アマゾネスが転校してきた!!
真面目に日々を送っているはずなのに、今日のテレビの占いでは最下位だった。しかも踏んだり蹴ったりな内容で、原稿を読み上げるアナウンサーのお姉さんですら、本当に申し訳なさそうに「ご、ごめんなさい……最下位の方は──」としょんぼりしていた程だったのだ。
「なんだよ、急にハゲて轢かれて大金を失ってヤクザにボコボコにされるって……」
常軌を逸した占い内容に、僕は思わず飲んでいた珈琲を噎せ返らせてしまい、それが長引き家を出るのが遅くなってしまった。
「マズい、このままじゃあ遅刻だ……!!」
全力で走る僕は曲がり角へ……ココを抜ければ学校は直ぐそばだ!!
「いっけなーい! 遅刻遅刻ー!!」
「──!!」
──ドカッ!!
「うわっ!」
「ゾネスッ!!」
曲がり角で漫画肉を咥えた女の子とぶつかった!
「ご、ごめんなさい!!」
「こ、此方こそ……!!」
女の子が慌てて走り去る。僕も女の子と同じく学校の方へと向かおうとするが、突如後ろから悲鳴のようなものが聞こえた──!!
「イヤーッ! ひったくりよーー!!」
慌てて振り向くと、お婆ちゃんのチャンピオンベルトをひったくった悪漢が、お婆ちゃんを掌底で突き飛ばし、走り去ろうとしていたのだ……!!
「た、大変だ!! けど、遅刻しちゃう……いや、お婆ちゃんの方が大事だ!!」
「ウム、その意気や良し!!」
僕の先を行った先程の女の子が、背中からブーメランを取り出し、僕の方へと構えていた。
「え?」
「伏せおけぃ!!」
「──ファッ!?」
──ブオンッ!!
盛大な風切り音と共にブーメランが女の子の手から放たれた!! 僕はそのいきなりな行動に、回避がワンテンポ遅れてしまい、しゃがむのが遅くなってしまった!!
──ヂッ!
僕の頭をブーメランがかすめる音がした。振り向くと、ブーメランは悪漢のケツに見事突き刺さり、悪漢は悶え苦しみ、地面にのたうち回っている。
「わーお」
僕の頭から髪の毛が舞い散り、一気に頭頂部が涼しくなった。
「僕の髪の毛がぁぁ!!」
ザビエルもビックリ仰天する謎のヘアスタイルが完成し、気が付けばブーメランも謎の女の子も消え失せて、遅刻を告げるチャイムが僕に追い打ちをかけたのだった。
「ちくそい!!」
仕方なく僕は近くの床屋で髪の毛を全て取っ払った。これ以外にバランスを取る方法が無かったのだ。
「おいwww なんかハゲおるでwww」
友達には酷く笑われ、女子には冷たい目で見られてしまう。
「不慮の事故だよ……!!」
「WWWWWwwwwWWwwww」
「草に草生やすの止めぃ!!」
僕は友達の顎を外し、これ以上笑えないようにしてやった。
「おーい、お前ら席に着けーい。突然だが転校生だぞー」
「──!?」
浮き足立つクラス。そして担任の後ろからブーメランを背負った女の子が現れ、ペコリと会釈をした。
「ウォォォォォ!!!! 女の子ダァァァァ!!!!」
まるで一世一大の大勝負にでも勝ったかのような叫び声で歓喜する男子達。待て待てお前ら、背中のブーメラン様が目に入らんのか?
「ドーモ、アマゾンの方から来ました『アマゾ・ネス子』です。ヨロシクね♡」
バチコーンと特大のウインクをすると、男子達は雄叫びを上げて歓迎した。友達に至っては顎が外れたまま叫んでいた。なんて器用な奴だ……。
「お、女の子ォォ……!!」
「彼氏居るのかな!? かな!?」
「俺ピザ頼もうっと……!!」
一人どさくさに紛れて食欲を満たそうとしている奴がいるが、僕には関係ない。速く帰って長い友達を失った悲しみを癒やしたい……。
「さて、ネス子ちゃんの席は……っと」
男子が急にナイフをポケットから取り出し「短い付き合いだったな……」と隣の人に別れを告げ始めた。
「あのハゲの隣だ」
「──!?」
クラス中のナイフが僕の方に向けられた。そう言えば隣の席は空席だったっけ……。
「ふぇふぇーふはひるひか……!!」
顎の外れた友達が、僕の背中をナイフでツンツンと突く。僕はお前らの神経を知りたいわ……!!
「あっ、見て見て! 校庭に犬が来たわよ!?」
その時、一人の女子がグラウンドを指差して叫んだ。今は犬より男子の殺気を何とかして欲しいんだけど……。
──ブロロロロロ!!
おいおい……犬の鳴き声にしては随分とエンジン音が激しいけど……。
「暴走10㌧トラックだ!!!!」
グラウンドを見た車に詳しい男子が声を荒げた!! なんと平和な学校のグラウンドに暴走トラックが侵入してきたと言うのだ!! 全然犬じゃないじゃないか!!
「先生!!」
クラス中が先生に解決を求める声を上げた。しかし肝心の先生は狼狽えるばかりで困り果てていた。
「スマン、先生の免許じゃ大型車は扱えないんだ……!!」
いやいや、そう言う問題じゃないだろ。とツッコミを入れたくなるが、そんなことよりトラックが暴れるグラウンドでは、隣のクラスが体育の授業をしており、その中には僕の意中の女子──川崎山羽ちゃんが居た!!
