ムキムキなファイターと出来ている噂があったものね。人間の恋愛は自由なの、カイルが女性に興味が無く男性に興味が無い、それは仕方無いわ」
「それ、さっき話した奴だよな。噂にしたって7人中1人だけじゃん、男ってさ。比率にして6対1なのになんで俺が男にしか興味が無いって話になるのさ」
「仕方ないじゃない、あたしにも興味無ければルミィちゃんにも興味無い。だったら貴方はもう男にしか興味が無い、これはあたしの中で決定事項なの、だから観念しなさい」
何だかトンデモ理論を発するリリアさんだが、思わず納得してしまいそうな自分が居る。
「だから、俺は鍛錬や勉学にしか興味無いっつーの」
そうで無ければセザール学園全ての科目で1位を取るのは不可能だって。
「なら何よ、ルミィちゃんのお姉さんなら良いの?」
「だから誰だよそれ」
ルミィちゃんもあやふやだし、彼女にお姉さんが居る事なんて知る訳もない。
話の流れから、ファイターのごっついゴリラ女と想像してしまうが。
「はぁ??? クールビューティーな美人のアリアさんを知らないワケ???? ねぇ、アリアさんもヴァイス・リッターで男性陣からトップクラスの人気があるのよ?」
と思ったがどうやらアリアさんは美人らしい。
あのリリアさんが自分よりも美人であると暗に認めるのだからよっぽどなのだろうか?
「んな事言われても、興味ねーし」
「はい? クールビューティーな美人でしかもプリーストよ? 美人な姉と可愛い妹、ルーツ姉妹がどれだけ人気高いか何で知らないのよ???」
逆になんで男の俺よりも女性陣の情報に詳しいのか聞きたくなって来る。
「そんな事言われても、興味が無いのは興味が無いとしか言いようがない」
「はぁ、そう、そっか、人間に飽きちゃったのね、7股も掛けていたんだから仕方無いよね」
また7股と抜かす。
こいつ、意地でも俺をゲイ扱いしないと気が済まないのか?
「だからそれは単なる噂であってだな」
「良いの。猫族のエリザちゃんだって背がちっこくて物凄く可愛いし。あの娘猫に変身する事も出来るからね、カイルが興味持つのも仕方ないわね」
リリアさんは俺の話を聞く気が無い上に勝手に話を進めている。
「いや、だからそれ誰? マジで分かんないんだけど」
「それで、話を戻すけど、あたしが知っている限りその7人は明確にカイルと付き合っているって幸せそうに言っていたわ。しかも皆に。それってどういう事なのかしら?」
なんだその話? 俺知らないんだけど。
知らない? 待てよ、そう言えば……。
「あーそれ? それ、確かそう、思い出した。1年生の後半になった時だったな、俺に告白して来た女の子が居た。確か名前はエリ……ザって言っていたかな。ははは」
「何よ、エリザちゃんと会った事あるじゃない。しかも告白されたって。それでOKしたワケ?」
「いいや? 確かどうしても俺の彼女にして欲しいって懇願された。だからと言って鍛錬に集中したい俺は断ったんだけど、それでもって言われたからじゃあ勝手に付き合っている事にして良いよ、俺は鍛錬で忙しいから構えないけどって言った気がする」
別に勝手に付き合っている事にされる位問題無いと思ってはいたけど。
「そう、まず1人目ね。後の6人も白状して貰うわよ」
特に7人目と言いたそうな圧を掛けるリリアさんだ。
「2人目は……確か、新米教師。ウィザード学部だったかな、これが1年の終わり際でやっぱりしつこかったから付き合っている事にして後は関与しないでって言ったな」
「年上もOKなのね、守備範囲思ったより広いじゃない?」
謎に感心するリリアさんだが、
「だから実際に付き合っている訳じゃないしそんな暇なかったってば」
「新米教師ってあのなんかサディスティックな教師ね。闇魔法が得意って言っていたわね。カイル、実はマゾヒストだったの。貴方中々いい趣味じゃない?」
リリアさんが、少しだけ嬉々としている気がする。
ひょっとして彼女もSなのか? なんて言うまでも無いだろう。




