第78章矢祭軍団登場2
矢祭軍団が青柳の応援をしているということは……俺は青柳に「立候補するんだ?」と思わず聞いてしまった。
「うん。無謀なのはわかっているんだけど、どうしても、チャレンジだけはしたくて……」
青柳は、少し上目遣いに、恥ずかしそうに俺を見つめた。
あらためて青柳のかわいさにドキッとする。友部が美少女なら、青柳はアイドルと言ったらいいだろうか。友部は非の打ちどころのない美少女だ。顔のどの部分をとっても、まったく欠点のない理想的な美しさだ。だいぶ見慣れたが、輝く目で見つめられたりすると、思わず息がつまるほど魅力的に見える。しかし、青柳にはそういう魔力的な美しさはない。美少女なのに美少女的でないというか、可愛くて、いつまでも見ていたい、思わず抱きしめたいと思ってしまう、そんな美しさだ。性格が影響しているのかもしれない。成績も運動神経も人並み以上だし、容姿は抜群なのに、自分は人に比べて劣っていると本気で思っている。俺は本当に劣っているので比較するのも何なのだが、心性的には俺に近いところがある。一方で、俺みたいに自分を他人と比較して暗くなったりはしない。いつも明るくて、人の気持ちをとても大事にする。俺みたいなオタク系で、人に相手にされないような男子でも、まったく気さくに、普通に親切にしてくれる。小学校から一緒の幼なじみで、友だちの少ない、さえない男の俺をかわいそうと思ったのかどうか知れないが、いつでも、変わることなく、いろいろやさしくしてくれたり、気を使ったり、助けたりしてくれた。思い出すと、ありがとうをいくら言っても足りないくらいの存在だ。
小さいころから何でも気楽に話せる、俺にとっては数少ない、「友だち」と呼べる存在の一人だったが、最近、距離をおかれている感じがしている。たぶん、口さがない男子が、「鯨岡は青柳が好きだって言ってた」という噂を流したせいかなと俺は思っている。まあ、しかたがない。好きか嫌いかって聞かれたら、小学校のころから、好きどころか大好きだ。それが恋愛感情じゃないのか、と言われれば、絶対に違うとも言いきれない。
青柳の性格からすると、青柳は、俺の恋愛感情をいやがっているというよりは、むしろ、俺に同情しているのだと思う。「愛の告白をされても、応えてあげられない。どうしよう」などと悩んでいるのかもしれないとも思っている。普通の女の子だったら、俺みたいな三流人間が恋心を抱いていると知ったら、怒らないまでも、拒絶反応か嫌悪感を示すだけだろうが、青柳はむしろ同情してくれる。申し訳ないとさえ思ってくれるかもしれない。そういう性格のやさしさ、かわいさが彼女を人気者にしているのだ。距離をおかれてさびしいことは事実だが、恋愛の話はわきに置くとして、俺の大好きだという気持ちは変わっていない。
生徒会長になって、いろいろ活躍する場面が増えて、ちやほやというほどではないとしても、女の子たちにも、ずいぶん相手にしてもらえるようになった。そう、あの美しい酒出でさえ、俺のファンだという。俺自身は何も変わっていないのに、那加の作った虚像のおかげで、こんなに女の子に相手にされるのかと思うと、ときどき、逆に、さびしくなる。この子たちは、俺が素の俺に戻ったら、手のひらを返したみたいに冷たくなるんだろうなと思う。そう思うと、那加に出会う前の、何でもない素の俺を相手にしてくれて、いろいろ親切にしてくれた青柳という優しい心が、その容姿同様、よけいに美しく見える。
だから、俺は、今、俺の目の前にいる青柳のために、何かしてあげられることは何でもやってあげたいと本気で思っている。
それにしても、俺自身が忙しくて、同級生だというのにあまり接触がなかったせいだろうが、あらためて見ると、すこし大人びたなと思う。子どものあどけないかわいさに、今、大人の女性らしさが混じって、その美しさは、ため息が出るほどだった。いつの間にか髪も伸びて、緩やかなカーブをしながら肩を覆っている。少しふっくりしたあご、小さめの可愛らしい口、つけまつげかと思うほど長いまつげと夢見るようなつぶらな瞳。
