表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/441

第83章 生徒会が友部を応援する話

青柳はオーディションのアピールのために校門に立って呼びかけを始めた。

「明日も佐和ちゃん、校門に立つのかな」

「もしかすると、今日の放課後あたりも……」

「ぼく、また、握手しちゃおう」

 昼休み、教室の片隅で、三流グループどうし、机をくっつけて、いつものように弁当を食べていると、つ、と友部委員長が、脇に立った。俺たちの箸が止まる。三流グループに対する、昔のきついもの言いは、最近はなくなっていたが、それでも友部は完璧すぎて、三流グループはどうしても緊張してしまうのだ。

 俺たちの方をろくに見もせず、

「ジラ、赤塚先輩が、生徒会メンバーは、昼休みに、生徒会室に集まって、だって……先、行ってるね」

 とだけ言うと、さっさと行ってしまった。

 箸が再び動き出す。

「透子様、ほんと、自分で言うとおり、完璧美人だね」

「ためいきしかでないよ」

「透子様も、佐和ちゃんみたいに、校門に立たないかなあ。ぼく、握手したい」

「おい、透子様に入れるつもりじゃないだろうな」

「ないない。佐和ちゃんを舞台で見たい、それは、絶対……ただ、こいつが一緒で、邪魔なんだけど……」

 と、俺を、箸を持った手でさす。

「すいません」

 俺は急いで弁当をかたづける。一人が、乱暴に俺の肩をたたく。

「まったく気に入らないけど、いいよ。許す。おまえは、会長になっても三流グループだから……いけすかない一流グループのやつと舞台で愛を語ってるのなんか見るより、はるかにまし……おまえ、主役を最初からとっておいたのは、正解だと思うよ」

 生徒会室に急ぎながら、那加が、主役だけは、オーディションなしで俺に決めておいたのはそういう理由だったのかな、などと思う。さえない俺が、世紀の美少女と愛を語るからこそ、夢なのかもしれない。

「会長、申しわけない。ちょっと相談したいことがあって」

 生徒会室に入ると、俺の顔を見て、赤塚先輩がいきなり言う。もう、他のメンバーは、全員そろっている。

 赤塚先輩は、友部と並ぶもう一人の副会長だ。ちょっとぶっきらぼうなところはあるが、とても心の温かい人だ。前回の生徒会選挙で、俺が立候補しなければ、生徒会長になる予定だった。俺が、あくまでも生徒会長を目指して選挙活動を展開していたので、結局、俺に生徒会長を譲る形で、副会長になったのだが、大柄で、力もあり、頭もよくて、一流中の一流だ。俺が立候補した当初は、間違いなく俺を軽蔑していたが、それでも、俺の言うことにきちんと耳を傾け、最終的には、(那加の考えた)公約の価値をきちんと評価し、俺に道を譲った方が、この学校のためになると考えて身を引いたらしい。実にあざやかだと思う。実際、一緒に仕事をしてみると、この人の、世の中のためになる仕事をしたいという情熱は掛け値なしの本物で、こういう人もいるんだと、俺は感心もし、尊敬もしている。俺は、表面上は、学校のためとか、みんなのためとかを考えているようにふるまっているが、それは那加の命令を実行するための体裁を取り繕っているだけで、まあ、みんなのためにという気持ちもなくはないが、この人のような情熱はない。自分勝手な人間だ。赤塚先輩は、そういう俺とは比べものにならないくらい素晴らしい人だと、素直に思う。

 ただし、俺は、(那加の指示を絶対に守らなくてはならいので)時々、とんでもない指示を頭ごなしに出す上に、頑固で譲らないので、俺の思いすごしかもしれないが、たぶん、時々は、少し面白くなく思っている部分もあるのかもしれないとも思う。まあ、那加の指示は突拍子もなく見えても、結果的にうまくいくことが多いので、そういう意味で俺の(実際は那加の)構想力や実行力は、むしろ積極的に、認めてくれているようで、突拍子もない提案も、ほぼ無条件に賛成してくれるのだが……。

 

このオーディションの計画自体も、初めこそびっくりしていたが、「まあ、会長がそう言うんなら、やってみよう」と、何も言わずに賛成してくれた。

 赤塚先輩は、俺の顔をじっと見つめて、少しにやっとした。

「いやはや、さすがは会長というべきか、この劇とオーディションの話が、ここまで盛り上がるとは思っていなかったよ」

「そうですね。俺もびっくりです」(さすがは那加のアイディアです)。

「朝からテニス部やソフトボール部の子たちが『みなみん』をよろしくって動き回ってるよ」

「私のところにもきたわ」と後台先輩がうなずく。「大宮くんが酒出さんを連れてきて『よろしくお願いします』なんて、頭、下げられちゃった。でも、じかに会うと、確かに、あの子、かわいいし、感じもいいよね」

「俺のところにも来た。あいつら、全員にあいさつするつもりかもね。友達には、『生徒会はやっぱり副会長に入れるの?』なんて聞かれる。青柳も、校門に立っていて、噂になってる。握手してくれるそうだよ」

