腐ってはいない・・・はず
気を隠すなら森の中という言葉がある。私は5人組との接触を避けるために出来るだけ1人にならないようにした。
当然凛とばかり一緒にいる訳にはいかず、様々な人と関わりを持つことになる。
「神薙さんってもっととっつき難い人かと思った」
そう言うのは最近色々と話すようになったクラスの吉田さんだ。実は下の名前はまだ覚えていない。
もともとがボッチで陰キャの私にとって凛以外の人との交流はかなり抵抗があった。しかし、先日のファンクラブを切っ掛けに少し距離を取るようにしていた私であった。二階堂なる人物から布教用なる薄い本を渡されたことがトドメとなり、あの五人組を見ると背後に薔薇のエフェクトが見えるようにまでなってしまったのだ。
私は断じて腐ってなどいない!
他人の趣味をとやかく言うつもりはない。好きで結構。
だが私は腐ってはいない!!
普通に恋愛もしたいし、最近まで身近に話をしていたあの五人組が薔薇を背負うところなど想像したくもない。
しかしあの布教用の内容は、まさしく布教用なのである。ディープ過ぎず、ライト過ぎず、頭の中にしっかり焼き付く程度にはピンポイントでこちらのツボを突いて、新しい世界の扉をこじ開けようとする。そんな内容なのである。これで扉に手をかけてしまえば後はズルズルと腐ってしまうのが目に見えている。
ダメだ私!今が踏ん張りどころだ。
という訳で出来るだけ多くの無害な一般人との交流を重ねる事で絶賛毒抜き中なのである。まぁこの毒抜きもかなりの苦行ではあるのだが。
「やぁ。久しぶりだね」
油断した。学校の外までちょっかいをかけに来るとは思わなかった。学校帰りに1人になった瞬間を突かれ、行手を遮られてしまった。
「久しぶりだね〜。多野君」
「最近さぁ。俺たちの事避けてるよね?誰かに何か言われたの?」
ド直球だったが後半がフンワリしていた為に思考がオーバーヒートした。だって薔薇を背負った相手が目の前にいて何だかそれっぽいセリフを吐いているんだからもう目が回るでしょう。
「やっぱりか・・・」
そう言って一歩踏み出す多野。
私は若干のパニックになりながらも何とかこの場から逃げ出そうと後ずさる。
一歩、二歩、三歩・・・そしてターンと思ったところで何かにぶつかる。
「残念でしたー」
そこにはこれまた笑顔で薔薇を背負った二ノ都がいた。
そこで二階堂のあの言葉が思い出される。
「私の推しは松X佐倉もしくは多Xニノです。」
多野×ニノ都・・・。当然薄い本も推しが題材な訳で・・・。まさに今の私にとっては劇薬な2人が目の前にいるのである。
「ちょっ。まっ。あの。えっと」
顔を真っ赤にしてアタフタする私を他所にニノ都が口を開く。
「キョドリ過ぎでしょ。神薙。やっぱりなんかあって俺たちから逃げ回ってるんだろ?」
安心させようとしてから笑顔を見せるニノ都。対照的に無表情の多野。恐らく、イヤ絶対何かに怒っていらっしゃる。
「何とか言えよ」
ハッキリしない私の態度にイライラした様子の多野。
「多ちゃん。そんないい方したら余計におびえちゃうじゃん」
ヘラヘラとした態度のニノ都だったが言葉の端にどこか刺のある感じがした。
「あの。えっと。とにかく一旦落ち着こう。そう呼吸を整えて・・・ヒッヒッフー・・・アイタ」
パニックで訳のわからないことを口にする私に多野のチョップが頭に炸裂する。
「取り敢えず落ち着け。そして聞かれたことに答えろ」
私を挟んで多野とニノ都がすぐ近くに・・・。はい、絵面的に私が邪魔です。そんな事を思いながら気がついてしまった・・・。
私・・・腐ってました。
今日も読んでいただきありがとうございます