地上の無双・地底の無能
いつも応援ありがとうございます!
ようやく、「知略企画」的なエピソードが入ります。
ただし、戦闘シーンがありますので、苦手な方は、ご無理なさらずに。
◇◇◇地上の無双◇◇◇
俺がそれに気が付いたのは、絵里の一言だった。
『あたし、夜でも見えるよ』
イソギンチャクの絵里の体は、確かに、暗闇で薄っすらと発光する。
その発光の強さは、討伐が進むと同時に、段々増している。
海洋生物って、自然発光するんだっけ?
ああ、そういえば、藻類には蛍光を出すものがいたな。
絵里は、転移してくる時に、イソギンチャクと、それに付着していたものを手に持っていたという。
多分、絵里が変貌したイソギンチャクの体内には、藻類が取り込まれているんだろう。
それにしても。
俺の知識が正しければ、藻類を発光させている物質は、L-ルシフェラーゼだ。
つまり、ホタルの発光と同じ。
だが、絵里の発光色は、ホタルの光とは似ていない。
プリズム色とでもいうのか、きらきらした七色の光が、その時々に移り変わる。
夕暮れ時、絵里の体が、淡いレモン色に発光し始める。
『敵だよ、司!』
「何処から?」
『空!!』
ギャアギャアという鳴き声と共に、夕焼けの空から真黒な塊が降ってくる。
鳥か? 何羽いるんだ!
目算で、片翼二メートルはありそうな鳥の姿をした魔物は、十羽以上飛んでいた。
よし!
せっかくの機会だ!
試してみよう!
それは、竜巻の渦!
俺の両手から、直径一メートルの渦が発生し、周囲の空気を巻き込みながら、上空へと上がっていく。更に同じ大きさの渦を立て続けに放出する。
渦は渦を巻きこんで、直径十メートルの大きさに成長する。
あっという間に空飛ぶ魔物らは、渦に巻き込まれる。
それらの翼は裂かれ、体は四散した。
そのうちの何羽かは、地面に激突した。
翼は大きいが、頭は小さく足が三本。猛禽類のような嘴を持っていた。
体型は、ムクドリに似ていた。
『やったね、司! こっちは無傷で倒せたじゃん!』
「うん、想像以上だった。これが直径百メートルクラスの竜巻になると、電車の車両が飛ばせるらしいからね」
ヒュンッ!
そんな軽口を俺がたたいていると、いきなり俺の頬をかすめて何かが飛んだ。
俺が振り返ると、頭と胴体を切り離された蛇のようなモノが、胴体だけ、地面をのたうち回っている。
俺の頬をかすめたのは、絵里の触手だった。
『危なかったね! 音もたてないでやってきたから』
「よく分かったね、絵里」
俺は心底驚いた。
索敵をしていたのか?
『うーん、なんだろ? 私の体、敵がいると、反応するようになったみたいなの』
絵里の体の中心から、パトカーランプのような、赤い光が出ていた。
赤色の発光?
ダイオード?
まさか……な。
何の影響なんだろう?
藻類の発光と、どう違う?
考えろ! 俺!
考えるんだ!
俺は暮れていく空の下、黙考する。
俺が何かと闘う場合、他の人よりも有利な点があるとすれば、生き物全般に詳しいことと、少しだけ、科学の知識を持っていることだけだ。
もっとも。
出発してすぐに、この世界の重力や天候を調べていたら、遠藤にどやされたっけ。
「んなもん調べたってムダ無駄! ちっ! 陰キャはこれだから」
陰キャで悪かったな。
その場は俺が退いたが、密かに調査は続けていた。
結果、元の世界、すなわち地球と、重力も気候も、ほぼ変わらないことが分かった。
出て来る魔物たちも、見知ったことのある生き物が、ベースになっているように思う。
俺はさらに考える。
出発前の打ち合わせで、王とその側近からは、無駄な闘いを避けるため、途中から地底を進めと言われた。
なんで、魔物を避けるために、地底を進むのだろう。
むしろ地底なんて、強い魔物が出やすいんじゃないか?
