20話
「あ、あったわよ。3年生の時からよ!」
「へぇ、そうなんだ。でもさぁ、リリアさんって俺が鍛錬している時しょっちゅう来てなかったっけ? 俺、毎日鍛錬してたんだけど、リリアさん見なかった記憶が薄いんだけど」
これで、俺が女の子と遊んでいる暇はなかったと証明できたと思うけど。
「ななな、なに言っているのよ!? このあたしがカイルの鍛錬なんてわざわざ見学する訳無いじゃない!」
リリアさんは、顔を更に真っ赤にし、頭を左右に小さくぶんぶんと振る。
「そうっすか、それならそれでいいけどさー」
俺は少々じとーっとした目つきでリリアさんを見据える。
「ほ、ほらあれよ、そう、御休みの日、御休みの日にカイルは女の子達といやらしく遊んでいたのよ、そうに違いないわ」
なんだかよく分からないけど謎の理論を展開するリリアさんだ。
「俺、休みの日には家で勉強してるか適当な鍛錬をしているだけで、女の子どころか男友達ともあまり遊んだ覚えはないんだけど」
じとーっとした目つきで俺に見据えられたリリアさんは、俺が出す圧力に耐えられなくなったのかむぐむぐとした表情を見せ、
「と、とにかく! ギルドマスターに命令されたから、仕方なくあたしはカイルにもっと良い朝ごはんを作るから覚えておきなさい!」
俺に向けてビシッと指を差しながら言うリリアさんだ。
「あ、はい。期待してお待ちしております」
「それと、アンタ昨日ルミィちゃんと宜しくしたわよね? ルミィちゃんと一緒にお茶するのは良くて、セザール学園アイドルのリリア様とお茶出来ないなんて言わないわよね?」
リリアさんが、少々鋭い目つきと含み笑みをしながら言う。
何か企んでいるのだろうかと少しばかり恐怖感を覚えてしまうが。
「そ、それ位なら構わないけど」
昨日と同じ様に実はあのカフェでセザール学園の女の子達と出くわす、なんて偶然はさすがに無いと思うし、もしも昨日のシスターの娘達とあったとしてもルミィさんが居なかったら一々俺に声なんてかけてこないよな? 多分。
「なら、ヴァイス・リッターでの朝礼が終わったらあたしと一緒にお茶しなさい、これはリリア様からの命令よ」
「ははは、リリアさんとお茶飲めるなら光栄としか思わないから大丈夫だよ」
「フン、アナタの言葉お世辞として受け取っておくわ。さっ、朝ご飯とっとと食べなさい。食べたら着替えてヴァイス・リッターに行くわよ」
リリアさんは少しばかり嬉しそうな表情を見せている様な気がした。
リリアさんに促された俺は、リリアさんが作ったはちみつがたっぷりしみ込んだフレンチトーストを平らげ、口の中に広がった甘みを調和する為に最適な、ほのかに塩味を感じ取られるコンソメスープを飲み干すと、部屋着からナイト用の衣服に着替えた後に軽鎧とその他身体の部位を守る為の防具に刃身60センチメートルの長さを誇るソードを収めた鞘を腰に携え準備を整えると俺はリリアさんと共にヴァイス・リッターへ向かった。
―ヴァイス・リッター休憩エリア―
ヴァイス・リッターに配置されている休憩エリアには老若男女様々なギルドメンバー員がギルドメンバー同士との談笑を楽しんでいたり、椅子に座り休憩を取っていた。
そんな休憩エリアの一角に3人組の男達と3人組の女達が集まり何やら作戦会議の様なモノを立てていた。
「むぐぐぐぐ、昨日の話は知っているでござるか?」
その中の一人、いかにも冴えないオーラを持ち陽か陰ならば迷わず陰と答えられるような本人には悪いが気持ち悪いと言う言葉が似合いそうな細身のウィザードが仲間に尋ねる。
「ブヒブヒ、知っているんだな」
もう一人は見るからに体重管理すら出来ていない情けなく非常に太った男が言う。
背中には片手斧を携えており、皮製の防具を身に纏って居る事から恐らくファイターだろう。
「あんだ? 何の話だ?」
3人目の男は細身で背の低い男だった。
彼もまた皮製の防具を身に纏い機動性を確保しており、腰には短剣を収めた鞘を携えている事から彼はレンジャーなのだろう。
彼等3人は外見だけでも、残念ながら女性からのウケは悪そうだ。
「知らないで御座るか? あのカイルの話で御座るよ」
「ブヒブヒ、きゃつは僕達のアイドル、ルミィたんに手を出したんだな」
また、この二人の言動から外見だけでなく性格も宜しくない様に思える。
「ああ、そんな下らねぇ事かよ、良いじゃねぇか、別に、俺っちが聞いた話だと、ルミィって奴からカイルを誘ったらしいぜ? 女がどの男を選ぼうが女の勝手だぜ?」
背の低いレンジャーは、やれやれ、と言いたげにため息を付いた。
「フフフ、それがそうもいかないで御座る。拙者の情報網によると、なんとあのカイルは例の女垂らしと言う噂通り女垂らしだったでござる!」
ウィザードが、拳を握り締め濁った瞳を輝かせながら力説する。
「あぁ、なんかそんな噂もあったな、どーでもいいじゃねぇかそんな噂」
ウィザードの言動に呆れたレンジャーが再びため息を付いた。




