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17.ケンカしちゃった

 姉御は黙り込んで考えています。

「ちょっと姉御~どうなのよ~」

大福ねずみは、インテリもやしインパクトにすっかり飽きてしまいました。それもそのはず、姉御はかれこれ2時間もグダグダ考え込んでいるのです。

「どうもこうも、ないだろう。俺が聞きたいよ、どういうことか教えてくれよ。助けてくれ」

混乱しすぎて、一番頼りにならなそうな相手に助けを求めています。

「もうめんどいからさ、オッケーって返してから、記憶を封印しちゃえばいいじゃん~」

大福ねずみはイライラしながら、短絡的アドバイスを返しました。折角恒例のプロレスケンカで盛り上がっていたのに、姉御が自分をほったらかして、インテリもやしのことで思い悩んでいるのが面白く無かったのです。


「俺のプライドはどうなる!」

姉御は、大福ねずみから1cmの畳に張り手をかましました。

「あぶっ」

畳の模様になりかけた大福ねずみは、姉御を一睨みしてから、黙って尻を向けて丸くなりました。


 大福ねずみが突然静かになったので、姉御は少し心配になりました。丸くなっている大福ねずみを鷲掴みにし、自分の目の高さまで持ち上げます。

「おい、さっきの張り手、どっかに当たったのか?」

大福ねずみは何も言わずに、ダランと体を弛緩させてそっぽを向いています。

「おい。どうし……」

「降ろせよ」

大福ねずみの冷たい口調に、一瞬、姉御は目を瞠りました。なんだその態度は――と突っ込もうとしましたが、尖った部屋の空気を感じ取り、辛うじて踏みとどまりました。


 珍しく空気を読んだ姉御は、大福ねずみをそっと畳に降ろします。しばらく二人とも黙っていましたが、姉御が堪えられなくなりました。

「お前……何、怒ってんの?」

小さなねずみから発される怒りのチャクラは、部屋全体に充満しています。それが伝染したのか、姉御にも沸々と怒りの感情が沸き上がって来ました。


「……無視してんじゃねぇよ」

「何かさ……すげ~イライラしてきたんだよ~」

ようやく口を開いた大福ねずみの口調は、柔らかくなったものの、未だ冷たい響きを感じ、姉御は何も言い返しませんでした。

「俺も、インテリもやしと姉御は、付き合ってると思ってたんだけどさ~」

『お、俺って言ったよ、こいつ』

姉御は、言葉を発する勇気が出ず、心の中で突っ込みました。

「勘違いって変だろ~。思わせぶりなとこもあったんじゃないの~」

『このねずみにだけは言われたくねぇな……』

「いつまでもウダウダ言って。本当は好きなんじゃないの~?」


 大福ねずみは、じっと姉御を見つめました。

 そう言われても、どう返したらこの場が収まるものか解りあぐねた姉御は、黙って下を向きました。


 窓からは、夕方の柔らかいオレンジ色の光が差し、畳を染めています。姉御は一瞬、寂しいような懐かしいような気分になりました。少し泣きたいような気分になり、湿った瞳に慌てて力を込めて唇を噛んで我慢します。そんな姉御の表情を見て、大福ねずみの胸の奥がチリリと痛みます。


 大福ねずみは姉御から目を逸らし、まだまだ何か言い足りない気持ちと、全部冗談で済ませてしまいたい気持ちの両方を持て余していました。

「何だよ! 姉御がずっと、うだうだインテリもやしのことを考えてるから、初めは面白かったのに、だんだん腹が立ってきたんだよ。でも、姉御を悲しませたり、本気のケンカをしたかったわけじゃないんだよ!」

少し涙目で叫んだ大福ねずみの言葉は、素直で、優しくて、姉御は自分の心の内がすーっと軽くなるのを感じました。大福ねずみの大きな瞳から、じわじわと涙が目の縁に溜まるのを認めた時、自分も謝罪の言葉を口にしようと、素直に思えました。


「そうだな、ごめん、悪かった。ただ混乱していただけで、大福のことを無視したつもりは無いんだ。お前に嫌われるのは嫌だよ。それに比べたら、誰に何を言われようが大したことじゃない」

きっぱりと言った姉御は、ぺこりと頭を下げました。それを見た大福ねずみは、悲しくて悔しい気持ちが一気に晴れて、何か恥ずかしくてくすぐったい気分になりました。


 大福ねずみが、浮かんで来そうになる笑みを抑えつつ口を開こうとした時、外で不穏な気配がして、二人は反射的に体を強張らせました。

 カラスがけたたましく鳴いています。何事かと二人が顔を見合わせると、何者かが階段をゆっくり登って来て、姉御の部屋の鍵をガチャガチャいわせている音が聞こえます。


 何か……とてつもなく不吉なものが侵入しようとしている気配がします。

 姉御の顔が、嫌そうに歪みました。

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