10話
何でこんな流れになったのかよく分からない。
いや、エリクさんは、ハイ・ウィザードでありウィザードよりも上位のクラスに着いている。だから強力な敵も倒せるはずだし冒険者のランクも高く、1回依頼を成功させる事で稼げるお金は俺みたいな新人冒険者の比じゃないだろう。
「お姉ちゃん!? 私にきつい事言ったのに、なんであんな女たらしのウィザードとデートなんかに行くのよっ」
ルミィさんがムスッっとした表情を見せながらエリクさんとデートに向かう姉の背中を見ながら言う。
ルミィさんの言う通り、印象だけで俺に対して女垂らしからやめておけと言いながらも、自分は妹のルミィさんをデートに誘ってダメだったにもかかわらず何のためらいも無く、すぐさま自分に対しデートの誘いを行う、なんて女垂らしである男の行動そのものを見ても、その主であるエリクさんの誘いを受ける、なんてアリアさんの行動はルミィさんにとっては理不尽な事に思える。
けれど、アリアさんはお金の為にどうのこうのと言っていた通り、お金の為多分生活のためならば仕方が無い行動なのかもしれない。
「ね、ね? カイルさん? デートの返事まだだったよね?」
アリアさんがエリクさんと一緒に立ち去った所で、ルミィさんはムスッっとした表情から一転させ、俺の腕を手繰り寄せ自分の腕と絡ませながらにこやかな笑顔を見せ上目遣い気味に言う。
「え? え? え?」
ルミィさんの、あまりにも積極的なアプローチに対し、やはり俺はしどろもどろになりながら一体何を言えば良いのか分からずに声にならない声を出してしまう。
「えへへ? ダメじゃないなら良いんだよね?」
ルミィさんが、上目遣いを見せたまま仔猫の様な甘い声で俺に言う。
不思議と、今まで通り俺鍛錬で忙しいからと言う言葉が出て来なくなってしまう。
何故だろうか? ルミィさんをふと見ると妙に可愛く見えてしまう、上目遣いとやらだからだろうか? 何だかよく分からない魔法に掛った様な気がした俺は、
「う、うん、良いよ?」
思わずルミィさんの誘いを受けてしまう。
今までこんな事は無かったと思うのだけども、いや、女の子からここまで積極的なアプローチを受けた事が無いだけなのかもしれないが。
「やった☆ ねね、カイルさん? いつなら時間空いてるの? 私は今からでも良いんだけど?」
俺からOKの返事を貰えたルミィさんは無邪気で可愛い気のある声で嬉しそうにはしゃぐ。
そんなルミィさんの姿を見ていると、俺の脳に可愛いと言う単語が支配を始める。
さて、今日はヴァイス・リッターで剣の鍛錬をする予定だったけど、ルミィさんが今からで良いと言うならば今からでも構わないだろう。
「俺も今からでいいよ」
俺は、何かに魅了されているかのようにルミィさんへ返事をする。
「わーい、ありがと☆」
ルミィさんは改めて笑顔を見せると、自分の腕と俺の腕を組んだままヴァイス・リッターの外に出て、比較的ゆったりとしたペースで目的のカフェへと向かう訳である。
目的のお店へは、セザールタウンの商店街を通る事になる。
このエリアは露店では無く店舗型のお店が立ち並んでいる。
それ等のお店は、飲食品を扱うお店や衣服や小物を扱うお店と言ったこの町に住む一般人に向けた商品を扱うモノもあれば、武器や防具、マジックアイテムや傷薬等の雑貨品と言った冒険者へ向けた商品を扱える店と言った様々なお店が立ち並んでいる。
現在の時刻は10時位で、身支度を整えお店で朝食を食べる一般人や冒険者、家庭に必要な食材等を買い出しに来た主婦達により賑わいを見せている。
「ルミィさんって、教会に居た時はどうだったの?」
「うーんっとねぇ、神様に向かってお祈り捧げたりしていたんだ。でも、たまに傷付いた冒険者さん達がやって来た時は治療術を掛けてあげたりしてたんだ」
「そうなんだ。教会に居た方が安全に思えるんだけど、どうして冒険者になったの?」
「えっとねぇ、何と無く、面白そうだったから、かなぁ?」
少しだけ口籠りながらルミィさんが返事をした。
「ははは、そっか、俺も似た様な感じかな、冒険者って面白そうだよね」
「うん。傷付いた同じパーティの人を癒すって、大切な仕事だもん」
あれ? 面白そうって話だったんじゃ? 何か違和感を覚えるけど……?
「そうだよね。魔物と戦ってる時も、自分達の傷を癒す事に専念してくれる人が居ると安心して戦えるからね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。聞いた話だけど、プリーストをぞんざいに扱う人達も多いんだ」
「そうなの?」
「うん。倒すのに無理の無い魔物相手の時とかは、誰も傷を負わないの。だから、そんな時はね。けど、私達プリーストも出来るだけ安全な依頼を受けたいから、よくある話なんだって」
少しばかり悲しそうに言うルミィさんだ。




