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74.オプション無し

 どれくらい時間が経ったのか……泣き疲れた姉御がふと気がつくと、貞子達の姿が消えていました。

「あいつら、どこ行った……」

姉御は、うつろな目で辺りを見回しました。


「消えたよ。もともと、恨みの部分だけが形になったものだ。一年間、わしと一緒にお前達二人を見続けて、今のお前の言葉を聞いたことで、何か感じる部分があったのだろう。善に引きずられ、主となる魂に戻って行ったよ」

神様は、じっと姉御を見つめました。


「そうか、良かったな」

姉御は、どうでもいいように呟くと、再び大福ねずみに視線を戻しました。


「さて、このくらいで上出来だろう。お前も、戻してやろう」


 姉御は、ゆっくり顔を上げました。

 神様が、あまりに簡単に戻してやろうと言ったので、何を言われているのか、にわかには信じられませんでした。


「今……戻すって言ったか?」

 訝し気に問い返す姉御を見て、神様が続けます。

「お前は、病で子を残せぬ体になったな。その体で、人として、女として、あのねずみと何か築いてみるといい」

 神様は何でもお見通しなようです。


「試すのか?」

「いや、見たいだけだ」

「好奇心かよ!」


姉御は、ベタな突っ込みを繰り出せる程度に、元気を取り戻しました。


 戻れるとなると、怒鳴って泣いて、意気消沈した己の醜態が思い出され、恥ずかしさと共に怒りが湧いて来ました。

「全く、理由が解らん! 戻れるのは嬉しいけど、何が良かったのか解らん! 何一つ解らん! 大福は許してもらえたのかよ。もう、罰は無しなんだよな? な!?」

いつもの姉御の勢いが戻り、腕を組んで荒い鼻息を吹き出しながら、神様を睨んでいます。


「まぁ、そう怒るな。そもそも女たちの手前、三十郎には罰とは言ったが……チャンスでもあったのだ。三十郎に子が多かったのは、女が好きだという単純な理由では無くてな。

 お前も感じる部分はあったのだろうが、孤独で憐れな人生でもあったのだ。それ故、三十郎自身が、己が幸せになれるような己にとっての良いことをするように、本当の幸せが何か感じられるようにと、特別な機会をやったのだ。

 ここに至ってお前が戻れるのは、三十郎がお前と育んだ絆のおかげだ。それで良いではないか。

 機会を生かせなんだら、大切なものも無く、ただ己がねずみとして死んで、生まれ変わっても再び孤独に苛まれる人生になっただろうな」


 姉御は、神様を睨み付けるのを止めました。優しい言葉を聞いて、怒りが収まって来たせいもありますが、どうにも理解しきれないものを感じたからです。

 分かり合えるはずもないのでしょう。相手は神様です。何を説明されようとも、人間である姉御には、所詮はただの思いつきで、無責任な神の戯れのように感じられました。手のひらの上で踊らされている様な不快感は拭えません。


 それでも……そうだとしても……大福ねずみと出会えたことは、大きな喜びであり、感謝しきれない幸福なのでした。


「お前がそう考えるのも無理はないな。この国には多くの神がいるが、大抵のものは気まぐれで、自分勝手だ。私も、そんなものだよ」


「思考を読むんじゃねーよ!!!!!!」


殊勝に、神へ感謝の言葉を口にしようかと思っていた姉御は、サトリ能力に怒りを爆発させました。


「さぁ、もう帰すぞ。これ以上、お前に怒鳴られたくはないよ」

「……おぅ」

姉御としても、これ以上無礼を重ねて、神様の気が変わってはたまりません。

 

 雲の鏡に映る大福ねずみに向かって、姉御は何度も頷きました。

 今すぐ戻るからな、大丈夫だ、と呟いています。

 神様が右手を上げました。

 

 戻れる! 生き返って、大福ねずみを安心させてやることが出来るのです。


「最後に言っておくぞ。わしは、ねずみが人間のハンサム美男子に戻るというオプションは付けていないからな」

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