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第77章 矢祭軍団登場

文化祭劇のオーディションには酒出に続いて小尾先輩もエントリーすることになった。

「というわけで、やっと委員長は解放してもらえたわけです」

 次の日の朝のミーティングで、俺は、那加に報告した。

「二人とも猪突猛進だからね。ジラではとても止められないよね」

「それにしても、那加もヴィーナス先輩にエントリーを勧めたんですか」

「額田さんに『那加さまからも勧めて』て言われたから勧めたんだけど、言われなくても、勧めたかも……だって、候補は多い方が盛り上がるじゃない。まして、美しいヴィーナス先輩は全校生の注目の的よ」

「那加は、前に、青柳さんをヒロインにするって言ってましたよね」

「もちろん! 今もそのつもりよ。と言っても、ふたを開けてみなければわからないけど……まず、立候補してくれないと話にならないんだけど。彼女は、オーディションの申し込みには来たの?」

「来ましたよ。幸いというか、先輩と額田が帰ったあと」

「あは、それは幸いだったね。あの二人、青柳佐和の大ファンだものね。見かけるたびに、かわいいとか何とか騒いでるよ。おまけに、このごろは、矢祭さんも見つけて騒いでるもの。二人がいるところへ、佐和と矢祭さんがそろって現れたら、猪突猛進されちゃったところだったね。矢祭さんも一緒に来たんでしょう?」

「はい、これもまたびっくりの連続で、ほんと先輩たちが帰ったあとでよかったです」

「何? 軍団が来たの?」

「さすが、那加。知ってるんですね」

「知ってるって? みんな知ってるよ。ジラが鈍すぎるだけ。ジラ、あれ、中学校からの軍団よ。だから、ほぼ全員、あなたと同じ中学なのよ。矢祭麻耶を慕って、大大地高に入ってきたのよ」

「知りませんでした」

 確かに、俺の中学校からは男子が例年よりも入ったらしい。いわゆる体育系男子で、俺との接点は中学から今に至るまで、ほぼないといっていい。

「矢祭さん、て、なんかの拳法の達人らしくて、喧嘩がめっちゃ強いらしいの。男子にも絶対に負けないらしいよ。で、中学のころ、荒れていた時期があって、ヤンキーっぽい生徒たちを従えて、裏番長っていうの? リーダー格になっていたみたい。あの人、頭がいいし、行動力もあるし、すごく面倒見がいいらしいよね。で、そのあと、矢祭さん自身は、立ち直った――たぶん青柳さんのおかげで――そして、そのときの部下たちにも、立ち直ることを勧めたらしいよ。すごくがんばって、部下たちの面倒も見てあげたので、少しずつみんなも立ち直って、「矢祭様に続け」と大大地高を目指して猛勉強して、けっこう合格したらしいね。で、入学しても、結束は固く、『矢祭軍団』を形成してるってわけ。高校でも、同じ匂いのする人たちが加わって勢力を伸ばしているらしいわ。といっても、悪さをしているわけじゃないよ。むしろ、ボランティアなんかを嬉嬉としてやっているわ。軍団というより、矢祭教の信者に近いかな。面白い人だよ。矢祭さんて……最近、すごく肌がきれいになって、かっこよくなったよね。美形だけど、美少女というより、かっこいいという言葉が似合うよね。ジラ、彼女に喧嘩売っちゃだめだよ」

「売りませんよ。俺はこの学校で、一番、喧嘩に弱い人間ですから」

「確かに、そうかもね。で、どうだったの。矢祭さんと青柳さんは二人で生徒会室に来たんでしょ」

「いや、それが、生徒会室の前で、なんか話している声が聞こえるのに、なかなか入ってこないから、ドアを開けてみたんです」


 ドアの向こうには、矢祭と青柳と十人以上の男の子たちの集団がいた。

「ほら、あなたたちが騒ぐから、生徒会長が出てきちゃったじゃない」

 と矢祭が言うと、男の子たちは、一斉にきれいに整列して、頭を下げる。

「こんにちはー」

 と声をそろえるので、俺も頭を下げる。

「あ、どうも。こんにちは」

 何事かと友部と後台先輩や、あとから来た多賀先輩も続いて出てきた。男の子たちは、また頭を下げる。

「こんにちはー」

 さっきよりもっと大きな声だ。友部と先輩たちも、つられて頭を下げる。

「生徒会長にお願いがあってまいりました。青柳さんを、オーディションで選んでください」

 と先頭にいた男の子が言うと、みんなが一斉に頭を下げる。

「お願いしまーす」

 そして、二人の子が横断幕を走って広げた。「みんなのアイドル青柳佐和」と大きく書いてある。

「だから、そういう問題じゃないんだ、って言ってるでしょ」

 と矢祭が腰に手を当てる。

「生徒会で選ぶわけじゃないんだから、そうでしょ。会長」

「あ、はい」

 一瞬、あぜんとしていた俺は、我に返って男の子たちに言う。

「オーディションは生徒の投票です。だから、生徒会には何の権限もないんです。みなさんと同じ一票を持っているだけです」

「わかったでしょ。だから、こんなにたくさんで来たら、迷惑なだけでしょ。それに、もし、生徒会に権限があっても、かえって逆効果よ。圧力をかけていると思われかねないもの。だから、今は解散して。あとで、みんなにも、ちゃんと相談するから」

「わかりました、でも……生徒会長」

 と、一人の男の子が進み出て俺の前に立った。一九〇センチはありそうな背の高い子だ。あ、この背の高さ。見たことあるぞ。大大地フェスティバルの時、軽音部で、中心になって生徒会に協力してくれた子だ。それに気がついて、改めて見回すと、あのとき、生徒会に協力してくれた軽音部の子が何人もいる。なるほど、青柳と軽音部には、浅からぬつながりがあるみたいだ。

「開票は公正に行われるんですよね」ちょっと尖った声で俺を見下ろす。

 かわりに矢祭が答えてくれた。

「大丈夫、この会長は、正直だけが取り柄だから」

「でも、俺たち、納得がいかないことがあるんです。ヒロインはオーディションなのに、主役は最初から決まってるって、なんかあやしくないですか?」

「いや、それは……」

 那加の命令で、とも言えない。

「役得ということで……」

 と言いかけると、友部が、俺と男の子の間に立った。

「まったく、そんなこともわからないの? よく聞いて。主役は、初めから、生徒会長を選んでおくしかないのよ。だって、舞台の上とはいえ、私みたいな絶対美少女の恋人になれるのよ。公募にしたら勘違い男の応募が殺到して収拾がつかないでしょ。そして、間違いなく、圧倒的に会長が選ばれるんだから、公募なんてやるだけ無駄。あなたたちは、この、ださく見える会長が、実は、どんなに女の子たちに人気があるのか、知らないの?」

「あ、ああ、そうなんすか?」

「生徒会が投票で不正するくらいなら、最初から、私がヒロインをやるって宣言するわよ……ご心配なく。あなたたちは、青柳さんを全力で応援すればいいだけ。この私に勝ってみせられるように、せいぜいがんばって!」

 友部の絶対美少女キャラは実にあざやかだ。きっぱりとした口調と、たぶん、その美しさに圧倒されて、男の子たちは、顔を見合わせて何も言わない。

「わかったでしょ」と矢祭。「とりあえず、おいらも、終わったら、みんなのところに行くから、部室裏あたりで待ってて」

 男の子たちは何か言いながら、ようやく引き上げて行った。何だったんだ、あの男の子たちは……とにかく、青柳の応援をしていることだけはよくわかったが。ということは……

 俺は青柳をふりむいた。

「青柳さん。オーディションに参加するんだ?」


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