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2.生では食べません

 大福ねずみは、何日間も無駄に町をうろついていました。そろそろ真剣に、進退を考えなければなりません。人間の町は、ねずみの身には危険がいっぱいでした。それでも、人間の頃の記憶がそうさせるのか、大自然の中で生きる自信は持てません。

「やっぱ、飼い主が必要だよね~。女の子で~巨乳で~優しくて~」

都合のよい独り言を呟いていると、それを邪魔するように、どこからかピーチクパーチク、うるさい声が聞こえてきます。多少イラついて声の主を探ると、空き家の軒先にスズメの巣がありました。近寄ると、育ちきったスズメの子供が、みっしり詰まっているのが見えました。

 大福ねずみは、よく育ったおいしそうな子スズメだ、と思いました。


「ねずみさん、ねずみさん」

 どこからか小さな声がしました。声のした方に顔を向けると、物陰から別のスズメが呼んでいました。面倒でしたが、思いきり目が合っているので、仕方なく行ってみることにします。

「あれは、私の雛たちです」

大福ねずみを呼びつけたのは、巣にいるスズメたちのお母さんスズメのようでした。興味が無かったので何の返答もしませんでしたが、お母さんスズメは勝手に話し始めます。

「あの子たちは、もう十分育っていて、巣立ちをしなければならないのです。でも、何度飛び方を教えても、飛ばないのです。だから私は、餌をあげずにここに隠れているのです」

「精が出ますね~」


大福ねずみはよく事情が分かったので、適当な返事をして立ち去ろうとしました。自分には何の関係も無いし、面倒なことは御免です。そろそろお腹も空いてきたから、レストランのゴミ捨て場にでも言ってみようなどと考えていました。何を食べようか。

「ちょっと待って下さい。あの子たちに、もう母親は餌を持って来ないから、自分で飛ばなければいけないと、伝えてもらえないでしょうか?」

突然のお願いごとに困惑した大福ねずみは、戸惑いながら応えました。

「オイラは今日、鳥肉の気分です~」

 お母さんスズメは、黙りました。食べたい物を考えていたせいで、思わず願望を口走ってしまった大福ねずみは、失言だったと気がつきます。鳥肉だと生肉みたいだから、焼き鳥とか、唐揚げとか言うべきだった。スズメを驚かせてしまったに違いない。いくらねずみの姿でも、焼いていないスズメを食う気は無いと伝えないと。


「オイラはねずみですが、生肉はデンジャーなので食べません! 驚かせてしまいましたね、生スズメさん~」

きっぱりと言い切った大福ねずみの顔を、お母さんスズメは微妙な顔で見つめました。薄々、関わってはいけない相手に声を掛けてしまったことを後悔し始めます。

「お詫びに、子スズメに伝言を伝えてきましょう、生スズメさん!」

 大福ねずみは、ちょっと考えた後に、子スズメのもとに向かいました。ガラクタが積み上げられている所を器用に登り、巣に近づきました。そして、大きな声で子スズメたちの気を引きます。


「こら~、君たち!」

下から怒鳴り声が聞こえた子スズメたちは、騒ぐのを止めて大福ねずみに注目しました。

隠れようにも体が育ちすぎていて、巣に収まりきらない様子です。

「君たちのお母さんは、オイラがおいしく頂きました。ごめんね~」

うまいこと展開を予想して考えたつもりのセリフは、捻りすぎでした。

「ピィ――! 母さんの仇――!」

雛は、いっせいに飛び立ちました。作戦が成功したことを喜ぶ暇もなく、殺気を感じた大福ねずみは、速攻で逃げのダッシュをかまします。

「あぶっ!」

危機一髪、リトルなテポドンたちから逃げ延びました。


 大福ねずみは、自分は悪者になったけれど、良いことをしたなぁと思いました。しかし、期待して見つめた体の模様は、少しも消えていませんでした。

「やっぱり、スズメの丸焼きは見た目がグロいよなぁ。砂肝とネギマが食べたい~」

 過ぎたことは忘れることにして、お腹が減ったので、焼鳥屋でも探すことにします。


 可愛い我が子に、とてつもないトラウマを植え付けられた母スズメは、巣立ちの喜びも無く、子どもを追うべきか追わざるべきか、ただただ、苦悩しておりました。母スズメは、完全に頼る相手を間違えました。

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