1話
―ヴァイス・リッター―
数多の冒険者が集うセザールタウン。
コルト大陸南部の中央部分に構えるこの街は人口10万人程集まり都市部として十二分に栄えている。
俺、カイル・レヴィンはセザールタウンで主に剣で戦う事い、ある程度の攻撃魔法も回復魔法も扱える万能型の冒険者を行っており、ヴァイス・リッターと呼ばれるパーティ・ギルドに所属している。
パーティ・ギルドとは、主義趣向が似ている冒険者達が集まる組織であり彼等と共に和気あいあいと楽しんだり、難しい依頼に直面した際共に戦いその困難を突破する仲間達でもある。
俺はまだ冒険者を始めて2年目で年齢は17歳と言う事もあり周りの先輩達に揉まれ日々成長をさせて貰っている。
うん、そうなんだ、そうなんだけど、俺の感性が間違っているのかな? ヴァイス・リッターにはすっごく個性的な人達が沢山居て、それで今日もまたどたばたと騒がしくなって来た訳だ。
で、今俺はヴァイス・リッター内の10人位が入れる程の広さである部屋に居る訳だ。
この部屋の中央に四角のテーブルが1つあって、それを囲う様に8人が座る事が出来、俺は丁度入り口から見て一番遠い場所に座っており、他の人達もそれぞれの椅子に座っている。
俺から見て丁度正面に居る人が、女垂らしで非モテで言動が何処か飛んでいるお犬の先輩ハイウィザードエリクさん。
あ、いや、これでもちゃんと人間ですから大丈夫ですよ。
俺の右には金髪ツインテールでセザールタウンのアイドルリリア・ロジフォード様、俺の同級生で弓を扱う事に長け、攻撃魔法も扱う事が出来る。
俺の左にはセミロングのピンク髪なルミィちゃんは聖女の子孫で、最近名実共に聖女として世間にも認められ来ている。
で、エリクさんの右に座るのが青紫色のさらさらストレートヘアーなセリカ嬢。
それでいて……。
『斧が攫われてオーノー』
ここで突然、俺の脳裏に直接下らない親父ギャグが聞える。
この声の主は、俺が背中に収める神遺物の1つである闘神の斧だ。
神遺物だけあってその切れ味は凄まじく、そこら辺のオーガとかその辺りの魔物の胴体なんてあっさりと一刀両断出来てしまう。
だからお世話になっている、感謝もしている。
だけど、だけど、毎回毎回毎回毎回(中略)まいかい、決まった挨拶の如く、凍え死ぬかと思う位さっむい親父ギャグを言いやがるんだ!
(おい爺さん、今俺は可愛い女の子達の紹介をしていたんだ! いや、1匹犬が入っていたけど! 空気読まずに邪魔するんじゃない!)
