力のレベル・人としてのレベル
修行のお話です。
応援、ありがとうございます!!
誤字報告、助かっております!!
◇◇◇力のレベル◇◇◇
初めて魔物を倒した時に、俺は魔物の歯をいくつか手に入れた。
歯と言っても、鋭角的に尖った、大きな牙だ。
数日後、前回の魔物の倍はある、大型の魔物と遭遇した。
俺は手に牙を三本持ち、渦の初速度と回転を上げた。
狙いは、魔物の眉間と両眼!
キュルキュルと渦は風を巻きこみ、牙を運ぶ。
勢いよく運ばれた牙は、狙い通り三か所に突き刺さる。
「グアアアアア!!」
魔物は咆哮し、地響きを立て倒れた。
牙が刺さった眼球が、コロコロとこちらへ転がってくる。
眼球は拳ほどの大きさで、石のように堅いものだった。
これはまた、次の機会に使えそうだ。
絵里の触手を、ブチブチ切らなくて済む。
俺は倒れた魔物の体を調べた。
手足はそれぞれ二本ずつ。
外皮は、針のような毛で覆われていた。
グリズリーといった感じの魔物だったが、手足の爪は、それぞれ六、七本生えていた。
「熊なら、焼いたら食えるかな」
『や、止めておこうよ……』
そんな絵里の声が聞こえたので、とりあえず止めた。
俺は魔物の死骸を処理したのち、食事を摂ることにした。
討伐の旅に出る前に、大量の乾パンや保存食を貰っている。
追放された時、俺のバッグにもそれらは入っていた。
絵里は体内に藻を抱えているからなのか、食事は特に必要なさそうだ。
岸辺に草木が生えていれば、その川の水は飲んで良い、そう言われた。
草木が枯れ果て、水中に生き物の気配がなければ、その水を飲んではいけないとも。
地図を見る。
川に沿っていけば、厄災の場所まで、あと一ヶ月程度で辿り着くはずだ。
それまでに、戦闘能力を上げなければならない。
最悪、俺一人で魔獣に向かうこともあるからだ。
渦の操作は習熟しつつある。
力と方向の制御は、なんとか出来るようになった。
あとは。
一度に渦を何個まで生み出せるか。
そして最大出力をどこまで上げられるかだ。
その為には、とにかく魔物を倒すしかない。
魔物が出やすい地域を、しばらくは巡回する。
出発した時は、なるべく戦闘を避けながら、進む予定だった。
もっとも遠藤や沢野は力を試したかったみたいで、さほど凶悪でない小型の魔物も、よく狩っていたけど。
アイツらは、たしか途中から地底に入って、洞窟を進むはずだ。
火を灯して進めるならば、それでもいいだろう。
昼夜を問わず進軍出来るので、目的地に着くのも早い。
俺は夜目も効かないし、火の魔術も使えないので、日中になるべく距離をかせぎ、夜は体を休めることにした。
『あたしは暗くても見えるよ』
俺が寝ている間は、絵里が触手をあちこちに伸ばして、索敵してくれた。
ある晩。
ツンツン
ツンツン
『起きて、司! 敵!』
俺はそっと体を起こす。
グルグルと闇にうごめく魔物の目。
一体、二体、三体!
狼でも熊でもない、黒い体が近づいていた。
足音がない?
「ガオオオオ!!」
一気に俺を襲う影一つ。
俺は瞬時に渦をぶつける。
「ウギャッ!」
「ウゴオオ!」
俺の渦で弾き飛ばされた一体の影は、後から走ってきたもう一体にぶつかり、二体はそのまま地に落ちた。
木の枝を折るような音が、一回聞こえた。
いったん距離をとった三体目には、渦と一緒に拳大の、魔物の眼球を放つ。
狙いは、首だ。
ヒュン!
俺の渦の射程内にいた三体目の首に、堅い眼球が直撃する。
ごぼごぼと音がする。
魔物の首から、血液があふれた。
飛ばされた一体は、鼻息荒く、再度俺に向かってくる。
俺は渦を限りなく細くして、ソイツの顔面にぶつける。
「ガアアア!」
俺の渦は、魔物の顔面から首を通り、背骨を通過した。
渦が通った魔物の顔面には、ぽっかりと空洞が出来ていた。
明るくなってから確認したら、三体の魔物は、トラによく似ていた。
トラ型の魔物三体を退けることが出来た俺は、強さのレベルが上がったと実感した。
一方。
◇◇◇人としてのレベル◇◇◇
あたしたち四人は途中から洞窟に入り、地底を進んでいる。
地底を進んで、明るいところに出れば、そこがラスボスのいるところだって。
斎木の火を使い、たいまつを灯して進むので、まあまあの明るさは保たれている。
でも、なんであたし、こんな処にいるんだろう?
ダンスが好きで、ニューヨークに行きたくて、お金を貯めていたんだ。
パパ活もやった。
ストーカーもされた。
すべては夢のためだった。
あの日、飛鳥の石舞台で舞う写真を、撮る予定だった。
気が付いたら、ヘンな場所でヘンなことになってた。
まあ、いいや。魔力使えるみたいだし。終われば望みが叶うって言ってたし。
でも、虫が多いのはイヤ!
ちょっと立ち止まったり、休憩してると、腕や足に、なんか細かい虫がいっぱい貼りついてくる。
「ちょっと斎木! 風で飛ばしてよ、この虫」
耐えきれず斎木に頼んだら、アイツ、鼻で笑った。
「俺の風魔術じゃ強すぎて、おまえの皮膚も切っちまうぞ」
使えねえ!
だいたい地上で移動してた時も、虫いたけど、体に貼りつくことなんて全然なかったのに!
「ああ、そりゃあ、司がうっすい風の渦巻きを、全員に流してたからな」
何それ、聞いてないよ!
みんなでアイツを弄って、バカにして、追い出したじゃん。
あたしもだけど。
だいたい、司はキモかった。
あたしがキツイこと言っても、へらへらしてるだけでさ。
胸の谷間見せても、顔背けたし。
ああいう童貞臭さ満載の男、なんかメンドー。
「ねえ、光一郎! なんとかしてよ!」
なんのために、あんたと寝たと思ってんのよ。
リーダー格の遠藤を捕まえとけば、楽じゃん、こういうチームって。
ヘタクソだけどさ。
「うっさいよ、俺も虫、嫌いなんだよ!」
遠藤は、リーダーぶるのは好きだけど、地底に入ってからイライラしてる。
人としても、ちっさい!!
あーあ
こんなことなら、司を、追い出したりしなけりゃよかった。
次回、司は強くなって、無双パターン?
感想評価、ありがとうございます!!