終幕へあと一歩
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◇◇◇終焉◇◇◇
魔物の王である魔獣の居場所は、洞窟からほど近くの、丘の上だと聞いている。
瀕死の重傷だった遠藤はそのまま洞窟に置き、葛西には引き続き、治癒を頼んだ。
俺は沢野と斎木に作戦を伝え、魔獣討伐へ向かう。
「なあ司」
「なに?」
「魔獣って、どんなヤツだと思う? やっぱ、人、間?」
斎木は俺のすぐ後ろで、いつでも魔術を繰り出せるように構えている。
「多分、人間だ。姿形は、変わっていると思うよ」
歩きながら俺は答えた。
沢野は両の拳をマッサージしている。
『司』
「なんだ、絵里」
『この辺、放射能が強いよ』
確かに、絵里の体は、濃い紅色に光っている。
「そのようだな」
絵里は言う。
『私が細かいミストを出しとく。少しだけど防げるよ!』
「ありがとう! 絵里」
俺がポケットに向かってしゃべっているのを見て、斎木と沢野は怪訝な表情になったが、何も聞いてこなかった。
絵里の言葉とおり、薄っすらとした霧が全員の体を覆う。
心なしか、呼吸が楽になったような気がした。
いきなり!
地面がぼこぼこと盛り上がる。
木の根のようなものが、俺たちに襲いかかる!
「火炎発射!」
構えていた斎木が、あっという間に、うごめく根を焼き尽くす。
俺たちは、既に魔獣の領域に足を踏みいれていた。
「近い!」
「おお!」
小走りに進むと、空が闇に変わる。
小高い丘一面に、漆黒の存在が待ち構えていた。
「魔獣か!」
魔獣は耳障りな重低音の響きを、全身から発する。
俺は掌を魔獣の躰に向ける。
その中心に、最高出力の渦をぶつけた。
ぶつけたところは、少し凹むが、傷はついていない。
「うわっ! マジか!」
沢野が魔獣の体を見て叫ぶ。
魔獣の体表面には、次々と魔物の首が現れてくる。
現れた魔物は、魔獣の体表を抜け出し、俺たちに向かって走り出す。
「絵里!」
『オッケー!』
絵里は触手をピアノ線の様に伸ばし、走り始めた魔物の動きを封じる。
そのまま次々と、魔物の首を落としていく。
絵里の触手で藻掻く者は、沢野が拳をぶち込んでいく。
しかし、キリがない。
魔獣本体を倒さないかぎり、魔物は無限に発生する。
魔獣は、闇のような体に似合わない、小さな頭部から、俺たちを見下ろしている。
「おいおい、ホントにアイツも、元は人間かよ!」
斎木も次々に発生する魔物を、魔術で排除している。
「斎木! G計画を決行するぞ!」
斎木は無言で片手を上げる。
「絵里! 打ち合わせしたとおりだ!」
『わかった!』
俺の、俺たちの標的は魔獣の頭部だ。
さらに言えば、頭部の中の、視床下部を攻撃する!
視床下部には、人としての感情や行動を制御する、遺伝子領域が存在するからだ。
そして、俺の持つ固有能力、「渦」とは。
言い換えれば、螺旋。
絵里の触手と組んで、魔獣の持つ遺伝子の、螺旋構造に、入り込む!
「いっけえええええ!!!」
俺の渦は、絵里の極限まで細くした、目には見えない触手を巻き込み、魔獣の頭部へとハイスピードで突き進む。
ズサッ!!
俺の渦は、絵里の触手を魔獣の頭部の奥まで導く。
俺の脳裏には、絵里の触手が魔獣の視床下部で、現存する遺伝子をくるくると書き換えていく様子が映った。
「ぐあああああ!!」
魔獣は頭を大きく振りながら、後退していく。
カッチーーーーン!
魔獣の遺伝子の組み換えが終了した!
同時に魔獣は、地響きを立てて倒れた。
倒れた魔獣は、みるみる体が萎びていく。
魔獣の躰から生み出された魔物たちは、黒い煙に変わっていく。
「や、やった、のか?」
恐る恐る斎木が訊く。
「確かめる」
俺は答えた。
「お、俺も行く」
沢野が後からついて来る。
俺は、倒れた魔獣を見下ろした。
魔獣は、褐色の肌をした人間の姿になっていた。
日本人とは雰囲気が違う。
どこか異国の、肌と髪。
魔獣であった者は、目を開ける。
「…………」
言葉は聞き取れなかったが、俺には「ありがとう」という唇の動きに見えた。
「終わった。とりあえずだけど」
俺は沢野に頼んで、地面に拳を打ち込んでもらう。
地割れがおこった土塊を、俺は渦の力で宙に浮かす。
魔獣の本拠地であった場所に、土塊をどんどん積み上げる。
この地の土質は、粘土に石灰質が含まれている。
本拠地を土で囲めば、残存する放射能も封じられる。
土塊の墓標が、荒野に立った。
次回、完結します。
残された謎も、明かされることでしょう。
そして、隠された「知略」は何だったのか、ということも。