「アイドルの握手会みたいね」

「一つ、聞きたいことがあるんだ」赤塚先輩が俺を見る。「何度も聞かれるんだよね。『主役は何で最初から決まってるんだ。公募しないのか?』って。で、俺は思ったんだけど、今からでも、主役を公募することにしたほうがよくはないかな。始まったばかりだから、まだ間に合うんじゃないかって。で、会長を含めて、みんなの意見を聞きたいんだけど……」

「え、でも、それは……」

 俺は、内心焦る。「それは無理です。俺は、主役、やりたいんで」

「それは、わかるけどさ。でも、やりたいやつはいっぱいいるし、会長も立候補して、みんなと争って一番になれば、だれからも文句、でないかなと思って……」

「でも、今からオーディションにして、立候補したいって人いるんですか? たとえば、赤塚先輩が、出るんですか?」

 と、書記の内原先輩。ポニーテールのメガネ美人だ。メガネと言っても那加のような黒縁で顔を隠すようなものではなく、ノーフレームのクリアなメガネで、色白の顔によく似合っている。ガリ勉風女子だが、非常に丁寧な口調で、案外、ずけずけとものを言う。小尾先輩と額田の美少女リストの上位に載っていて、二人がよく噂している。ものすごく勉強ができるらしいが、かなりドジっ子のところもあって、生徒会室には、彼女の忘れもののボールペンや消しゴムがいつも転がっている。

「いや、俺は、たぶん出ないが、公募だったら出たいと言う友だちが、いっぱい俺のところにきたものだから」

 多賀先輩が軽くため息をつく。

「赤塚君、その中に、この人なら主役としてみんなの支持を集めそうっていう人、いる? 私たちの誰も知らないような人ばかりでしょ?」

「いや、そうだけど、中には、面白いやつや、イケメンもいるよ」

「もう、みんなに知らせてしまったことだし、いまさら変えられないよ。そもそも、このアイディア自体が会長の構想だし、みんなで面白そうって決めたことじゃない。このままいくしかないよ」

「いや、実は、最初に話を聞いた時から、主役だけ決めておいていいのかって、疑問がなかったわけじゃないんだが、これだけ盛り上がるとなると……」

「会長の言うことは、ときどきびっくりするけど、いつも、結局は、うまくいくわよね。だから、あの時も、それで行こうということになって、誰も疑問をさしはさまなかった。もう、動き出しているんだから、このまま行きましょう」

「いや、そうなんだけど……わかるんだけど……」

「赤塚先輩!」

 と、友部が強い口調で口をはさんだ。

「これだけ盛り上がっているのは、天下の美少女、酒出さんや青柳さんが立候補していて、しかも、積極的にアピールしているせいだって、わかってます? 青柳さんはジラ会長の幼なじみで、酒出さんはジラのファンです。もし、主役がジラと決まってなかったら、二人は立候補なんかしませんよ。私だって、ジラ以外が相手だったら立候補を取り下げます。ヴィーナスの小尾先輩だって、どうだか……この盛り上がりは、このしまりのない、よたよたした、人の顔色をうかがってばかりいる三流会長が、主役という、まったくふさわしくない役を演じるからこそなんですよ。わかってますか?」

「あ、ああ。そうなのか。友部は、鯨岡会長が主役でないと……」

「美女と野獣ならまだしも、もしかして、赤塚先輩から見ると、美女とドブネズミに見えるかもしれないけど、でも、私を含めて、美少女たちは、みんなそのドブネズミが好きで、その恋人の役になることを望んでるみたいですよ」

 俺はドブネズミですか。ドブネズミから抗議が来そうだな。

「ちょ、ちょっと、待てよ。俺は、そんなこと言ってないよ。俺は、会長が主役にふさわしくないなんて言うつもりはないよ。会長のすばらしさは、俺は、誰よりも認めているよ。知名度でも功績でも文句なしだよ。ただ、男子の連中が、みんな、なんでオーディションじゃないのかってうるさいから……まあ、みんなが今のままでいいっていうなら、それ以上は何もない。じゃ、その件はなしってことで、いいかな?」

 みんながうなずいてくれて、俺は、ほっとする。

「実は、今日集まってもらったのは、それが本題じゃないんだ」と、赤塚先輩はさらに言葉を続ける。「本題は、俺たちも、何かしたいなと思って……その相談なんだ」

「何か……って?」

「ほら、青柳は辻立ちをしてるだろ。酒出は、人脈作戦。みんな、こんなに本気になって取り組むとなると、うちの絶対美少女でも、もしかしたら、って、心配になるじゃないか。だから、友部も何かしたほうがいいかなって……友部の応援団の一番は、なんといっても俺たち生徒会だなと思って……会長」