『フンッ、ワシの至高なギャグを理解出来ぬとはまだまだ若いのぉ! ワシのギャグは世界を爆笑の渦に包み込めるんじゃ! お主の感性が若すぎるだけじゃぞい!』
この爺さん、俺の脳に語り掛けて来る訳で、つまり俺が考えている事を盗み聞きして来やがる悪趣味を持ってやがる。
『なーーーーにが悪趣味じゃい! ウホッこそ正義なんじゃ! おなごのケツなんかよりもおのこのケツの方が引き締まって魅力的なんじゃ!』
何を勘違いしたのか、闘神の斧は聞いてもいない事を勝手に暴露しやがる。
要はこのホモ、斧なんだよ。
違った、この斧、なんかしら無いがホモなんだよ。
べっつにじいさん斧が男に興味深々でも俺に害が無いからどーでも良いんだけどさ。
俺は心が広いから自分に害が無い限り他人の性癖にとやかく言う趣味は無いんだよ。
『アンタ! まーーーーた下らない事を純情無垢な少年にふきこむんかい! いい加減におし!』
誰が純情無垢だ、失礼な! いや、失礼じゃないな。
この老婆の声は、俺達が手に入れたもう一つの神遺物の聖神の杖の声だ。
つまり、俺の脳内にはじいさんとばあさんが勝手に騒ぎ立てて来る訳だ。
別に軽く騒ぐぐらいなら良いんだけどさ、でもこの二人生前何があったか知らねぇが、兎に角仲が悪い。顔を合わせる度に痴話喧嘩して来やがる。
何でこの二人は生前夫婦じゃなかったんだよ可笑しいだろって位に喧嘩してきやがる。
『下らなく無いわい! 純真たるヲトメの心得を伝授しているのじゃ!』
『なぁにがヲトメじゃい! 純真たる少年が知りたいのは純白な美少女の心、オトメ心じゃい!』
『そんなモノ下らんわい! ヲトメ心を知ってこそ真の漢になるんじゃい!』
いや、俺が知りたいのはオトメ心でもヲトメ心でも無く武術や魔術の心得なんですが。
『遠慮するでない少年、ワシからオトメの心得を知りワシのひ孫娘達の心を掴むのじゃ!』
聖神の杖が言うひ孫娘達ってのは、同じパーティギルドに居る、アリア・ルーツさんとルミィ・ルーツさんの事だけど、彼女達の心を掴んで何か意味があるのだろうか?
『無粋、無粋じゃ!!!!惚れた男2人等ッ! 真の漢なら惚れた1人の男に闘志を燃やすのじゃああああ!』
『アンタの場合は掘れた男じゃろ』
『ぬおぉぉぉぉぉぉ、そんな事あるワケ無いじゃろッ! 純愛、真愛からなる真の闘志がそんな不潔なものなあるワケ無いぞぃぃぃぃぃ!!!!』
あのー、おじい様? 脳のお医者様ご紹介いたしましょうか?
「はっはっは、カイルさん! 落ち込んでいるみたいですが何かありましたか!」
闘神の斧と聖神の杖が繰り広げる痴話喧嘩に嫌気を差していた俺は、どうやらその感情が顔に出ていたらしく、対面に座っているエリク・ロードさんが高らかなに明るくハキハキとした声で俺を励ましてくれる。
本来なら、先輩に励まされた俺は落ち込んだ表情を隠し何事もなく振舞うのだが。
本来ならな? その、エリクさんは緑をベースとした配色のウィザードが纏うローブを着ていて円形で小さなレンズの眼鏡を掛けていてなんだかインテリっぽく見える。
頭には緑色のとんがり帽子を被っていて、外見だけなら風属性が得意そうなウィザードに見えるんですよ。
そう、ここまでならね?
…………ねぇ? エリクさん? どーーーーして犬の付け鼻をしているんですかねぇ? どーーーーーーして犬耳カチューシャしているんですかねぇ???? とんがり帽子の中に隠さず、前髪に器用に乗せて犬耳みせるんですかねぇ?
いやまぁ、理由は知っているんですが!? 俺を励ましてくれる気持ちは有難いんですが?
犬の付け鼻と犬耳カチューシャを付けて椅子に座っているワンちゃんに励まされても俺はどんな反応すれば良いのか悩まされるんですけど!
「カイル様。この駄犬がどうしても犬になりきりたいとおっしゃいましたからわたくしがお手をお貸しになりましたわ」
エリクさんの隣に座っているセリカさんは立ち上がると、すっと俺に一礼をしエリクさんの臀部目掛けて鞭を振るう。
彼女もまた、ウィザードが見に纏うローブを身に付け、三日月形のアクセサリーが付けられているとんがり帽子を被っている。
セリカさんより鞭で討たれ、きゃわーーーんと、悲鳴を上げながらも恍惚な表情を見せ、涎を垂らすエリクさん。
いやいやエリクさん? セリカさんが振るった鞭は椅子に当たったと思うんですが? どうして悲鳴を上げるんですか? いいや、どうして貴方はそんな恍惚な表情をするのでしょうか?