3話
しかし、何故かリリアさんが俺の元からどく気配を見せない。
「分かった、分かったからリリアさん、どいて欲しいんだけど」
「何よカイル? まさかあたしが重たいって言う訳? アイドルのあたしが重い訳ないわよね?」
リリアさんからはほんのりと殺意の様な感じを乗っていた気がする。
リリアさんの体格が幾ら細身と言っても40~50kgはある訳で、何をどう考えても重たい事には変わらないのですが。
「リリアちゃん、カイルさんが重たいって言ってますよ? どいてあげてくださいよ? リリアちゃんも大変ですね可愛いのに重たいんですから」
ルミィさんが、リリアさんの胸元をチラチラ見ながら、小悪魔染みた笑みを浮かべながら言っている。
可愛い顔して中々えぐいと思い、あーこれ、またルミィさんとリリアさんが喧嘩し出すのかなーと思っていると。
コンコンコン、と誰かが入り口のドアをノックする音が聞こえる。
部屋に居る誰かが返事をする、よりも早くガチャ、と扉が開く音がした。
おーい、それじゃノックする意味無いじゃん。
と、俺が心の中でツッコミを入れると、
「えへっ、えへっ、セリカさまぁ~面白いモノ見付けました~」
金色ミドルヘアーのおちびちゃん、妄想大好きウィザードエリザさんが怪しげなウィザードハットを持ちながらセリカさんへその旨を報告した。
彼女が普段どんな妄想をしているかは、説明すると長くなってしまうのだけども俺が効いた噂によると男同士とか女同士であんな事やそんな事をしている様子を日々妄想しているらしい。
あんな事やそんな事が何だと言われたら、俺はルミィさんやリリアさん曰く純情無垢な聖人らしいので言えない。
いや、まぁ、別に俺は純情無垢な聖人では無いから知っていたら言えるんだけどただ単にそんな細かい事まで一々聞かないから知らないんだけどさ。
……説明長くないなんて言ったらダメだからな?
「あらエリザじゃない? その帽子面白そうね。その駄犬に被せなさい」
「はーい、セリカ様ぁ」
エリザさんはにこっと笑顔を一つ見せ、手に持っているウィザードハットをエリクさんの頭に被せた。
しかし、今セリカさんは面白い帽子と言ったよな? 別にウィザードハットに面白いも何もないけど……?
何か気になるけどリリアさんに乗っかられている今の状態じゃ確認に使用が無いや。
まぁ良いや、どーせ大した事じゃないだろう。
そんな事よりもリリアさん、早くどいて欲し……。
「ウィンドカッターッ!!!」
いと思っていた矢先、突然アリアさんがウィンドカッターを発動させた声が聞こえる。
何事か? と気になった俺は自分の上で覆い被さっているリリアさんを払いのけ、起き上がる。
するとそこには、左手で両胸を覆い隠しながら右手からウィンドカッターをエリクさんに向け連射しているアリアさんの姿が目に映った。
って、何でアリアさんの胸元が!? どう考えても今さっきまで服着ていたよね!?
一体何が起こったんだ? まさかアリアさんがセリカさんみたく突然着ている服を脱ぎ出す、なんて事は有り得ない。
アリアさんはエリクさんに向かって魔法を放っているから原因があるとするならそこに……。
ってなんだよあの帽子! なんでエリクさんが今さっき被った帽子の左右から腕が生えているんだ!? しかも帽子のツバから少し上には口が付いているし!
どうやら、エリザさんが持ってきた帽子は何だかよく分からない能力を持っている様に見える。
「見るな、こっち見るな! ルミ、その帽子に近付くんじゃない!」
アリアさんが、顔を真っ赤にしながらルミィさんに忠告をする。
が、ルミィさんは何で? と疑問に思っているのか首を傾げている。
「おーほっほっほっほ、やってしまいなさい駄犬!」
セリカさんが、エリクさんに命令をした。
「了解ですワン」
セリカさんより命令を受けたエリクさんは、ルミィさんの元に近付いて来た。
4足歩行で、だ。
何もそこまで犬になりきらなくても、と思っているとエリクさんが被っている帽子の手がにゅーっと俺の方に伸びて来るのが見えた。
どういう事? と思う俺は直感的に身の危険を感じ、レンジャーが持つスキルである身代わりの術を使い、俺が今居る場所に俺の身代わり人形を置き、俺自身は天井に向け跳躍、そのまま天井に張り付き帽子からの襲撃を回避。
どうやらその帽子は俺が身代わりになった事に気付いていないのか、俺の身代わり人形を両手で捕縛……じゃない!? 身代わり人形が着ている衣服を手で引っぺがし口の中に放り込んだのである。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
辛うじて脳を回転させ、アリアさんが何故か手で胸を覆い隠している事からつまり、この帽子は何故か分からないが衣服を奪い取る能力があると言う仮説を立てる。
「まぁ、カイル様。本当はその様にお思いでしたのね。後日わたくしに暇なお時間をお伝えくださいませ、全身全霊を持ってカイル様の御要望にお答えさせて頂きます」
セリカさんが、謎の防止により衣服が剥ぎ取られた俺の身代わり人形を見据えながら恍惚とした表情を見せている。
エリクさんに命令を出した事も考えれば、最初からそれが狙いだったと考えられるが。
俺が呆れ果て心の中で大きなため息をつくと、謎の帽子は俺のパンツを引っぺがそうと腕を伸ばす。
「ふえーーー!? カイルさぁぁーーーん!?!?!?!?!」
ルミィさんが目をぎゅるぎゅると回し、あたふたしながら謎の帽子と身代わり人形の間に割り込み、俺の身代わり人形が丸裸にされる事を阻止しようとする。
リリアさんは特に何も言わず視線をチラチラとさせている。
どうやら下着を剥ぎ取る趣味のある謎の帽子の目の前に立ちはだかったルミィさんであるが、それはつまり何を意味するかと言われれば、謎の帽子のターゲットは俺の身代わり人形から目の前に居るルミィさんに切り替わった訳で、謎の帽子の手がルミィさんの衣服へと伸び、
「ひ、ひゃああああ!? し、下はダメですってばぁぁぁぁ!?!?!?!?」
なんとか目で追えたが中々に素早い手捌きで華麗にルミィさんが穿いていたショーツだけを剥ぎ取り口の中に放り込む。
恐らくは、穿いているショーツをひん剥かれたであろうルミィさんは顔を真っ赤にしながら両手でスカートを押さえ、今居る部屋から緊急離脱を試みるが、
ドン!
と大きな音を立が聞え、音が発生した付近を目で追うとどうやらルミィさんは壁にぶつかったらしく、頭を押さえうずくまっていた。
「うふふふふ、さぁ、駄犬、こっちにいらっしゃい」
うっすらと恍惚な笑みを浮かべたセリカさんが、衣服を全て剥ぎ取られた身代わり人形の前に移動し、エリクさんに命令を下す。
セリカさんがエリクさんを呼んだ? それだとセリカさんのショーツも謎の帽子に奪い取られると思うんだけど……?
「わん♪」
御主人様《セリカ様》に命令されたエリクさんは瞳をキラキラと輝かせ、俺の身代わり人形の頭部付近にて、恍惚な笑みを浮かべたまましゃがんでいるセリカさんの元へと近付く。




