忠告?
昨夜は胸の痛みに耐えながらベッドに潜り込んだが、結局よく眠ることは出来なかった。
いつものように寝坊してしまい、お母さんにいつもの様に怒られながら家を飛び出すことになる。
その日も1日精神をすり減らしながら学校生活を送った。今日はバイトもあったが、相変わらず集中できておらず、ミスを連発していた。今日は橋本さんと同じシフトだったが、かなり迷惑をかけてしまった。
「優希ちゃん。何かあった?」
優しい橋本さんは気遣ってくれるが、申し訳なさ過ぎてとても現状を相談できる状態でも無かった。
「すいません。すいません。ホントにすいません。しっかりやりますから。ごめんなさい」
私が必死に謝ると橋本さんは苦笑いをした後、少し真面目な顔になって言った。
「優希ちゃん。言いたく無いなら聞かないけど、あんまりため込まない様にね。これでも年上なんだし、少しは頼ってくれると嬉しいな。できるフォローはするよ」
その後はいつもの笑顔でこちらを見ている橋本さん。その顔を見たら私もしっかり答えないといけないと思った。
「すいません。橋本さんは本当に頼りになりますし、頼りにしてます。でもこれは自分で解決しなきゃいけない事なんです。話せる様になったら必ず話しますから・・・。それまでは迷惑かけると思いますがごめんなさい」
バイトは散々だったけど、少しだけ気持ちが軽くなったように感じた。少し年上なだけなのに橋本さんは凄いな。私も見習わなくてはと思い家への道を急ぐ。
翌日も何事もなく夕方まで過ごす。今日はバイトも休みだった為、放課後はゆっくりできる予定だった。教室を出ようとすると凛に呼び止められる。
「優希。今日はバイト休みなんでしょ?2人でお茶して帰らない」
一瞬考えたが、ここで断るのも不自然かと思い、2人で学校近くのカフェに行く事にした。
教室を出て下駄箱に向かっていると不意に後ろから声をかけられた。
「佐藤さんと神薙さん。少しお話よろしいかしら?」
名前を呼ばれて振り返るとそこには同じ学校の制服を着た女生徒が3人立っていた。
「私、この学校の生徒会長をやらせていただいています大元綾香申します。後ろの2人は生徒会役員の西䏮佑香さんと柏野彩乃さんです」
「はぁ」
私達は戸惑いながら返事をする。
「突然声をかけてすいません。実はお二人にお願いと申しましょうか、ご忠告と申しましょうか・・・。少しお話ししておきたい事がございまして」
大元と名乗った女子生徒は腰近くまである黒髪に赤い縁の眼鏡をかけていた。身長は他の2人よりやや高いが細身のせいかそれ程高いと言う言う印象はない。
「お二人はStormの方々と随分と仲がおよろしい様ですね」
「「Storm?」」
聴き慣れない単語にピンとこない私は凛の顔を覗き込む。凛も知らないとばかりに首を傾げる。
「そう。この学園のアイドルにして女子生徒の憧れ、非公式ファンクラブのメンバーも既に120人を超え、他校からも問い合わせが来るほどになりつつある5人組の殿方・・・」
そこまで捲し立てる様に喋った大元が一息つく。その隙を狙いすましたかの様に西䏮と柏野が口を挟む。
「こちらに見える大元綾香会長は、生徒会だけでなく、「Storm ファンクラブ」の会長をも兼任されていらっしゃるのです」
「ファンクラブの創設から運営に至るまで全てをおこなわれ、我々を導いて下さるんです。まさに「Storm」言う神に使える天使の様な存在なのです」
ドヤ顔の3人を見てドン引きする優希。そしていまいち状況が飲み込めていない凛。そして優希が控えめに手をあげる。
「あのー。Stormってなんですか?」
優希の質問に大元がギラリと目を光らせる。
「「Storm」とは至高の存在。全ての美と叡智の結晶。相馬様、多野様、佐倉井様、ニノ都様、松元様の5人を指し示す言葉ですわ」
興奮気味の大元を見ながら相変わらずドン引きな優希に対して、全てを飲み込んだ凛が口を挟む。
「やー。流石は生徒会長。その5人にその様な名称を付け、ファンクラブまで創設するとはお目が高い。是非是非私達も入会させて頂きたいです」
「ちょっ、凛?私まで巻き込むつもり?」
自分には関係ないと言いかけた優希であったが
「優希も入会するよね?」
と凄む凛に対してコクコクと頷く事しかできなかった。
その後凛と優希はファンクラブ入会のパンフレットや必要書類を渡されると共に、声をかけられた目的を聞かされる。
先日のオニオンランドの件であった。ファンクラブでは基本的に「Storm」を愛でる事が目的となっている。情報の共有などはされるが、プライベートに踏み込んだ盗撮や交友関係に踏み込む事は御法度となっている。
これまでは「Storm」の5人が特定の女子と仲良くする事は無く、皆んなの「Storm」であった為、個人的な接触を図ろうとする者も無く、ある程度統率がとれていたのだが、ここに来てファンクラブ以外の女子との交友が発覚し、穏健派と過激派によって意見が分かれつつあると言う事であった。
大元らは自らを穏健派と言っており、優希や凛の事には口を出すつもりは無い。しかし、過激派が今後抑えきれなくなり暴発し、2人に危害を加えるのでは無いかと心配しているとのことだった。
過激派の熱が冷めるまでは、暫く個人的な付き合いは避けた方が良い事や嫌がらせ行為があった場合には連絡が欲しい事などが伝えられた。
「最も、ファンクラブに入会して頂ければ最早同志。会則は守って頂きますが、それを犯さない限り、過激派の方々も危害を加える事はしないでしょう」
との事だった。複雑な思いをしながら解放された2人であったが、ドッと疲れがこみ上げてきた為、夜にまた連絡すると言う事で取り敢えず家に帰る事となった。
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