水とサカナ
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◇◇◇司、考える◇◇◇
魔獣の本拠地を目指し、俺と絵里は進んだ。
進めば進むほど、荒野が広がり、草木は枯れていく。
今まで飲んでいた川の水を持ってきてはいたが、まもなく尽きそうだ。
『私の体を通したら、多分どんな水でも飲めるよ。飲ませてあげようか? 口移しで』
絵里はそう言って笑うが、なんとなく照れくさい。
というか、イソギンチャクに口をつけるって、俺には出来ない気がする。
俺の心が狭い、のか?
俺は、この辺りの地面の土を触ってみる。
「粘土質だな」
少し掘ってみると、土壌には石灰質も含まれている。
「ここの土を掘って、地下水が湧いてきたら、飲用水で使えるよ、きっと」
『なんか硬そうな土だけど、手で掘るの?』
「まさか」
俺は笑う。
だって、俺にはこれがあるから。
俺は渦の先端を地面に向ける。
渦は、先端を掘削機のような形に変え、地面を掘り進む。
数メートル進むと、地下水が湧いてきた。
「絵里、ちょっとこの地下水に触れてみて」
絵里が触手を伸ばして地下水に触れる。
特に変化はない。
あの物質が含まれていたら、絵里の体は発光するのだ。
「大丈夫。ふつうに飲める!」
俺たちはこうして、飲用水を確保しながら進んだ。
なるほど。
当初の計画で、地底を進ませるのは多分間違っていない。
出発前に、大量の保存食を貰っているし、地底の水なら飲めるだろう。
だから。
あの四人なら、なんとか、目的の場所に辿り着けるだろう。
辿り着く、だけならば。
◇◇◇遠藤は苦しむ◇◇◇
俺たちは、たまに出る魔物を適当に倒しつつ、洞窟の出口を目指していた。
くたびれたら寝る。
起きたら歩く。
こっちの世界に呼ばれてから、何日たったのだろう。
元の世界はもう夏か?
時間の感覚がないので、いつも頭はぼんやりしている。
そういやあ。
追放した司は、太陽の出た方向だとか、陽が沈むまでのおおよその時間とか、なんかチェックしてたっけ。
ウザイので、止めさせたけど、あれって必要なことだったのか。
だったら、そう言えばいいのに!
ああいう陰キャは、必要なことまで黙ってるからな。
だからメンドい。
洞窟の中は、天気も分からないし、空ももちろん見えないから、イベント性がまるでない。だから俺は斎木に訊いた。
「なんかさあ、ステータス・オープン! みたいなこと出来ない?」
「ああ、いつでも出来るぞ」
何?
早く言えよ!
まあ、斎木も陰キャだからな。
ステータス・オープン!
俺の固有能力は『切り裂きの剛剣』だが、称号は刀剣士だった。
剣のレベルは九と出た。
マックスは十だろうな。
百だったら笑える。
特殊技能に『線を切る』とあった。
なんだろ?
電線でも切るってのか?
まあいいや。気が晴れた。
他の連中もレベルは八か九だった。
気が晴れたら腹が減った。
洞窟の内部には、水がちょろちょろ流れてる。
たまに魚の影も見える。
そうだ!
俺は沢野に声をかける。
「なあ、沢野。水面に拳ぶつけたら、サカナが跳ねあがってくるんじゃね?」
沢野は首を振る。
「あんたがやれよ、リーダーなんだから」
沢野の奴、いつもは俺をリーダーなんて呼ばないくせに!
「あんたが剣で突いた方が早い。なんでも切れるんだろ?」
そんなことを言われたので仕方なく、俺は滅多やたらに水を切った。
何匹か、サカナが獲れた。
俺は斎木に頼む。
「このサカナ、お前の炎の魔術で焼いてくれ」
斎木は、思いきり嫌な顔をした。
「サカナ焼く? そんな火力調整、難しい。それに、洞窟の中だと酸素が少ないから、上手く焼けないぞ」
酸素って……
モノを燃やすのに必要なのは、俺でも知ってるさ。
コイツ、俺をバカだと思ってるのか!
「いいから焼けよ!」
俺が怒鳴ったら、斎木はしぶしぶ火を出した。
そして斎木が焼いたサカナは、表面が結構焦げていた。
それでもまあ、焼き魚の匂いは久しぶりで、俺と沢野はガツガツ食った。
表面は焦げてても、中身は、生焼けだった。
結果。
俺も沢野もしばらくの間、便所代わりに使っている、岩の陰から出られなかった。
そんな俺を、葛西が冷ややかな目で見つめていることに、俺は当然気付かなかった。
よろよろしながら、俺は斎木と葛西が待つ場所へ戻る。
葛西は斎木に顔を近付けて、ひそひそ話をしていた。
俺はカッとなった!
「おい斎木! なんつーもん食わすんだよ! それに妃那! いや、葛西! お前、回復士なんだから、ちゃんと俺の治療しろ!」
斎木は、冷ややかな目で俺を見る。
「俺、言ったよね? 何のサカナか分かんないから、食べない方が良いって」
葛西も肩をすくめて俺を見る。
「あたし、二人の治療やってたよ、こっから。あんまし、近づきたくなかったし」
「だいたいお前ら、何コソコソしてんだよ! つ・き・あって、い・る・ん・ですかっ!」
「バッカじゃないの?」
葛西の冷めた声。
「もう少し先から、細い光が来てるみたいだ。だから、そろそろ地上に出られるはずだって、相談してただけだ」
斎木がいつもの調子で言う。
俺は、マジほっとした。
沢野も戻って来た。
「地上に出られるのか?」
「そのようだ」
よっしゃあ!
狭い洞窟にいると、何かと窮屈だ。
つまんない諍いも増える。
地上に出たら、思いきり剣を振り、魔物を倒しまくるぞ!
なんたって、俺たちは選ばれた、この世界を救う者なんだから!
それからは、全員早足になり、出口を目指した。
出口に近づくと、弱いながらも光が増えてくる。
出口だ!
洞窟の出口で外を見ると、茶色い平面が広がっている。
「やった! 出たぞ!」
ようやく俺もみんなも、笑顔になる。
全員で、ハイタッチした。
その時だった。
「グアアアアア!!」
「ギャアギャアギャア!!」
魔物がいた。
しかも一体二体ではない。
十体以上の魔物たちが、出口の周囲をぐるりと囲んでいる。
俺の背中に冷たいものが流れる。
なぜなら。
ソイツらは、洞窟に入る前に闘った奴と、全く違っていたのだ。
体の大きさも、禍々(まがまが)しさも……
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次回、司と遠藤達が再会します。
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