どうしてこうなった?
翌朝、予定より少し早く駅に着いた優希であったが、そこにはすでに松元、相馬、多野佐倉井と凛が居た。後はニノ都を待つばかりだ。
「おはよう」
みんなに声を掛け話の輪に加わる。
しかし、一人欠けているとはいえ男性陣は目立ちすぎる。凛も美人に分類される方なので普通以下の私がこの輪に加わっている事に若干の抵抗がある。待ち合わせ場所が駅だった事もあり、人通りは多い。そんな中でも私の周りにいる人たちは人目を引きやすい。待ち合わせ中の女性らしき集団からは熱い視線と軽い嫉妬が伺える。
約束の時間から10分ほどだった頃、ニノ都が歩きながら現れる。
「悪りぃ悪りぃ。ちょっと遅れたか?」
全く悪びれる様子もなく現れた彼に起こる様子もなく
「今日はまだマシな方だな。普段なら30分は硬い」
と多野が話している。
松元は若干苛立っているようにも見えたが、遅刻に関しては特に何もコメントしなかった。
「早く行こうぜ。電車に遅れちまう」
遅れてきたくせに一番に行動しようとするニノ都に呆れた様子の男子4人組であった。
私達は今日『オニオンランド』と言う遊園地に来ている。電車で40分程度の場所にある。
『オニオンランド』と言うだけあって、マスコットキャラクターのオニオンくんは玉ねぎがモチーフとなっている。しかし、どこでどう間違ったのか、このキャラクターは人気が全くない。イラストで描かれているオニオンくんは劇画調のしっかりとした、彫りの深い顔をしており、筋骨隆々のマッチョなボディの上に先程の玉ねぎが乗っているので、一見すると不気味ささえ感じる。
ヒロインのキャラ、トマト姫もゴテゴテのロリファッションの上に劇画調のトマトが乗っているのである。この二人を見ただけでもすでにお腹いっぱいである。
他にもヴィランとして登場するニンニク大臣やジンジャー男爵などもキャラ数を挙げれば40近くになる。
はっきり言ってキャラで行けば間違いなく人気が出なく、即閉園になるであろう遊園地ではあるが、若い世代からの支持は抜群に良いのである。
その秘密はアトラクションにあった。とにかく絶叫マシンの種類が豊富で質も高い事にあった。
一例を挙げるならば、「追跡トマト姫」通常「ツイトマ」。通常のジェットコースターとは違い、一つのレールの上を3種類のゴンドラが走るのである。そしてゴンドラの順番はランダムな上に強制二人乗りの為、運が悪ければ見ず知らずの相手と乗らなければならないと言う恐怖もあるのだ。
そして3種類のゴンドラも曲者である。トマト姫のゴンドラは通常タイプ。椅子に腰掛け、セイフティーバーで固定されるもの。
オニオンくんのゴンドラは板状の物に仰向けに寝ると係員さんが体をベルトで固定してくれる。ゴンドラが動き出すとレールの下側へ回転し、宙吊り状態で走り回ることになる。
3つ目のゴンドラはブーツである。スキーやスノボのブーツの様な物がレールに固定されており、そこに足を入れて走ると言う代物だ。一応腰に安全ベルトも着けるがよくこれで事故が起こらない物だと感心する。
乗り物系は多少の差はあれどこの手の際物が揃っているのである。
さらにこの遊園地の人気を上げているのがお化け屋敷であった。あらゆる技術を駆使して人間の六感まで刺激するお化け屋敷が4種類も存在する。ちなみに私は4種類全てを1日で制覇し、さらにおかわりまでした為、周りにドン引きされた経験がある。お気に入りは、ホログラフと人間が人を恐怖のどん底に突き落とす「ジンジャー男爵の地下迷宮」だ。ジンジャー男爵が手にかけた人々が男爵家の地下に打ち捨てられていると言う設定で、地下にある仕掛けを突破しながら地上を目指すと言う物だ。スタート時には高さ5メートルから地下へと落とし穴で落とされると言う無茶な作りがまたいい。もちろん落ちた先にはマットがあるが、初見ではかなりビックリさせられる。
