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第92章 さわやかさんvs絶対美少女1

絶対美少女三番勝負の最後の相手はみなみん、対決の日がやってきました。

 月曜日の朝、相変わらず校門で生徒と握手している青柳の脇で、矢祭軍団がやたらに長い布を持って立っている。

「軽音楽部春のコンサート 夢の対決 

 大大地高のアイドル 青柳佐和 vs 大大地高のヴィーナス 小尾美香 

 明日の放課後 中庭ステージ」

 青柳と矢祭は、今日も生徒たちに囲まれて握手している。俺は自転車を止めて、少し離れた所から、その一群を見る。

「対決って、なんの対決なの?」と女の子が聞いている。

「ステージ対決だよ」

 矢祭が答えている。ふと見上げて俺と眼があうと手招きするので、俺は自転車を押したまま近づく。青柳と矢祭を囲んでいた女の子たちが道をあける。一年生らしい。俺を見ると「おはようございます」とあいさつするので。俺も「おはようございます」と答える。ここのところ、美少女達の知名度と一緒に、俺の知名度も上がっているようだ。おそらく、美少女達が目指すオーディションの相手としてなのだろう。くすくす笑っている。「かわいい」という声も聞こえる。まあ、俺の認知度が上がっても、せいぜいパンダ並みの扱いではある。

 矢祭が俺に手を差し出すので握手する。

「生徒会長のアイディアをまねさせてもらったよ。青柳佐和は残念ながらスポーツ対決はできないけど、歌ならだれにも負けないので、軽音楽部のステージに立って、ヴィーナス様と対決だよ」

 俺は青柳を見る。一年生の女子に囲まれて握手に忙しそうだ。朝の光が斜めにその頬を照らしているのがとてもさわやかだ。

「佐和の魅力のとりこにしてあげる」矢祭が自信たっぷりに、にっこり笑う。「もっとも、佐和の魅力を一番知っているのは生徒会長だと思うけど」


 その日の放課後、傾きかけた陽がグラウンドを明るく照らしている。たくさんの生徒のざわめく声が一段と大きくなった。「絶対美少女三番勝負」の最終ステージ、酒出南vs友部透子の対決がいよいよ始まろうとしている。

「さあ、いよいよ、友部透子がバッターボックスに立ちました。勝負は一打席限りです。フォアボールでもエラーでも、どんな形でも、塁に出れば友部の勝ち、アウトをとれば酒出の勝ちです。守備は我らがソフトボール部、酒出のために全力で守ります。さあ、いよいよ始まります」

 友部は、今日はソフトボールのユニフォームを着ている。酒出から借りたので、今日は少し大きすぎるようだ。ポニーテールに帽子をかぶっている。まったく、どんな時もさまになる友部の美しさは絶対美少女の名にふさわしい。

 マウンドの上の酒出も少し緊張しているように見える。

「みなみんは、あそこにいる時が、一番、美しいよね」

 気がつくと那加がわきにいた。だがその言葉は、俺と反対側にいる青柳に向って発せられたものらしい。

「みなみんは、県では一、二を争うピッチャーらしいですからね」

 俺も、那加と青柳に向かって言う。ソフトボール部のマネージャーをしていたので、いくらかは俺も詳しい。半年前の一年生の時、すでにそういう評判だった。今はさらに成長しているだろう。一時期、ぎくしゃくしていた部内も、今は酒出を中心に結束し、県大会でも好成績を残している。

 投球練習をしている。しなやかな腕のふりから繰り出されるボールのスピードはすばらしい。いつも笑顔のみなみんがマウンドの上で見せる真剣な表情はある意味、新鮮だ。このイベントは、俺たちが酒出に頼んで実現したものだが、この投球姿を見て、酒出の人気も相当にあがったに違いない。

 軽く会釈をして、友部がバッターボックスに立つ。

「ちょっと見物ね。バッターとピッチャーは駆け引きも重要だからね」

 と那加が野球解説者のようなことを言う。

「サードがセーフティバントを警戒してるわね。委員長の足なら転がせばセーフということは十分にあり得るものね。この試合、セーフになりさえすれば委員長の勝ちなんだから……でも、あれだけ前に出られたら、さすがにバントヒットはきびしいわね」

