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おじさん勇者はツライよ

短期集中掲載1話目。

 

 田舎を出てもう15年が経つ。

 広い世界を冒険したくて剣一本を持って家を飛び出した。

 体力には自信があったので、都会で片っ端からアルバイトをして金を稼いだ。その金で鎧やアイテムを揃えてダンジョンに潜ってモンスター退治をするようになった。

 地道な努力を重ねて同業からの信頼も厚くなった頃に封印されていた魔王の出現が発表、それに立ち向かえる勇者の選別が始まり、俺は勇者のみが扱える聖剣を手にした。

 鍛錬によってまだまだ肉体は全盛期。魔王討伐までの猶予が気になるところだが、子供の頃憧れていた英雄になるために俺は自らの限界を突破しなければならない。


 しかし、そんな俺には自分の年齢で気になることが一つあった。


「全く、剣士は馬鹿なんじゃないの?一人で先に突っ走ってさ」


「魔法使いこそ、混戦になっているのに範囲攻撃をするなんて頭がどうかしているのか?」


 俺のすぐ後ろで睨み合う二人の少女。

 更に、


「おっかねぇな剣士と魔法使いの姉ちゃん達はよ」


「けんかはだめ。あぁ、かみさま。このふたりのけんかをおとめください」


 微妙に舌足らずなシスター服を着た幼女とそれを背負う小柄な少年。

 戦士と神官ちゃんだ。


「剣士、魔法使い。今は旅の最中だ。喧嘩はやめてくれ」


「「勇者は黙ってて!!」」


「はい、すいません」


 年下の少女達に怒鳴られて俺は萎縮してしまった。


 剣士、16歳

 魔法使い、15歳

 戦士、12歳

 神官、7歳


 そして勇者30歳。

 これが世界を救うべく立ち上がった勇者パーティなのだ。なお、能力的には問題はない。

 剣士は有名な騎士の家系でいくつもの剣術大会で優勝している。

 魔法使いは魔法を専門に教えている学院を飛び級で卒業した首席。

 戦士は先祖返りの影響で強力なモンスターに変身できる上に格闘センスが優れている。

 神官ちゃんは神の啓示を受けて過去最強の能力を持っている。


 年齢にさえ目をつぶれば理想的な役職のパーティなのだ。……俺は馴染めていないが。

 モンスター狩りをしている時は白髪混じりの魔女や若手の弓使いとつるんだり、夜には同年代のむさ苦しい男衆と朝まで酒盛りをしていた。

 年下や昔の俺みたいなやんちゃ坊主を上から目線で指導してやったりもしたもんだ。


 もちろん、このパーティではそんなことはできない。直接の戦闘能力だと俺が一番下なのだ。

 ご自慢の聖剣は魔王相手には圧倒できる聖なる力が働くのに、普段は刃こぼれしないだけの丈夫な剣でしかない。

 一度だけ試しに神官ちゃんの結界を攻撃したが、傷一つつかなかった。

 幼女に負けるおじさん……気分的にはお兄さんなのに。


「ゆうしゃさまは、もっときたえたほうがいいとおもいます」


「おっちゃん、神官ちゃんにも言われるなんてまだまだだなぁ」


 おじさんは無邪気な一言で大ダメージ。目の前が真っ暗になりそうだ。


「確かに。勇者は太刀筋が甘い。同じ剣を扱うものとして指導してやろう」


「新しい魔法を覚えるのが先よ。その年になって使える魔法が三種類なんて笑い者。学院だったら落第生よ」


 二人してあーでもない、こーでもないとダメだしをしてくる少女達。

 どちらも町を歩けば振り返る者が多数いるレベルで可愛いのだが、俺の好みはちょっと年上のお姉さんなので残念ながら対象外だ。


「苦労してんなおっちゃん」


 イシシシ、と歯を見せながら笑う戦士。

 このパーティ唯一の同性でありながら、精神年齢が幼過ぎて話が合わない。

 美味しい酒や好みの女性、下世話をしたいのに何が悲しくて昆虫採集や子供向け英雄譚の話をしなければならないんだ。


「がんばってください」


 神官ちゃんにそう言われたら頑張るしかない。

 ロリコンではないぞ。神官ちゃんは愛でるだけだ。

 年齢一桁の幼女に期待の眼差しで見られたら人して頑張るしかない……例えそれが地獄のような特訓だとしてもだ。


 このパーティで旅して半年。

 果たして俺は無事に魔王討伐できるのだろうか。















 それから10年が経った。

 あっという間の旅だった。

 激しい死闘の末に俺のパーティは無事に魔王を討伐することに成功したのだ。


 肉体的な全盛期を超えて落ち始めた力でも聖剣を使ってなんとか勝てた。代償として片腕と片目を失ったが、世界が救われたのだ後悔はない。

 富も名声も貰った。かつて組んでた連中からは祝福され、田舎に戻ると親族一同から胴上げされた。


 一生遊んで暮らせるだけのお金はあるので田舎に屋敷を建てて畑仕事でもしながら余生を楽しみたい。

 だが、


「勇者、次は全力で行くぞ!」


「私と新しい魔法の研究するって約束してたのにまた剣士にばっかりかまって!勇者の嘘つき」


「おっちゃん、早く畑に行かないと日が暮れちゃうよ」


「勇者様。またこんなにお庭を汚して。めっ!ですよ」


 どうして解放されることなく全員で一緒に住んでいるのか理解できない。

 戦士と神官ちゃんの背にはそれぞれおチビちゃんが寝ているので目の前で火花散らしてる剣士と魔法使いは落ち着いてくれ。

 俺について揉める前に我が子の面倒みてくれよ。


 全く、どうして年の離れた勇者パーティがこんな風になってしまったんだ?

 俺、なんかやっちゃいましたか?








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