私達は絶叫マシンを片っ端から乗りまくった。昼食を挟んでひたすら遊び尽くした。順番待ちの間にはみんなで写真を撮ったり話をして過ごした。途中多野と佐倉井は休憩を理由に何処かへ行ってしまった。
一頻り遊んだ後はお化け屋敷ゾーンへ移動してこちらも堪能した。ニノ都はお化け屋敷は苦手ということで、多野達を探しにいくとこれまた何処かへ消えてしまった。
「ちょっと優希。アンタ約束忘れてないでしょうね」
凛が背中を突きながら囁いてくる。昨日の夜の打ち合わせでは、何とか男子4人を私が引き連れて、凛と松元が二人きりになれる時間を作るという作戦が立てられていたのである。当然隠れ陰キャの私には男子4人を引き連れるなど無理な相談だと思っていたが、何とか努力はしてみるということになっていたのである。
そして今は私と凛、松元と相馬の四人である。2対2に分かれるくらいなら私でも何とかなりそうだ。
「わかってるって。ちゃんと相馬の相手はしてあげるから」
やや引きっつた笑顔を浮かべながら凛を見つめる。
「アンタだけが頼りなんだからね。頑張ってよ」
そう言うと凛は松元の横へとさりげなく移動した。
そして現在・・・
(どうしてこうなった?)
観覧車のゴンドラの中で私の正面に座りいつものキラキラスマイルを振りまいている松元。もう景色を見る余裕もなく、背中には嫌な汗が流れている。
少し休憩を兼ねて観覧車に乗ることにした私達。私は凛と松元を二人きりにするべく、相馬に声を掛けて一緒に乗る様に声を掛けた。すると相馬から意外な一言が発せられた。
「俺優希より凛と乗りたいから!ごめんな」
(はっ!?)
まさかのお断り。まぁ確かに私よりも美人な凛と乗りたいのはわかるけど・・・。
「じゃぁ。俺が優希と一緒だな」
と言いながら松元がわたしの手を引く。涙目になりながら凛に助けを求めるも、ものすごい勢いで睨まれてしまった。あちらはあちらでご立腹の様だ。
(私にどうしろと!?)
こうして1周15分、地獄の監獄がスタートしてしまったのである。他愛もない話をしているとようやく折り返し地点の頂上が近付いてきた。前のゴンドラには黒いオーラを放ちながら微動だにしない凛の後ろ姿が見えている。
(はぁ。これからどうしよう)
「お前凛と仲が良いのに俺たちの所にはあんまり来ないな」
「アンタ達のキラキラオーラは私には眩しすぎて近寄り難いわ。今日だって本当は来るつもりも無かったんだけど、凛がどうして持って言うから・・・。でも遊園地は久しぶりで楽しかったな。誘ってくれてありがとね」
一人で遊園地と言うのもなかなか足が向かない物である。これが好きなアニメのイベントでもやってくれよう物なら、ぼっちでも全然構わないのだが、特別な理由なく一人で遊園地に来る気にはなれない。今日は一日遊び倒すことができて楽しかったのは事実である。感謝を口にした私をいつものキラキラスマイルとはまた一味ちがう色気のある微笑みが見つめる。
「俺さぁ。優希の事好きなんだわ。よかったら付き合ってくんない?」
微笑みに見惚れていたらとんでも無いことを口にされてしまった。
「んはぁ?」
あまりに驚きすぎて変な音が口から出てしまった。そして次に頭を過ったのは・・・。
(不味い・・・。凛・・・。タスケテ・・・)
頭がグルグル回っている。どうしたらいい。断らなきゃ。そんな考えが大量に頭をめぐる。
「返事はすぐじゃなくて良い。ただ俺の気持ちを知っておいて貰いたかっただけだから」
そう言う松本の顔はいつものキラキラスマイルに戻っていた。
その後しばらく遊んで、駅に戻って解散となった。観覧車から降りた後のことは正直あまり覚えていない。凛には恨みがましい目で見られていたが、それどころでは無かった。
家に着いた後、凛の反省会に付き合わされたが、その頃には思考もだいぶ復活していたのでまともに話をすることができた。
ただ松元に告白されたことだけは言えなかった。
今日も読んでいただきありがとうございます