コッチ ソッチ ドッチ
昨日は可笑しなファンクラブの勧誘に悩まされた優希と凛だったが、取り敢えず過激派とやらの実害がどの程度なのかわからない為、入会を保留にしていた。
会長の方でも過激派は抑えてくれると言うことなので、出来るだけ例の5人と関わらない様に逃げ回りながら毎日をやり過ごすのであった。
そんな状態で数日が過ぎ、ファンクラブの事が少し頭から離れ始めていた優希。
5人組も避けられているのを感じたのか、一時期ほど積極的な接触はなくなっていた。
松元に対する返事だけが、少し心に引っかかってはいたが、改めて返事をするにしても今は時期が悪いと自分に言い訳しながらズルズルと引き伸ばしていた。
「あの〜。神薙優希さん」
唐突に自分の名前、しかもフルネームを呼ばれた優希は声の主を見る。
そこには中学生位に見える可愛らしい少女がいた。上目遣いにこちらを見つめる姿が何とも愛らしい。
しかし、制服は優希と同じ物を着用しており、ここは学校である。この見た目中学生は間違いなく優希と同じ高校生である。
優希が返事に困っているとその少女は一歩前に出る。
「私、2年の二階堂彩と言います。」
ペコリ。と擬音がしそうなくらいな、漫画やアニメから出てきた様な動きに思わず笑みが溢れる。
「あの〜。神薙さん?」
小首を傾げながら覗き込む姿に同性であっても思わずときめいてしまう。
「ずっと前から好きでした!!」
プチパニックを起こした優希は自分でも訳がわからない事を口走ってしまう。
「はいっ!?あの〜。お気持ちは嬉しいのですが、もう少しお互いを知ってからお願いします」
意外にも真面目な返答が来た為に心にダメージを負う。
「あの〜。今日声を掛けさせて頂いたのはですね。神薙さんにお聴きしたい事があるからなのです。神薙さんは同じクラスの松元君たち5人組をどう思いますか?」
数日前にファンクラブを名乗る3人組に声を掛けられた事が思い出され、またかと言う思いと共に若干冷静さを取り戻すのであった。
「しっ、質問の意味がよく分からないけど。どうって・・・?」
困惑しながら言葉の真意を探る。もしファンクラブの過激派からの接触であれば答え方一つで自分と凛の身が危うくなる。
「私の推しは松X佐倉もしくは多Xニノです。相馬君はなんか総受けな感じしませんか?神薙さんあの5人と仲良さげなのに、他の女子と違って恋愛目線で見ていないって言うか、一歩引いて見ている様な気がするんですよね。だからひょっとしてコッチ側の人かなって。もし違っていてもコッチ側に来れる要素持ってるんじゃないかと思って」
一気に捲し立てる様に喋る彩。フンスと鼻息を荒くしながらいい笑顔を見せる。その笑顔に再びやられそうになる。しかし話の内容は予想の斜め上を行っていた。
(コッチ側ってドッチ側よ!?。確かに私は擬態した厨二病よ!。でも腐ってはいない!)
「ソッチの世界は本人が良ければ否定はしない。でも私は腐ってはいない!」
そう断言したものの、目の前の少女に心を奪われるあたり、薔薇よりも百合に目覚めそうな自分を理性で押し留める。
「そうですか。でも否定されないだけでもありがたいですね。露骨に嫌な顔されることもありますから」
そう言いながら俯いて目を逸らす彩。
きっとここまでくる間に幾多の拒絶を経験してきたのだろう。
優希も己の厨二病故、そうした経験も少なくない。今でこそ凛と言う親友を見つけ、擬態を学んだからこそ学校生活には溶け込んでいるが、自分に正直に生きたいと思う事もあるのだ。
一瞬の気の迷い、同情とは別の何か、目指す道は違えど同じ経験をしてきたシンパシー、彩はそれらの感情を見逃さなかった。
「あの〜。良かったお近付きの印にこれをどうぞ」
鞄の中から薄い本を取り出した彩は優希にそれを押し付けると元気に駆け出していった。振り返りながら笑顔で手を振る彩を笑顔で見送る。
(はぁ〜。一生懸命手を振ってる。可愛いなぁ)
そう思いながら手元の薄い本に視線を下ろす。そこには「Love Storm」と言うタイトルと四角く囲まれた布教用の文字。そして松元と佐倉井に似た2人がホットドックを両側から齧り合っている絵が描かれていた。
厨二病の優希ではあったが、絵心が無かった為、自作はおこなっていなかった。自分に絵心があればと練習した事もあったが、すぐに挫折した。
しかしその薄い本には優希が欲しかった絵心とそれに見合った努力を感じさせる物だった。自分が挫折してしまったからこそ、その努力が詰まった本を無下に扱う事が出来ずそっと鞄の中にしまう事しかできないのであった。
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更新なかなか出来ずにすいません。