13.姉御の趣味ってそんなだろーね
何の収穫も無かったインテリもやしの訪問から数日、姉御と大福ねずみは相変わらず愛について考え続けていました。
「あぁー無理無理」
姉御は、畳に大の字になりました。大福ねずみは、諦めムードの姉御の腹に載ってため息を吐きます。似たもの同士なので、いくら知恵を搾っても答えは導き出されません。しかし、誰かを呼び出すという選択肢は大福ねずみが却下してしまいます。再び、面倒な氷点下になりかねないのと、姉御が他の人間としゃべっているのを見るのがちょっと不愉快だったからです。
「じゃあさ~姉御が知ってる感動の恋愛話とか無いわけ~? ドラマとか映画とか」
大福ねずみは、なかなか良いところに気がつきました。巷では、愛が流行していない時などありません。ドラマや映画は、愛で満載なはずでした。
「そうだなぁ……」
姉御は考える素振りを見せました。
「無い!!」
はっきり言い切った挙句、姉御は自分の恋愛カラッポ脳に流石に危機感を覚えます。
「何でだ……全然浮かばないぞ……。俺はこう見えても映画好きで、かなり見てるはずなんだ。くそぅ……今すぐ人気の恋愛物を、レンタルしてくる」
レンタル屋へ出かけて行く姉御を、大福ねずみは、すまんね~と送り出します。
どれ程悩んだものか、近所なのにがっつり一時間もかけて姉御が帰って来ました。
「姉御~遅~い」
「す、すまん、手間取った。随分偉そうだな、お前」
「いいから、早く、テレビテレビ~!」
怒られかけましたが、上手く急かして受け流しました。
それから二人は、とにかく胸キュンで人気の映画を一本見たのです。珍しく真面目に、黙って視聴したのでした。
「何これ~まどろっこしいし、わかんない~。女優はかわいい~」
「わ、わかんねぇな……。決断しない、うじうじ悩む。嫌いだとか言っても実は好き。病気になる。ライバルにいじめられて傷つく。誤解する。すれ違う。身を引く……」
真面目に見たからと言っても、二人はトキメキを覚えることもなく、まともに感想を交わすことも出来ませんでした。
それでも懲りずに、後二本見ましたが、二人とも状態異常の魔法を全部くらったような絶望感に打ちのめされました。途中で、もうくっつけばいいだろ等のヤジも飛び交い、明らかに、恋愛脳が不足しています。女性のハートを打ち抜くようなイケメン俳優の見せ場では、うわぁ~と二人で渋い顔をしてしまいました。
姉御は、一発目と同じ感想を、念仏のように繰り返しています。
「姉御~オイラ達ビギナーに、高度な恋愛物は無理っぽい~」
姉御は、前世で子供を五十三人も作っておいて、ビギナーと言い切る大福ねずみを少し尊敬しました。
「お前、ビギナーで金メダリストだな……」
「……ま、まぁね~。もうさ~恋愛もの飽きた。何か面白いの見ようよ~」
飽きやすさも、金メダルの所以のようです。姉御も飽きていたようで、静かに立ち上がると、押入れを開けました。中には、DVDやらがズラッと並んでいます。
「マイコレクションがある」
姉御コレクションは、黒地に赤字のものが目立ちました。見るからにホラーです。
「駄目臭ぇ――。何だよ、『吸血ゾンビ』って~。血吸うか、腐るか、どっちかにしろよ~、肉も食えよ~」
「このゾンビ、血吸わないけどね。邦題の暴走だ……ハハハ」
嬉しそうに言う姉御を見て、大福ねずみは黙りました。突っ込みどころと、ゾンビ物が多すぎます。わくわくした感じの姉御にどれにするか尋ねられるかと思うと、畳にめり込んでしまいそうでした。
「ゾンビばっかじゃん。でも、いっぱいあるな~。古いのも新しいのもごちゃごちゃっぽいね~、何の順で並んでるの~? 」
興味が無いので、内容に触れないような質問を繰り出しました。出来ることならDVDを再生させること無く、穏便に済ましたいという苦肉の策です。きちんと年代順にお片付け、などという行動へ移行出来れば最高です。
「ゾンビの足の速い順だ」
「何でだよ!」
予想以上に馬鹿だった価値観に触れて、思わず突っ込んでしまいました。そんなに差はないだろ~という大福ねずみの嫌そうな声を聞いて、姉御の目が全開になりました。
「馬鹿野郎! トップとビリの差を見せてやる!」
結局、再生されてしまいました。
「超早ぇ~~~~全力疾走じゃ~~~~ん」
大福ねずみは、爆笑しました。
二人でゾンビ映画を満喫し、すっかり恋愛映画の内容を忘れてしまいました。
「オイラがゾンビと戦うなら、やっぱりナイフがいいかな~」
「いやいや、武器にするならスコップだろ! 持ち手も金属のものが良い! 絶対だ!」
愛について考えていた二人の一日は、遠回りした挙句、下らない議論で幕を閉じるのでした。




