2話
「ははは、エリクさんが望んでいるなら仕方ないよね」
俺は誰がどう聞いても乾いた笑いをしながら、半ば棒読みでセリカさんに対して返事をする。
滅茶苦茶なSッ気を持つセリカさんだが、セリカさんより臀部に鞭を放たれ、その肉体に当たって居なくても想像で嬉しき悲鳴を上げるエリクさんは誰がどうみてもドMであり、つまりこの二人は傍から見ればハチャメチャであっても実は上手く噛み合っていると言う訳だ。
こうやって、二人の様子を傍観している限りは面白く見ていられるんだけど、ただ問題が一つあって、実は何故だか知らないけどセリカさんは俺にも興味を持っているらしくって、だ。
「はい。カイル様の仰る通りこの駄犬がお望みで御座います。ああカイル様その様なお優しき事を申し上げるなんて、実に素晴らしいお方で御座いましょうか、わたくしセリカ・ジュピテス、カイル様のお気持ちに応えさせて頂きたいと存じ上げます」
セリカさんは、エリクさんの臀部目掛けて振るっていた鞭を止め、俺の方に向き俺の目をじーっと見詰める。
その表情は何だか恍惚に見え、妙にうっとりとしている。
セリカさんは自分だけの世界に入っているのか、この部屋に居る他の人の視線は一切気にしていない様子で「カイル様がご所望でしたら」と一言呟き、少しばかり身体をモジモジとさせる。
つい数秒前までエリクさんに見せていた姿とは打って変わって穢れを一切知らない純白無垢で可憐な少女の様に見える。
で、その純白可憐で無垢な少女のように見せているセリカさんは自分が身に纏っているウィザードのローブに手をかけ……。
「ちょ、ちょ、セリカさん!? みんなが居るんですけど!?!?!?!?」
あろう事かセリカさんは俺やエリクさんと言う男がいると言うにも拘らず着ているローブを脱ぎ始めたのだ。
ローブを脱ぎ、セリカさんは恥ずかしそうに身体をモジモジさせながらその下着姿を露わにする。
俺の目に映ったセリカさんの下着、ブラジャーとショーツの色は共に黒色だった。
全身黒尽くめの衣服を身に纏うセリカさんの下着はもしかしたら意外性を取って白色と思っていたのだが、下着も黒で統一していたのだ。
流石はネクロマンサーと言った所なのかもしれない。
いやいやいや! 何冷静になっているんだ俺は! 目の前で下着姿のセリカさんとか理性を保つのが難しいと言うかはしたないと言うか健全な男子たる俺の前でそんな事をされても反応に困るんです!
「あーーーーもう! また胸の自慢ですか! セリカさんの胸が大きいのは知ってますから一々自慢しないで下さいよ!」
ルミィさんが頬を膨らませ怒りながらセリカさんに指摘する通り、セリカさんのお胸様は思わず顔をうずめたくなる程に大きい。
本心を言ってしまうなら俺も……ってやかましい! 何言わせるんだ!
大体、ルミィさんのお胸さんだってセリカさんと比べれば多分1~2カップ小さくなるけどそれでも十分な大きさですから!
だから何を言わせてるんだ!
と俺は心の中で一人ボケツッコミをしていると、俺がよこしまな事を考えていたのがバレたのか、突然俺の耳元でヒュンと風を切り裂く音が聞こえ、鋭い風の刃が俺の頬を掠める。
俺の頬を掠めた風の刃は多分、風刃の魔法によるモノだろう。
今この部屋に居る人でこの魔法を扱えるのはエリクさんと後はルミィさんの姉であるアリアさんだ。
現在進行形で無様なお犬様と言う言葉がふさわしい格好をしているエリクさんが俺に向かって魔法を放つ、なんて事は無くだとすればアリアさんが放ったと考えられる。
理由は、俺がよこしまな事を考えたせいか? いや、心の声なんて神遺物連中にしか伝わらない、となると、アリアさんは妹のルミィさんを侮辱したセリカさんに怒った可能性が考えられる。
「おーほっほっほっほ! プリースト風情の魔法でこのわたくしに傷を付けられるとお思いかしら?」
プリースト、つまりはアリアさんの事で間違い無いだろう。
セリカさんの言葉から、アリアさんが放った風刃はセリカさんに直撃したがかすり傷一つ付けられなかったのだろう。
「別に」
素っ気ない一言を放つアリアさんだ。
その素っ気無い言葉通り、アリアさんの周囲には凍て付く冷気を纏っているかと錯覚されせられそうな位だ。メガネの奥底から見せる鋭い眼光でセリカさんを睨みつけているが、あんな鋭く睨まれてしまったら背筋が凍りついてしまいそうだ。。
「あらやだー怖いですわーその凍り付いた仮面を?いだ方が男性にモテますわよ」
セリカさんが、アリアさんに対し自分の胸元を強調させながら言う。
一見助言している様に見えるが、どう考えてもアリアさんを煽っている様にしか見えない。
「悪いけど、私は男等と言う低俗な人種に興味は無い」
セリカさんの煽りに対しバッサリと斬り捨てるアリアさんだ。
「あらー? それは大変ですね。たった1度裏切られただけで男の全てを否定しちゃいましたか? 仕方無いですわメンタルの強さは人それぞれですもの」
セリカさんが言っている事自体間違っている事では無いが、幾ら何でもアリアさんを煽り気味に言うのはちょっとどうかと思うなぁ。
やっぱり、セリカさんに煽られたアリアさんが唇を噛み締めている、このまま放っておくのは宜しく無さそうだ。
「セリカさん? 周りの目もあるし、そろそろ服を着て欲しいんだけど」
俺がセリカさんを止めるとセリカさんは、ハッとした表情を見せる。
これなら、素直にアリアさんとの口喧嘩を止めて貰えそうだ、と思った訳だが何故だか知らないけどセリカさんは自分の手を背中に回しなんかごちゃごちゃやろうとしている。
その手の位置は大体ブラジャーのホック辺りであり……。
「カイル様、申し訳ございませんでした。わたくし目の身体があまりにも貧相で御座います故、カイル様を満足させる事が出来ないと思い込んでおりました。結果、カイル様を焦らしてしまう事になってしまいました、嗚呼この無礼なウィザードをお許しくださいませ」
セリカさんが、身に着けているブラジャーのホックを外し、ブラジャーがハラりと音を立て地面に落ちる。
それはつまりセリカさんが……。
「わーーーーー!ダメです! カイルさんは純情無垢で聖人なんですから! 女性の裸を見たら神父様に罰せられてしまいます!!!!!」
ルミィさんが大きな声で叫んだかと思うと部屋の中に物凄く強烈な光で照らされる。
恐らくは、神聖魔法の1つである照明の魔法を使ったのだろう、しかも最大出力で。
強烈な光を前にした俺は慌てて目を閉じた上で手を被せ目を守る。
「ルミィちゃん、たまにはやるじゃない?」
リリアさんの声が聞こえ、次の瞬間俺は何かがぶつかる感触を受け椅子から振り落とされ地面に転がされる。
って、結構痛いんだけど! 一体誰が!
ルミィさんが使った照明の光は一瞬で収まった様で、俺は今の状況を確認すべく恐る恐る目を開ける。
と、そこには俺に覆い被さっているリリアさんの姿が!
「って、リリアさん!? 何してるのさ!?!?!?」
「何って、あたしは皆の前で脱ぎ出す変態ウィザードから純情無垢で聖人なアナタを守ってあげただけだわ。文句ならルミィちゃんに言って頂戴、あたしだって照明の光で視界を奪われたんだから。あたしだって、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかったわよ」
と言うリリアさんだ。




