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第68章 真知と大地桜を見る話

ようやく、眞知と2回目のデートが出来た俺。日本でも有名な大地桜を見に行きます。

「いえ、眞知が俺に、何でも話してくれているの、とてもうれしいです。でも、まさか、ガラスの羽なんて、適当に書いたものが、後でそんな風に解釈されるなんて、想像もしませんでした。那加には話したんですか?」

「笑われちゃいました。『眞知も相当エッチね』って言われましたよ。『たぶん、額田さんでもそんな解釈、思いつかないわよ』って言われました。『でも、そう言われて、改めて考えてみると、羽って確かにあそこの形にちょっと似ているかもね。ジラ、わざと選んだのかもよ。今度、問い詰めて、白状させてみて』とも言っていましたよ。ジラ、白状してください」

え? 白状っていったって、そもそも羽ってあそこに似てるのか? 女の子が言うんだから似てるのかもしれないが……

「白状も何も、たった今まで、そんな解釈があっるなんて想像もしませんでした。……やはり、少し、設定、変えたほうがいいのかな?」

「別にいいと思いますよ。わたし、エッチなの好きだし、みんなも、実は、結構、好きだと思いますよ。どっちにしても、私も、最初、読んだ時には、まったく、そういうふうには思わず、普通に読んじゃったので、気にする必要は全然ないと思います。で、私みたいにエッチなひとには、勝手に解釈させておけばいいと思いますよ……毎回、ガラスの羽根のシーンを一度は入れることにしたらどうですか……」

「え、まさか、そんな。実は、今、制作中の部誌に続きが載っているんですけど、続きでは羽が壊れちゃうんです」

「そうなんですか。それは残念。じゃ、主人公はアイラに見捨てられちゃうんですか?」

「はい、もう、アイラを縛り付ける手段がなくなって、見捨てられて、窮地に落ちるんですけど」

「でも、最後には、アイラが助けに来てくれるんですね」

「そうです。散々、ひどいことをした主人公を助けるなんて理不尽ですけど」

「面白そう。早く読みたいです。それで、私、実は、キャラ、書いてみたんですよ。下手ですけど、見てもらってもいいですか?」

 そういって、眞知はバッグからスケッチブックを取り出した。ぺらっとめくって出された絵を見て俺は息をのんだ。眞知と絵を交互に見比べる。

「これ、眞知が書いたんですか?」

「はい。こんなイメージかなあと思って」

「素晴らしいです。絵、すごく、うまいんですね。表情がいいですね。とにかくすごいです」

 プロが書いたのかと思うくらい素晴らしい絵だった。顔は美しいだけでなく、その表情に哀愁とやさしさが同居して、何とも言えないほど魅力的だった。

「これ、アイラですね。ちょっと眞知に似てますね」

 さっきから会話に登場してくるアイラというのは俺の小説のヒロインの名前だ。

「そうですか? そんなつもりはないんですけど……そうか、言われてみると、那加に似てるのかもしれない……そうか、全然、気が付かなかった。考えてみると、アイラって那加に似てませんか? 強くて、賢くて、やさしくて……ジラ、もしかしてアイラって那加がモデルですか?」

「いや、そんなことはないです。この話は、那加と知り合う前からずっと温めていた話で、去年の夏休みの前の部誌に第一話が載っているんですけど、そのころは、まだ、那加とはちゃんと知り合ってませんから」

「そうなんですか」と眞知は首をかしげる。俺としては無敵のスーパーヒロインを書いたつもりだったが、眞知にとっては那加と重なるらしい。いや、実際、あの那加と一緒に小さいころから育ってくれば、そう思うのも無理はないかもしれない。俺が知っているのは那加の神のような洞察力と創造力だけだが、それ以外もおそらくは超人的なのだろう。

「もし、よかったら、今度の本にこれを挿絵して載せてくれませんか?」

「えーっ、いいんですか」

「実は、『書いたよ』って那加に見せたら、『挿絵にしようよ』って言ってくれたんです。『イメージにぴったりだ』って言ってくれて。だから、もし、ジラのイメージとそんなに違わないかったら、載せてもらえないかなって思って」

「あ、もちろん、大歓迎です。こちらからお願いしたいくらいで、ありがとうございます……あ、でも、カラーの印刷は無理なので、白黒になってしまうんですけど」

「もちろん、いいですよ。なんだったら、線画で書き直してもいいですよ。私、暇ですから」

「とんでもないです。十分です……書き直すより、あの、もし、時間があったら、次の話の挿絵を描いてもらえませんか。原稿の段階で見せますので」

「わあ、そう言ってもらえて、とても、うれしいです。私、中学では美術部、やってたんですけど、高校では部活、入ってないんです。正直言うと、お金がなくて、家事も忙しいので……だから、発表できる場があったら、すごくうれしいです。それに、ジラの作品、読むの好きですから、参加できたらうれしいです」

 生き生きと話す眞知は、何とも言えず、魅力的だった。だが、いったい、と俺はふと考えた。眞知は自分の境遇を全く意に介していないのだろうか。理由もわからず姉の家出に付き合って、東京に比べたら何もない田舎の町で、部活もできないほどの貧乏暮らし、服も中学生の時に来ていたものをあらいざらい持って来たといっていた。家出の理由も聞かず、ただ家事をこなし、もくもくと学校へ通って、進学校の水都二高で一番の成績を取っている眞知。こんな境遇にいて、眞知の中には何の不満も不安もないらしい。「世界一、心の美しい人」だと那加は言っていた。もし、俺が那加の立場だったら、きっと同じことを言うだろうと思った。

 食事が終わると、日本に名だたる「大地桜」を見に行く。混雑は相変わらずで俺たちはまた手をつないで歩いた。少し冷たい、しなやかで柔らかい細い指。指と指を絡める程度だったが、俺にとっては桜よりも眞知の手の感触が素敵だった。

 大地桜は満開だった。太い幹に多くの枝が張り出して、空を覆わんばかりになっている。その枝々が、真っ白い花で覆われている。日本で一番大きい桜だという話だ。少し強い風が吹くとまるで雪のように花弁が降ってくる。「満開の時に来られて、運がよかった」という声が聞こえた。

「すごいですね」

 と眞知が言う。俺は少しだけ強く眞知の手を握った。眞知もぎゅっと握り返してくれた。俺は黙ってそのまましばらく桜を見上げていた。

 また、風が吹いて、花びらが散って降りしきると、眞知の髪の毛にかかった。眞知が恥ずかしげにこちらを見る。なんて美しい瞬間なんだ、と俺は思う。この先の人生に何があるとしても、今、眞知といるこの瞬間の美しさは、きっと、生涯、忘れないだろう、と思った。


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