 青柳が首をかしげる。「あんなに前に出ちゃって、間を抜かれたりしないの?」

「もちろん、危険はあるわ。でも、委員長でもみなみんのスピードボールをサード側に強打するのは難しいかも」

 振りかぶって酒出が第一球を投げる。すごいスピードボールだが明らかに高い。いわゆるつり玉というやつだ。経験の少ない人は、高めのボールについ手を出してからぶりをしやすい。バントもしにくい。まず、友部の選球眼を見ようという作戦か。

 ところが、友部は、バットを出しただけでなく、かなり高いボールなのにきれいにバットに当てた。ボールはすごい勢い遠くまで飛んだが、残念ながら少し振り遅れた。かなり一塁側にそれた。酒出のボールのスピードの伸びは友部の予想を上回ったということだろう。

「昨日、特訓したんだって?」

 那加が俺に聞く。

「え、ええ。中井さんよく知ってますね。特訓というほどではないですけど……バッティングセンターへ行って……」

 昨日は日曜日で、生徒会の来られるメンバーが集まって、おとといの打ち合わせの続きをして、そのあと、バッティングセンターに一緒に行った。赤塚先輩は少年野球の経験があり、友部のバッティングを見てそれこそ手とり足とり教えていた。友部はさすがと言うべきか、すぐにコツをつかんで、速い球のゲージに入っても、ヒットを連発していた。もともと、家で、テニスの壁打ちをしていたりして、ミートはうまかったし、動体視力がすばらしいと赤塚先輩も感心していた。だから、俺は、友部があっさりヒットを打って、今回は勝てるのではないかと思っていたのだが、その友部が振り遅れるのだから、さすがに県でトップのピッチャーの球の伸びはすばらしい。

 サードが守備位置を下げた。今の打球の速さを見たら前に出すぎては横を抜かれると思ったのだろう。

「バントをするならしやすくなったわね」と那加。

「するんですか? 委員長は考えていないと思いますけど」と俺が口をはさむ。

「ジラは甘いわね。委員長は形にこだわらずに勝つことを考えていると思うわよ」

「そうですか」

「手抜きをするつもりはないと思うし、クリーンヒットを打って勝てると思うほど、みなみんを見くびってもいないと思う。もちろん、クリーンヒットも狙っていると思うけど……守備に隙があれば、バントだってすると思うよ」

「打率って」と青柳。「四割あったら、すごいわよね。まして、友部さんは素人、相手はみなみん。確率的には、すごくタフな勝負よね」

「負けて当たり前なら、委員長にとって失うものは何もない。勝ってしまえば、拍手喝采、委員長の人気を高めるためには、ジラは、まったくうまいこと考えたものだと思うけど、私は」

 第二球が投じられた。まったく同じ高めのスピードボール、今度は、委員長は振らなかった。ボールになって、ワンボールワンストライク。

 マウンド上で酒出はキャッチャーからのボールを笑顔で受け取る。

「みなみんにとっては計算どおりね。委員長は、高めの球に最初に手を出してちょっとしまったと思っているから、今度は手を出さなかった。でも、もう一球続けるかも……見送ったことで、委員長はもう来ないと思っているでしょうから、裏がかけるかも」

「でも、委員長なら、その裏もかきそう」

 そんなことを話しているうちに、酒出はマウンドを踏んで投球動作に入る。ボールが友部に向かっていく。すごいスピードだ。また高め。友部はバットをピクリとも動かさない。ミットがずんと音を立てる。見逃したというより、そのスピードに手が出なかったか。ストライクかと俺は思ったが、アンパイアの判定はボールだった。

 何となく俺はほっとする。何となく友部に勝たせたい気持ちが俺の中にある。たぶん、三番勝負の二回とも勝てなかったからだ。そして、この試合も超不利だからだ。判官贔屓というやつだろう。もしかすると、多くの観客の心にも同じ気持ちがあるのかもしれない。ここで、友部が勝てば、一気に多くのファンを獲得できそうな気がした。


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