「山羽ちゃんが轢かれちゃう!!」
僕は居ても立っても居られずにグラウンドへと向かった。
「ヘイ、あちらのお客様から助太刀デース」
グラウンドへ走る僕の後ろをブーメランを背負ったネス子が付いてきた。
「さっきはよくも……!!」
「何のことですかー?」
「か み の け !!」
僕が出来たてスキンヘッドを指差すと、ネス子は「あー!」と思い出したかのように手を打った。
「大丈夫! 今度はキチンと避けてよ!」
「僕のせい!?」
話にならないネス子はさて置き、僕は暴走10㌧トラックが暴れ回るグラウンドへと辿り着いた。山羽ちゃんを探すと、なんと地面に倒れ、今にも轢かれそうな勢いであった!!
「うおー!!!!」
肺の血管がはち切れんばかりの全力疾走!! ココで山羽ちゃんが死んだら、僕は一生後悔する!!
「その意気や良し! 必殺! アマゾネスブーーメラン!!」
ネス子が大声で叫んだ。後ろを見ている余裕は無いが、きっとその名の通りブーメランを投げたのだろう。
「山羽ちゃん……!!」
僕はトラックの前に飛び出し、山羽ちゃんを掴んで転がった!!
──パァァン!!
トラックのタイヤから強烈な破裂音が鳴り、トラックの軌道がガクンと変わる! ギリギリでトラックは横をすり抜け、そのまま職員室へと突っ込んで行った…………。
「あ、ありがとう……!!」
山羽ちゃんが僕の胸で子犬のように震えている。体操服姿も相まって、実に可愛らしい。
「いえいえ、山羽ちゃんが無事ならそれで……」
紳士らしくスッと立ち、そして歩き去る。目を閉じて哀愁を漂わせ、そしてバイクに轢かれた。
「こんにちわー。ドミナpizzaでーす」
バイクにまたがった女子大生らしき女性が、悪びれも無くモグモグと何かを食べながらピザの箱を取り出した。まさかピザ食べたのかこの人……!?
「ご注文のピザでーす♪」
ピザを頼んだ男子が、ネス子に「これどうぞ!」とピザを手渡した。学校で出前ピザ渡すって、そうとうだなこれは……。
「ありがとう!」
──パカッ
ネス子がピザの箱を開けると、そこには白い粉が入った袋が一つ入っていた。
「?」
「……あれれ? さっき怖いお兄さんに道を聞いた時かな?」
配達のお姉さんが笑っている。いやいや、これどう見てもハイになるクスリじゃ……!!
「待たんかいワレェェェェ!!!!」
案の定パンチパーマの大群がグラウンドへとやってきた。銃やら木刀やら思い思いの武器を手に、凄まじい威圧感でこちらを睨んでいる。
「粉返さんかいワレェェェェ!!」
もう『粉』って言っちゃってるし…………。
「じゃね~」
配達のお姉さんがバイクで去って行く。頼みの綱の先生達も暴走10㌧トラックが職員室に突っ込んだので、誰一人として出て来ない。最早絶対絶命である……!!
「と、とりあえず粉を返そう……ね?」
「あいな」
ネス子が粉を放り投げる。粉袋が空高く飛び、パンチパーマ軍団の方へと向かってゆく。
──ブオンッ!!
「ファッ!?」
──パァァン!
突如ブーメランが粉袋をモロに捉え、粉袋は盛大に破裂しその中身をぶちまけた。
「…………」
「…………」
「…………」
僕、パンチパーマ軍団、ネス子がそれぞれの唖然と沈黙を引っ提げた。そして赤トンボがパンチパーマの頭に止まった瞬間、世界が再び動き出した。
「何してますの!?」
「何やっとんじゃワレェェェェ!!!!」
「ハワワ! 動く獲物を見たらつい……!!」
ネス子が笑いながら手を合わせて謝る素振りを見せたが、パンチパーマ軍団様の怒りは既に頂点を超え、原点復帰を不可能な限りにしている。
「……えいっ!」
ネス子がポケットから何かを地面に叩きつけた。するとたちまち辺り一面が煙に包まれ、全てが白に覆われた。
「うわっ! な、何だぁ!?」
「ワレェェェェ!!」
そして煙が晴れると、パンチパーマ軍団と僕だけがグラウンドに残されていた。
「──!!」
「ワレェェェェ!!!!」
襲い掛かってくるパンチパーマ軍団! 僕は一目散に逃げ出し、大声でネス子の名前を叫びながら逃げ続けた──!!
そしてボコボコにされて死にかけながらも家へと向かう。酷くくたびれた僕は、パンチパーマ軍団が捨てていった木刀を杖代わりに、何とか家へと辿り着いた。
「オカエリ!」
「あら、遅かったわね。ネス子ちゃんがお待ちかねよ?」
もう何も言う気にすらならなかった……。
ネス子は悠々と夜ご飯を食べており、可愛らしいパジャマを着て笑顔で食卓に馴染んでいる。
「おま、あと少し警察の人が遅れてたら僕死んでたんだけど……?」
「ウン、餃子オイシーね!」
「そう? ありがとう♪」
誰も僕の話を聞いてくれない。
「あ、ソーソー。暫く家に住むのに、キミのお金使った!」
「──は?」
「こんな可愛い女の子と住めるんだから、安いものよねぇ?」
「──は?」
「気にするな。金は天下のナガレモノなり」
「────はぁ?」
僕はあまりの衝撃にその場で気絶してしまった。