18話
「ふふ、ルミィは優しい娘ね。私は聖女の血を引く宿命を背負っているの、私は長女だから多分聖神の杖を扱える力を秘めていると思うの。だから、私が居なくなってしまう事は考えなければならない。でも、コルト大陸に災厄が起こらなけれ心配する必要は無いの」
「災厄なんて、どーしてお姉ちゃんが……」
聖女の血を引いているから、だからどうして自分の姉が犠牲にならなければならないのか、それは大陸の平和を守るために必要な事だと分かっていても、自分の姉が戦いに赴かなければ大陸のみんなが死んでしまうかもしれない事を頭で分かっていても今のルミィには納得が出来なかった。
「ふふ、万が一の話よ、災厄なんて起こる訳無いのだから安心して頂戴。さっ、明日も早いから寝ましょうね?」
アリアは、悲しみの元涙の止まらぬルミィの頭をそっと撫でると寝る為に自室へと向かった。
ルミィもまた、もうしばらくの間涙を溢れさせたところで気持ちが落ち着いたのか、テーブルに乗せられた食器を片付け洗い終えると姉と同じく寝る為に自室へ向かったのであった。
―カイル―
翌朝、日付が変わる2時間前まで鍛錬に励んでいた俺は帰宅後、着替えを済ませ簡単な食事をとったところでベッドの上に倒れこみ泥の様に眠った訳だ。
で、きっと朝日が昇ってしばらくたったくらいだろう、またしてもリリア様が寝ている俺の上に座ると言う夢を見た訳だ。
二日連続で似た様な夢を見ている訳であり、それはなんだかリリアさんに対して心の奥底で俺は何か思っているのではないかと言う気にさせられてしまうのだ。
「カイル? 朝よ? このリリア・ロジフォード様が起こしに来て上げたのに、また呑気に寝ている訳? ふん、高々ヴァイス・リッターが閉められるギリギリまで鍛錬をしていた程度で情けないわね。 この私だって、貴方と同じ時間まで弓術の鍛錬をしていたのよ? このあたしが起こしに来て寝ている何てこと言い訳にならないわ」
なんだろう? 今日もまたリリアさんの声が夢の中でも聞こえる、昨日と同じくリアリティの高い声に聞こえる。
「全く、ここまで言わせてもまだ起きないワケ? それなら良いわ、あたしに考えがある」
おや? リリアさんが金髪ツインテールを揺らしながら何処かに行ったなぁ。
「さぁ~って、カイルくぅ~ん?」
あれあれ? リリアさんが戻って来て、なんかほっぺたに何かが伝わる感覚が……。
って、いた、痛いッ!?
なんだかほっぺたに、何かが引っかかれるような痛みが走った俺は、心地の良かった夢から覚め、むくりと起き上がった。
「ちょ!? カイル!?」
「ふぇ?」
むくりと起き上がると、右手に水では落ちない性質のインクを使っているペンを右手に持ち、俺に対し馬乗りの姿勢になっているリリアさんの姿が目に映った。
が、寝ている俺がそんな事をされているなんて微塵もも思っていないワケであり、俺は起き上がる為に身体を起こした勢いそのままリリアさんの頭にぶつかる事となった。
ごちーん。と軽快な良い音を立て、俺は再度枕の上に押し戻され、リリアさんは軽くのけぞりぶつかった頭を抑えながら痛そうに蹲っている。
「お、起きるなら起きるって言ってよ!」
「あ、うん、起きるよ?」
「遅いわ!」
リリアさんがムッとした表情をしながら言う。
何故リリアさんがここに居るのかと疑問に思うよりも先に、俺はリリアさんが右手に持っているペンが気になって、
「あれ? リリアさん? なんでペンを持ってるの?」
「あ、アンタが起きないからよ? 良い? アンタが起きないからこのあたしが、カイルの頬に落書きをしたワケ、アイドルのこのあたしがわざわざカイルの頬に落書きしてあげたワケ、感謝しなさい?」
リリアさんが、ペンの先を俺に向けながら言う。
「そ、そっか、有難う」
「ふ、ふん! 分かっているなら宜しくてよ! ほら、あたしはギルドマスターの命令で仕方がなくカイルの為に朝ごはんを作ってあげるんだから、椅子に座って待ってなさい!」
そう言ってリリアさんは、右手に持つペンを元の場所に戻し、キッチンへと向かった。
リリアさんが朝ごはんを作っている間、リリアさんからほっぺたにどんな落書きをされたか気になった俺は一度鏡で確認をし、食事用のテーブルの前に設置されている椅子へ座ったのだった。
ちなみに、リリアさんによって俺のほっぺたに書かれた落書きは、右ほっぺが二重丸で左ほっぺが星形だった。
左右で違うものを書くって、リリアさんは中々面白い人だなーと思いつつ、確かリリアさんが使っていたペンのインクって水では中々落ちなかった気がするけど、でもまー良いか。




