2話
「おお、これは凄い」
テーブルの手前に配置されている椅子に座った俺は美味しそうな料理を前にし、歓喜の声を上げる。
テーブルの上に置かれた皿には、ほど良くとろとろになっているスクランブルエッグに焼いたソーセージが4本乗せられており、皿の隅にはそれ等に付ける為のケチャップも乗せられていた。
また、主食として皿の隣にあるバスケットの中には手の平サイズのロールパンが6つ入っていた。
「フン、この程度凄いの内に入らないわ、私を甘く見ないで頂戴」
プイッとそっぽを向くリリアさんだがその口元は少し緩んでいた。
「そなの? 俺料理は出来ないから十分凄いと思うけど」
「そ、そこまで言うなら仕方ないわ、そういう事にしておいてあげるから有難く思いなさい?」
リリアさんが、俺に人差し指を向ける。
何だか笑顔を押し殺している様に見えるが、だからと言って何だと言う話になる。
俺は深く気にする事無く作って貰った料理を口に運ぶ。
とろとろのスクランブルエッグは見た目通り、口の中でとろける様な食感だ。
卵自体の味とケチャップの程良い甘味と酸味が交わり合い絶妙な美味しさを引き立てているのも素晴らしい。
それで、主食であるロールパンとの相性も良く、気が付けばスクランブルエッグと一緒に2つのロールパンを食べていた。
続いてソーセージであるが上手く茹で上げられており、程良い熱さを帯びている。
口に運べば、パリッと音を立て中から濃厚な肉汁が口に広がる。
これは美味しい、と思いながらロールパンを口に運び、気が付けば3本のソーセージと3つのロールパンを食べ終えていた。
最後のロールパンとソーセージ、皿に残っているスクランブルエッグを数秒見詰め、俺はロールパンを縦方向で二つに、半分ほどの深さで割る。
その中にソーセージを挟み、上から残ったスクランブルエッグとケチャップを掛けエッグホットドックを作り、口に運ぶ。
美味い! 思った通りソーセージの美味さとスクランブルエッグのマイルドさが噛み合い絶妙な味加減を引き出している。
くそう、こんなに美味しいなら最初からこうしておけばよかった! と少しばかり後悔をしながらリリアさんが作ってくれた朝食を食べ終えた。
「御馳走様でした」
「お粗末様ね。量が足りなかった事は悪かったわ」
「い、いやそんな事無いって、作ってくれただけでも有難いよ。そ、そりゃあんな美味しい物もっと食べられるならその方が良いけどさ、それは欲張りすぎじゃないかな?」
「だから凄い物じゃないわ。ほ、ほらさっさとヴァイス・リッターに行くわよ」
再びリリアさんはそっぽを向くのだった。
何か気に障る事言ったのだろうか? と思うがそれは思い当たらない。パッと見怒っている訳じゃ無そうだし気にしても仕方無いか。
俺はリリアさんに促されるまま使用した食器を片付け身支度を整えると、俺とリリアさんが所属しているパーティギルド、ヴァイス・リッターへ向かう事にした。
俺の家からヴァイス・リッターへ向かうその道中、今が朝方という事もあり人通りは多い。
皆職場や学校に行くのだろう。
急ぎ足で目的地へと向かっている。
主に石造りの街並みを、行き交う通行人に合わせ俺とリリアさんはそれなりの速度で歩き続ける。
俺達は新米とは言え冒険者をやっているだけあり、周りを歩く一般人よりも歩く速度は速かった。
時折、定期便の馬車が道路の中央付近を翔けていく。
俺の家からヴァイス・リッターの距離がもっと遠ければこれらの馬車に乗る事もあっただろうなと思いながら通り過ぎていく馬車を漠然と眺めながらヴァイス・リッターへの道を歩み続けている。
「ヴァイス・リッターはどう?」
「そうね、可も無く不可も無くって所かしら? カイルは?」
可も無く不可も無く、か。
これでもヴァイス・リッターはE~Sまであるギルドランクの中でAランクなんだけどね。
俺やリリアさんはセザール学園で素晴らしい成績を収めたから、新米冒険者にも拘らずAランクなんて凄いギルドに入れたんだけど。
それでも可も無く不可もなくって言葉が出てくるあたりリリアさんは他者に対して厳しいのだろう。
「みんな良い人達みたいで楽しいよ」
だからと言って、ヴァイス・リッターに入って日が浅い俺は、このギルドの何が良いのか分からない。
結局俺もリリアさんと大差がないのだろう。
「みんな良い人、ねぇ。アンタの言う通り良い人は多いわね。ただ、大した容姿じゃない癖に一々あたしに絡んで来る男達が多過ぎるのは玉にキズってとこかしら」
確かに、残念容姿の人達がリリアさんに話掛けている姿をよく見る。
それでも、Bランク冒険者だったり確かな腕を持っている以上、俺の方から強く否定が出来ないのだけど。
「ははは、随分辛辣な事言うね」
「アンタもあたしと同じ目に遭えば分かるわ。可愛くもない女の子から言い寄られる事がどれだけ不快かってね」
恨めしそうに言うリリアさん。
リリアさんが言う通り、複数人から言い寄られたら正直鍛錬の邪魔になるから迷惑かもしれない。
「なんかそんな気がする」
「まったく、お気楽なモノね」
「それは否定しない」
「せめてアイドル業が無ければ良かったんだけど。学校を卒業した途端、アイドルに関わるお仕事が貰えちゃって。アイドルなんて学園内だけの騒ぎかと思ったけど、仕事がもらえた以上やらないわけにはいかないのよ。だから、ヴァイス・リッターでも多数の男達に笑顔を振りまかなければならない。けれど笑顔を振りまけば振りまく程、容姿が残念であればある程あたしが好意を持っていると勘違いするの」
つまり、既に本格的なアイドル活動が始まって居る訳か。
って事は、アイドルとして何かしらのイベント活動を行ったりするのか。
後日、その様子を伺いたくなってしまう所だ。
「ははは、大変な話だね」
「そうよ、大変よ。だから偶にはあたしを労いなさい」
本当大変そうに聞こえて来る。
まぁ、美味しい朝ご飯を作って貰える訳だしリリアさんを労う事位特に問題無いよな。
「じゃあ、アイドル活動も頑張ってくれよ」
「ふん。行き成りその偶にを使うって随分と早いじゃない」
「まぁね、けど減るもんじゃないし別に良いでしょ」
俺の返事に対し何故かリリアさんが言葉を詰まらせる。
数秒間謎の沈黙が続いた所で、
「それはそうと、アンタは本当に女性に興味無いワケ? ヴァイス・リッターだけでもかなり可愛い女の子が沢山居るじゃない」
あたしには敵わないけどとリリアさんは続ける。
そう言われると、確かにリリアさんは美人で要所要所で可愛さを見せる。
アイドルだけあってその辺は伊達でも何でも無いと思う。
ただ、可愛いだけに注目すればリリアさんよりも可愛い娘は居た。
確か名前は……。
「興味があるか無いかと言われたら特に無いよ。それよりも鍛錬して自分が強くなる事にしか興味が無いかな」
思い出せないな。
可愛いや美人に該当する女性がそれなりに居るせいで一々覚えてられないからね。
「興味が無いって、ならルミィちゃんはどうなの? あの娘プリーストであたしには敵わないけど凄く可愛いじゃない?」
わざわざ自分の方が上であると主張するリリアさん。
美に関しては物凄く高いプライドを持っている様に感じられる。
それこそ、俺は自分が強くなる事にしか興味が無い事と同じ位に。