「あの瞳が特にすてき」と、小尾先輩と額田はしょっちゅう噂をしている。「あの瞳に見つめられたらキューピッドの矢に射抜かれちゃう」と小尾先輩はいつか言っていた。あらためて、今、じっと見つめられて、俺は、小尾先輩の気持ちがわかったような気がした。
「いや、そんな……青柳さんなら、たくさんファンがいると思うし、きっと大丈夫だよ」
「ありがとう。やさしいね。鯨岡くん……じゃなくて……ジラ……って呼んでいい? みんなそう呼んでるみたいで」
「いいけど、よかったら、昔みたいに、たかちゃんでいいよ。そしたら、俺も、昔みたいにさーちゃんて呼んでいいかな」
俺たちの付き合いは、そもそも、幼稚園入学以前からで、中学校まではお互いに「たかちゃん」「さーちゃん」と呼び合っていた。高校でも、最初のころはそうしていたが、何となく距離ができたあとは、俺も遠慮して、「青柳さん」とか呼ぶようになっていた。しかし、俺としては、何とか誤解を解くチャンスがないかとずっと考えていて、思い切ってそう言ってみた。青柳は、少しびっくりしたようだったが、にっこりしてくれた。
「もちろん。私もその方がうれしいよ。じゃあ、たかちゃんて呼ぶね」
「ありがと、じゃ、さーちゃん。オーディション、がんばってね」
青柳はあいまいにほほ笑んだ。
「うん、がんばる」
青柳の性格からすると、「とても無理」と思っていることは、容易に想像できた。しかし、俺は十分に勝算はあると思っていた。というのは、俺の周辺にいるような、どちらかというと三流に近い男子は、青柳の熱烈なファンだからだ。抜群にかわいいのに、そういう自覚はあまりなく、むしろ俺たちの仲間であるように、俺たちにも親切で優しい言葉をかけてくれるからだ。しかも、少し恥ずかしそうに。
「たかちゃん」のような愛称で呼んでもらえたら、それだけでキュン死してしまいそうな知り合いが何人もいる。たぶん、俺が舞台の上で恋人役をやったら、それだけでみんなに袋叩きにされてしまいかねないくらいだ。青柳と直接の接触がない男子も、青柳がオーディションに登場して、その人となりを知れば、俺みたいな「庶民男子」はきっと夢中になる。かなりの票が集まるに違いない。少なくとも男子の人気という点なら、おそらく、友部とだって十分に勝負になる。
そう言えば、那加は青柳をヒロインにすると言っていた。このオーディションを仕組んだのも那加だ。ということは、那加は、青柳が勝つとみているということか? 俺にはわからないが、那加が言うならそうなのかもしれないとも思う。
もちろん、那加でさえ、ときたま誤算があることは確かだが……とにかく、青柳本人が思っているよりはずっと勝算があるに違いない。
「立候補は何人なの? 会長」
矢祭が聞く。
「今のところは四人だね」
「委員長と佐和とあと二人は誰?」
「えーと、今の段階では、それは、まだ」
「いいよ、隠さなくて。知ってるんだから。ヴィーナスとみなみんでしょ。あのおせっかい軍団が、生徒会室を見張っててね、いちいち報告してくれるんだ」
「すごいですね」
「そんなことしなくていいよって、言ってるんだけどね。まあ、いいや。とにかく、青柳佐和を一番にするには、あの子たちの力も借りてあげないとね。生徒会長は、誰に入れるの?」
「それは……まだ、わかりません」
「言えるわけないか。それにしても、すごいメンバーがオーディションにそろったよね。大大地高校オールスターって感じ……もっとも、もうひとり、大大地高には、ものすごい目の覚めるような、隠れた美少女がいるんだけどね……会長のよく知っているあの人……ね? あの美少女は立候補しないのかなあ?」




