4.アビンザの町
とりあえず行列の最後尾で順番待ちをする。多少は時間がかかると思っていたが、
行列になっていたのが不思議なほどスムーズに進んでいく。
たまたま混んでいる時だったのか…?ものの数分で自分の番になった。
門番は少し怪訝な表情で聞いてくる。
「見ない顔だな兄ちゃん、身分証はあるかい?」
「いや、田舎から出てきたばかりで持ってない。どこに行けば作れるんだ?」
ということにしておこう。よそから来た神なんて言ってたら
町に入る時点で頭のおかしい奴認定されても不思議じゃない。
よくあることなのか、門番は特に気にする様子もなく答えてくれた。
「それなら手っ取り早いのは冒険者になることだ。
登録すると図鑑がもらえてそれが身分証代わりになるぜ。」
ほほう、あの図鑑は冒険者なら誰でも持ってるものなのか。
今更出しても話がおかしくなるし、ここはそのまま聞いておこう。
「ありがとう。早速向かうことにするよ。他に何か手続きは?」
「いや、特にない。他の人もほとんど素通りだったろ?
荷馬車なんかがいると多少時間がかかるが…
兄ちゃんの場合は見たことがなかった上に軽装すぎたからな。
一応声をかけておこうと思ったら案の定だったってわけだ。」
要は不審者のような扱いだったわけだな。他との差を考えれば仕方ないだろう。
「なるほど。じゃあ…っと、どこに行けば登録できる?」
「ははは、せっかちだな。この道をまっすぐ行けばいい。
目立つ建物だからすぐわかると思うぜ。田舎出身でも字は読めるよな?」
町の中を見ると看板等は日本語で書いてあるようだ。
「大丈夫だ。色々ありがとう。」
「またな兄ちゃん。次通る時はほぼ素通りできるだろう。
服装が変わってたら呼び止めるかもしれんがな。ははは。」
陽気な人だな。まあ無愛想な門番よりあの方がいいだろう。
言われた通りに道をまっすぐ進む。道の両脇には色々な店が並んでいる。
武具屋、素材屋、薬屋、宿屋、飲食店…どこもそれなりに賑わってるな。
真昼間から酒盛りをしている連中もいる。実に楽しそうだ。
おのぼりさん状態で歩いていると、正面にでかい建物が3つ見えた。
真ん中に教会らしき建物。左に冒険者組合、右に商人組合と看板が出ている。
ようやく目的地に到着だ。
冒険者組合と書かれた看板の建物に入る。
左手には壁に依頼書らしき物が貼り付けてある。
右手には複数のテーブル席があり、結構な人数の冒険者が談笑している。
目的の受付は正面か。
受付の前まで歩いて行くが…
「おいおい、見ろよアイツの格好。」
「バカンス中か?」
「大方図鑑目当てだろう。ほっとけ。」
などという声が聞こえてくる。この格好じゃ言われてもしょうがないな。
気にせず歩いていき、受付嬢に登録したい旨を伝える。
「はい、登録ですね。この敷いてある板に血を一滴垂らしてください。
板の横についている針を使っていただくと簡単ですよ。」
血が必要なのか、困ったな。この依代に血液など流れていないし…
「おいおっさん!血の一滴も出さないで冒険者をやるつもりなのかよ!?」
「図鑑だけ目当ての奴でもすんなりできるぜ!?」
「帰ってママのしなびたおっぱいでも吸ってな!ギャハハハ!」
ひどい野次だな。しかしどうしたものか…
と、一人の若い冒険者が近づいてきて鋭い斬撃で俺の指をごく浅く斬り付けた。
「いい歳して血が怖いわけでもないだろう。
あまりアマンダさんの手を煩わせるなよ。」
受付嬢…アマンダが踵を返した若い冒険者に慌てて注意する。
「ちょっと!ゴンザナシさん!
すみません、悪い人じゃないんですが…」
野次を飛ばしていた者達はその光景を目にしておとなしくなった。
斬り付けられはしたが指から血が出ているはずもなく…いや、便乗したらいいか。
指を板に押し付け、同時に図鑑を出現させる。これでごまかされてくれないかな。
「あ、登録できましたね。…!?その図鑑の色は…?」
うまくいったと思ったのに…他の者に聞こえないように小声で話す。
「すまない。図鑑はここに来る前から持っていたんだ。
ただ、冒険者には登録していなかったから登録だけと思ったんだが。」
「ちょっとこちらの部屋に来ていただけますか?組合長を呼んで参りますので。」
「わかった。」
カウンターをくぐって奥にある部屋に入る。応接室のようだ。
「そちらにかけてお待ちください。」
そう言ってアマンダは隣の部屋に入っていった。
しばらく待っていると扉が開き、アマンダと筋骨隆々な老人が現れた。
2020/03/23
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話の流れは大きく変わっていません。