 赤塚先輩は、妙に真面目な表情で俺を正面から見る。

「会長は、みんなと縁が深いみたいだけど、一番は友部の味方なんだろう?」

「あ……、はい……」

「ジラ、無理しなくていいよ。私に気を使わなくていい。私は、あなたが嫌いなんだから……あなたも私が嫌いなんでしょう?」

 友部が俺をにらみつけるように言った。

「いや、俺は、友部副会長を応援しています」

「四番目にね」

「まあ、まあ」

 と多賀先輩が割って入る。

「とにかく、私たちも、透子のためにやれることは、何でもみんなやろうよ。私は、透子がぶっちぎりでヒロインを勝ち取ると思う。だって、透子以上にすばらしい美少女はいないもの。近くにいる人は、透子のすばらしさに圧倒されると思う。でも、入学して間もない一年生もいるし、万が一にも負けないように、そのすばらしさを伝える努力もしたほうがいいと思う。それは、透子のすばらしさを、ほんとうに一番わかっている私たちがやらなくちゃ。でも、何をしたらいい?」

 後台先輩が首をかしげる。

「まずは、口コミかな。でも、それだけじゃ、いかにもパワー不足よね。テニス部やソフトボール部のほうが、人数は、はるかに多いものね」

 赤塚先輩が皆を見回した。

「というわけで、何ができるか、みんなにも考えてほしいんだ」

 みんな顔を見あわせる。

「会長」

 と赤塚先輩が俺の方に身を乗り出す。

「頼りにしているぜ。アイディアを考えるという点では、誰も、会長にかなわないよ。何か、あっと驚くようなアイディアで、友部透子のすばらしさをアピールしようよ。会長が、こうしろっていってくれたら、俺たちにできることは何でもやるぜ。なあ、みんな」

「もちろん、やりたいです」

「会長、また突拍子もないこと考えてください。どんなことでもやりますから」

 と、高萩まで身を乗り出す。1年生会計の、高萩は、コンピューターの天才で、マラソン大会や大大地フェスティバルが大成功だったのは、彼の力のおかげも大きい。最初こそ「コンピューターさえやってくれればいいと言われて生徒会に入ったのですが」とか言っていたが、最近はすっかり溶け込んで、生徒会ファミリーの重要な一員になっている。

 そんな!……

 俺は焦る。困ったぞ。みんな、俺のアイディア力を信用しきっている。実は、アイディアはすべて、ご主人様の頭脳から出たものだということを知らない。那加に相談する時間をくだされば、きっと必ず、あっと驚くようなアイディアをご覧にいれられますが……即座に出せなんて、急に言われても困るんですけど……

「みんな、ありがとう。でも、大丈夫、私が負けるわけないじゃない」

 友部が、両手を机に置いて急に立ち上がる。イスがガタンと音を立てる。うつむいたまま、みんなを見ないで言う。

「というのは、うそ。私が勝てるわけない、というのがほんと……先輩たちは、みなみん……というのは酒出さんだけど、あの子や、青柳さんがどんなに美少女で、みんなに愛されているかを知らないから、私にもチャンスがあると思ってるかもしれないけど、とても、あのふたりには勝てない。同級生だからよく知ってるけど、本当にすてきな人たち。みんなが私を応援してくれるのはすごくうれしいけど、何をやっても無理。だって、私が自分でなかったら、私でなく、あのふたりに入れるもの。友部透子は、かわいげもないし、愛されてもいない……いいんです、私、オーディションの火付け役として、絶対美少女なんてピエロやっただけで満足。大嫌いなジラの相手役になんかなれなくていいです」

 声が少し震えている。泣いているのかと思ったが、最後に顔を上げて俺をにらんだ瞳に涙はなかった。にらんだ時の鋭い眼の友部は、恐いのだが、背筋がぞっとするくらい美しい。多賀先輩が立ち上がると、両手で友部の肩を抱く。

「何、言ってるの。ここにいる全員が、友部透子のファンだよ。天才美少女の透子は、何でも自分で出来ちゃうから、人に頼られるのは慣れていても、人に頼るのが不器用なのは知ってる。だけど、今は、透子の大ファンの私たちが、透子を、大嫌いなジラと一緒に舞台の上にのせたいの。私たちの夢をかなえさせてよ」

 そして、俺の方を見る。

「会長、どうしたらいい? どうしたら一番になれる?」

 そ、そんな、那加に聞くチャンスもなしに迫られても……

 俺は、パニックになりかける。

 そのとき、ふと、那加が、去年、確か、選挙運動の時に言っていたことを思い出した。「そんなことしなくても、透子さんの人気は不動だけどね」と言っていたが、今、それをやってみる価値はあるかもしれない……試しに、みんなに話すと、みんなが、目をきらきらさせるので、俺は、少し驚いた。

「面白そう」

「あきれた。よく、そんなこと思いつくわね」

「確かに、それは学校中が注目するわ」

「でも、透子、いいの? やる?」

 友部は、俺をにらんで言った。

「ジラが、やれというならやる。さすがね、ジラ。どう転んでも、面白そう」

 しかし、その話は少し先に延ばそう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