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第73章矢祭麻耶が真相を暴く話3

眞知は本当は那加だという矢祭。あり得ないと思っていたのに、那加まで、実は、あれは私だったというのです。

 那加が差し出す右手を見ると確かにほくろがある。言われるまま、俺は、その手を取った。そして、はっとした。これは眞知の右手じゃない。あの時の感触をまだ覚えている。白くてやわらかくてしなやかな指。しかし、那加の手は、皮膚の表面が、かたくて少しごわごわしていた。毎日のバイトの力仕事のせいだろう。働いている人の手だった。

 それを差し出した意味を、俺は、一瞬で理解した。考えてみれば、眞知を最初に見たのは、那加が文芸部にはいるより、ずっと前じゃないか。 さっきの言葉の中に、すでに、メッセージが入っていたのだ!

 俺は那加の手を両手にとって、念入りに時間をかけて、しげしげと見つめた。

「ほんとうだ。よく覚えていないけど、眞知さんの手にも、同じほくろがあったような気がします。ということは……」

 俺は那加の手を放して、頭をかいた。「だめだ。まだ、頭が混乱している。あの時の眞知さんは、実は、中井さんだったというわけですか。まだ信じられない。俺、完全にだまされていました」

「ほんとうにごめんなさい」

 那加は、もう一度、俺に頭を下げると、矢祭の方を向いた。「というわけで、私は正直に謝りました。ジラと、デートみたいに会いたかったけど、部員同士で挿絵を描きますなんて言っても、デートするってわけにはいかないでしょう。それで、妹は水都二高生ということにして、校外でデートすることにしたの。デートって言っても、挿絵を見せて、挿絵を描く打ち合わせをしただけです。でも、ジラはやさしいから、桜も見に連れて行ってくれたし、私からお願いして手をつないでもらったの。ね、ジラ」

「あ、うん。そうでした。でも、手をつなげてうれしかったです」

「ありがとう。そう言ってくれて、私もうれしかったです……というわけで、私とジラは史跡公園でデートもどきをしていたけど、私の一方的な陰謀で、残念ながら、恋人というわけじゃないのよ。ほんとに、恥ずかしいことしちゃったけど、正直に話したので、このことは秘密にしておいてほしいんですけど」

「あ、いや」

 矢祭は、少し慌てていた。あまりにあっさりと那加が認めたせいだろう。

「なんか、悪かった。中井さんの秘密を暴いてしまった結果になってしまって……おいら、こうと思うと、つい、まっしぐらに突っ走っちゃうくせがあって……中井さん、ごめん」

「いいよ。もともと、私が悪いんだから……でも、よかったら、この噂、広めないでもらえるかな」

「わかった。公園で見かけた友達には報告するけど、それ以外には話さないことにするよ……でも、ごめん、生徒会長がデートしていたっていう話は、もう、少し、噂になってるかも……でも、それが本当は中井さんだってことは、おいらの口からは言わないようにするよ」

 それだけ言うと、矢祭は、俺たちを残して、さっさと帰ってしまった。

 残された俺たちは、顔を見合わせる。

「おやおや」と那加が言う。「人差し指まで観察していた人がいるというのは驚きね。確かに、二人とも人差し指にほくろがあるのよ。一卵性双子ってすごいね、って二人でよく話してるのよ。実は、その他にも、けっこう同じところにあるの。こことかね」

 那加は、胸のふくらみの脇あたりを指差した。

「今でも、二人でお風呂に入る時は、比べっこしたりしてるわ。それにしてもまったく面白い誤解ね。ジラ、あなた、私が謝った時、あわててなかった?」

「正直、あわてました。ありえないと思っていたところへ、那加が『本当は……』なんて言いだすんですもの」

「でも、すぐに理解してくれたみたいでよかった。でも、ジラ、頑張って芝居していたけど、結構、台詞が棒読みだったよ。私、ちょっとおしりがかゆくなっちゃった」

「とっさだったので、俺も慌てちゃって」

「まあまあ、上出来よ。もうわかったでしょうけど、これは、なかなか好都合な誤解よ。これで、ジラと眞知のデートを大大地高生に見られても、私とデートしていたことになるわけだからね。それにしても、ジラとデートしたいのに、自分から言い出せず、妹ということにして会う、中井那加のかわゆい恋心は、ちょっと胸キュンじゃない? ジラ、今度、小説に書いてよ」

 俺は、もう一度、頭をかく。那加の機転と演技力はたいしたものだ。俺は、正直にわかってもらうことしか考えてなかった。

「なんか、結局、嘘ついたことになっているわけで、少し後ろめたいです」

「黒さが足りないよ、ジラ。そんなことを気にしてるから、三流なのよ。嘘なら、これまで私の命令でずいぶんついてきたじゃない。やりたくもない委員長に立候補したりさ」

「はあ、まあ、そうですね」

「まあ、万が一、逆に、眞知のことがみんなに知られたら、もう一度、私にだまされたことにしたらいいよ。そもそも、みんなにとっては、大した違いはないんだから」

「それにしても、俺たちを見かけたのって誰なんでしょうね」

「青柳さんよ、決まってるじゃない。あの矢祭さんの一番の友達でしょ。そもそも。ジラと三人、同じ中学だったんでしょ」

「そうです」

「青柳さんという子も、本当に美少女よね。性格もいいし。自分をブスと本気で思っているところも、ちょっと、引っ込み思案なのも、またかわいいよね。ほんと、抱きしめたくなっちゃう。抱きしめたくなる美少女という意味では、青柳さんがナンバーワンじゃない?」

 那加は、かわいい子をみると、いつも抱きしめたいと言う。そう言えば、眞知は、那加がさびしがりやで、いつも眞知にくっついて寝るんだと言っていた。

「えーと、青柳さんは幼なじみで、小さいころから知ってますけど、それほど、引っ込み思案でもないんですよ。とても芯の強い人で優しい人す。明るいし、親切で、気さくでとてもいい人です」

「知ってるよ。おまけに、二年生になって、ますます、花が開くみたいにかわいくなってるよね。私、決めたわ。あの子をジュリエットにする! ただし、オーディションを通してからね」

「え、え? 何のことです?」

「今度の文化祭の、生徒会企画劇『ロメオとジュリエット・ハッピーエンドバージョン』のことよ。主役はあなたよ、ジラ。ヒロインはオーディションで、たぶん青柳さんに決定よ」

「ちょっと待ってください。そんな話ありましたっけ」

「あれ? 初耳?」

「はい、初耳です」

「そりゃそうよね。だって、たった今、思いついたんだもの」


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