19話
「待たせたわね」
リリアさんが調理を始め20分程経過したところで、右手に平らな円形の皿を、左手にスープ用のカップを持ち俺の元へやってくると、俺の前にその2つを配膳した。
リリアさんが俺の前に並べた円形の皿からは甘く美味しそうな匂いがする。
何を作ってくれたのだろう、と皿を覗き込むとそこには牛乳と卵と砂糖を混ぜ作られた液体に浸した後にフライパンの上で焼き上げ作られるフレンチトーストが、6枚に切られた食パン2枚分乗せられていた。
更に、そのフレンチトーストの上には、めいいっぱいのはちみつが掛けられておりこれを食べる事で十分過ぎる位の糖分が補給できそうであった。
また、スープ用のカップの中には透き通る琥珀色の液体をし、中には食べやすい大きさに切られたキャベツとオニオンを具材としたコンソメスープが入っていた。
「おおー、有難う、リリアさん」
俺は物凄く嬉しそうな表情を浮かべ、朝食を作ってくれたリリアさんにお礼の言葉を述べる。
「ふ、ふん、勘違いしないで頂戴? 昨日も言ったけどこの程度の朝食で感謝されるなんてカイルは甘すぎよ」
リリアさんが、僅かに頬を赤らめながらぷいっ、とソッポを向く。
「そうかなぁ? 自分の為にご飯を作ってくれた以上感謝位はすると思うけどなぁ」
「そ、そんな事あってたまるものですか。今日と言う日までカイルの為に数多の女の子達が作った料理がこの程度のモノを越えていない訳無いわ」
リリアさんがツインテールヘアーの右テールを触りながら、俺と外していた視線を俺の方へと戻す。
「へ? いや、俺リリアさん以外の女の子から料理作って貰った事無いよ? それに、仮に他の女の子がもっとすごい料理を作ってくれたとしても、今この瞬間自分の為に料理を作ってくれた以上感謝はするよ」
「そ、その手に乗るものですか! カイル? 貴方は数多の女の子達を涙の海に沈めた悪名高き女垂らしです事よ! これしきの事、幾らギルドマスターからの命令とは言えあたしが大した食材を持ってこなかったって舐めプレイをした料理を感謝される事を許すのはあたしのプライドが許さないわ」
何だか滅茶苦茶な事を早口で言いながら、ところどころ視線をチラチラと泳がすリリアさんだけど、なぜだかどうして口元が緩んでおり嬉しそうな気配が感じ取られるのは気のせいだろうか?
いや、そんな事よりも。
「ええー!? アリアさんじゃなくってリリアさんも俺を女垂らし扱いするの!?」
「何よ! アンタ、ルミィちゃんじゃなくってそのお姉ちゃんにまで手を出したワケ!?」
アリアさんの名前を聞いた瞬間、リリアさんの眼光がキッと鋭くなり、俺はまるで蛇に睨まれた蛙の様な全身を委縮させられる感覚に襲われた。
「ど、どうしてそうなるのさ!? 俺、アリアさんからも罵倒気味に女垂らし扱いされたってのにさ」
「だって、あんな美人なプリーストに興味を湧かない男なんて居ない訳無いじゃない?」
アリアさんの事を勢いで言ってしまったのか、リリアさんは少しばかりしどろもどろになっている。
「いやー、確かにアリアさんに手を出さない男は少ないと思う、現にエリクさんがアリアさんに物凄い勢いで飛び付いて居た訳だし」
俺は、実際に女の子を口説き回り言い逃れの出来ない程女好きであるハイ・ウィザードの先輩エリクさんの名前を出す。
「あ、あの犬先輩が!?」
「いや、幾ら何でも先輩に対して犬ってのは」
「良いじゃない! あんな女垂らしのウィザードなんて、あたしにだってあれこれ下手糞な話術で口説こうとして来たわよ、あんなの犬よ犬、犬にくわえて別の方面でもウィザードよ」
エリクさんに対して酷く犬扱いをするリリアさんだ。
確かにそこまで言われてしまうと、エリクさんが被るウィザードハットの両端から犬の耳が生えていたらなんだかもの凄く似合いそうな気がしてきてしまう。
エリクさんに、犬の耳と犬のしっぽが生えた姿を想像した俺は思わず、ぷぷっと笑ってしまう。
「別方面でウィザードって何さ」
「はぁ? アンタそんな事も知らないの?」
「知らないよ、想像もつかない」
「女垂らしの癖に何で知らないワケ?」
「だから俺は女垂らしじゃないんだけど」
「し、知らないなら聞かなかった事にしてくれる? うら若き乙女が口にして良い無い様じゃないわ」
リリアさんは、何を想像したのか分からないが頬を赤らめながら小さく膨らませながらソッポを向いた。
「ああ、そうっすか。てーかさぁ、リリアさん? リリアさんってセザール学園に居たよね? もしかして俺が女垂らしって噂、セザール学園に居た時から流れてたの?」
率直な疑問だ。




