28.姉御が大変だ
「あそこだ――――!」
大福ねずみは、姉御の枕元で飛び起きました。
姉御に夢の話をしようと枕に飛び乗りましたが、姉御の姿がありません。廊下で物音がしたので、急いで空きっぱなしの襖から顔を覗かせると、姉御がスーツ姿のマッチョな男二人に抱えられていました。
「なっ? オ~~ノォァ~~~~~~」
驚いた大福ねずみは、おかしな悲鳴を上げました。
「姉御! どうなってんだよ~、起きろよ~! ちょ、誘拐? まさか、誘拐~~?」
大声で叫んでも、姉御は目を覚ましません。その時、大福ねずみの鼻は、嫌な薬の臭いを感じました。
これは誘拐だ、と確信します。姉御は、薬を嗅がされて起きられないのです。
「誘拐だ~! 離せこのマッチョメ~ン、どうするつもりだ~!」
必死で走り回り騒ぎ立て、呼び掛けましたが、姉御の反応はなく、マッチョメンにも無視されました。
「くそ~、マッチョメンには聞こえないのか!」
それならばと黒スーツに飛びついて顔を目指し、しっぽで目に狙いを定めましたが、鷲掴みにされ放り投げられてしまいました。
遠投されている隙に、アパートの重い扉が閉まる音が聞こえます。
「冗談だろ!」
戸が閉じてしまうと、小さなねずみの姿では追い付くすべがありません。すっかり部屋に閉じ込められてしまいました。とにかく、大声で助けを呼んでみますが、誰かが気付く気配はありませんでした。
「早くしないと~。どんどん遠くにいっちゃうよ~。誰か助けて~~~~」
力の限り、目を固くつぶって叫びました。泣いている場合ではないのです。
「なにかあったの?」
すぐそばで声が聞こえて、驚きと喜びで目を開きました。
眼前の畳から、りょうちゃんの顔が生えていました。
「こ、こんにちは~」
驚きとトラウマから、とっさに挨拶することしか出来ませんでした。
「助けて、って切羽詰まった声が聞こえたから、来てみたのだけれど。今アパートには、誰もいないみたいだし」
まさかのりょうちゃんです。他にもっと穏やかな感じのがいなかったのかよ~と思いました。怨霊化されれば、大福ねずみには成すすべがありません。
しかし、今は緊急事態です。大福ねずみは勇気を出して、姉御が連れていかれた様子を話しました。りょうちゃんは驚いていましたが、同時に何か考え込んでいるようでした。
「おかしいわね……知らない人間の気配はしなかったし、私が知っている鍵を使って入ったはずよ。私の防犯センサーに抜かりは無いわ」
少し悔し気です。
「と、とりあえず、全身はやして下さい~」
生首きのこに限界を感じた大福ねずみがお願いすると、りょうちゃんは、にゅにゅっと畳をすり抜け、清楚な全身を現しました。
改めて、りょうちゃんの言葉を反芻します。
「じゃあさ、内部の犯行ってこと? 特定は出来るの~? 誰の鍵だった~? っていうか、内部って具体的に誰~?」
意気込んで尋ねてみても、りょうちゃんは煮え切らない感じでした。
「あやしくなければいちいち特定したりしないから、詳しくは分からないわ。ごめんなさいね」
「姉御の気配とかは? どこに行ったとか、気配で分かったりしない?」
りょうちゃんが申し訳なさそうに首を横に振ると、大福ねずみはガックリと俯いてしまいました。俯いた鼻には、畳のい草の香が空しく届いてくるばかりです。
その時、聞き慣れた音楽が流れてきました。姉御の携帯アラームです。映画のテーマ曲だとか言っていた、口笛を駆使した、用心棒的曲でした。大福ねずみは、希望を感じて顔を上げました。
「携帯だよ! りょうちゃん、掛けてよ~。東村だったら、人探しとか出来るよ、きっと!」
アラームを切り、りょうちゃんの前に電話を押して来ます。
「えぇー? 東村さんはちょっと……大福ちゃん、掛けられないの? メールじゃ駄目?」
怨霊は、自分を祓った霊能者に嫌悪感を示しました。ついでに、頭から血が一筋垂れてきます。
「オイラの声は、電話じゃ届かないんだよ。悠長にメールのやり取りしてる場合かよ。緊急事態だろ! 姉御がどうなってもいいのかよ~!」
グジグジ言うりょうちゃんに言い返しながら、大福ねずみは自分の言葉でヒートアップして、イライラマックスになりました。
「血を垂らすな! グジグジ言うな! これ以上俺を怒らせるな~!」
りょうちゃんは、大福ねずみの怒りのオーラにビビリました。
流石に姉御さんと住んでいるだけあって、只者ではないと感じます。一気に血が引っ込みました。
「わかったわ……私も姉御さんが心配だもの!」
二人は強く頷きあいました。