あくまで、俺がやったゲームの話だが。
そもそも。
王が言っていた、「厄災」とは何だ?
何百年かに一度、落ちてくる……
落ちて……
厄災に近づくと、川の水は飲めない。
見たことのある生き物の、体型や性質の変化は後天的なものなのか。
だとすれば、
まさか厄災って!
もし俺の考えが当たっているなら、剣や魔法だけで、それを完全に淘汰出来るのか?
そして、王は俺の力が最強とかなんとか言ったが、どこが有効なのだろう。
ツンツン
ツンツン
俺の思考は中断された。
「何? 絵里」
『まーた考え事でしょ』
「うん……」
『司の悪い癖だね、司。一人で悩んだって、答えは見つからないよ!』
「そう、だな」
思考が行き詰まった時、絵里の一言は救いになる。
本当に、一人じゃなくて、良かったよ。
とりあえず、夕飯にするか。
遠くの地平線に、陽は落ちた。
◇◇◇地底の無能◇◇◇
「ったくよお、どこまで続いてるんだ、この洞窟」
前を行く遠藤がぶつくさ言っている。
言ったところで、状況が変わるわけじゃないのに。
みんな、同じ思いでいることを分かってないのか。
「沢野さあ、一発壁ぶち抜いて、地上に出ようぜ」
遠藤はそう言うが、雇い主である国の王の命令は絶対だろう?
俺が黙っていると、遠藤は剣を抜き、無駄に空中を切る。
奴の剣の腕は、それだけは確かだ。
俺は体術と拳法をずっと習ってきたが、剣道や弓道もそれなりに習得しているから分かる。
ただ、悲しいかな遠藤は、剣さばきの技術はあっても、心根が育っていない。
集められたメンバーで、一番体力がなさそうだった御陵を、真っ先に弄り、その立場を貶めたのが遠藤だ。
俺は本来、仲間は大切にする主義だが、如何せん御陵は力が足りなかった。
いずれ敵が強くなったら、多分命を落とすだろう。
もし御陵をかばって、主要メンバーが撤退することにでもなったら、目的が達成できない。
だから俺も、追放に賛成した。
「あー、むしゃくしゃしたら、腹減った」
遠藤が剣を納めた。
「今日の飯番、誰だ?」
おっと、俺だ。
俺は荷物から乾パンもどきを出して、遠藤、斎木、葛西に渡す。
「またコレ?」
葛西は思いきり顔を歪める。
美人のしかめっ面は、一層醜いものだな。
ただ、言いたい気持ちは俺も分かる。
「一日三個で十分だと、王の側近言ってただろ?」
斎木は食に興味がないというか、食も細い。斎木のようなタイプなら、これで十分だろうな。
「地底に潜る前は、もうちょっと、食事っぽいモン食ってたよな」
既に三個を食べきった、遠藤が言う。
「そりゃあ司がさ、俺らが倒した魔物さばいて、干し肉にしたりスープにしたりって細かい作業やってたからな」
斎木のセリフに、葛西はまた顔をしかめる。
「うげっ! あたしたち、魔物の肉食べてたの?」
「やっぱ、アイツ許せねえ! 今度会ったらシメる!」
遠藤も忌々しそうに言う。
「旨そうに食ってたじゃん、二人とも。アイツさ、この世界の生き物も、基本、元の世界と同じだから、加熱したら食えるって言ってたぜ」
そうか。
そうだったのか……
俺はてっきり、弱そうな御陵は、きっと飯炊きや洗濯係になるだろうと、王宮の連中が干し肉などの余分な食べ物を、あらかじめ持たせてたと思っていた。
なんだよ。
もっと。
もっと早く、教えてくれれば、追放に賛成なんて、しなかったのにな。
お読みくださいまして、ありがとうございます!!
誤字報告、助かります。
次回、謎解きながら、皆合流?
参考文献:近江谷克裕著「発光生物の光る仕組みとその利用」化学と教育、64巻8号、2016