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第56章 運命のテスト2

1位を取れば眞知に会えるという運命のテスト、最初の日は大雪で2時間遅れで始まりました。

 2時間目は保健、これは範囲を完璧に覚えれば一〇〇点は難しくない。3時間目は国語(現代文)だった。これは、友部を上回れるチャンスがある科目だ。ただし、授業でやっていない問題を出してくれれば……だが。さすがに、定期テストでは、試験範囲以外からの出題は難しいようだった。ほぼ、授業でやったことをそのまま答えるしかない。結局、1日目は、3教科とも、すべて那加の予想問題の範囲だった。繰り返し練習してあったので、かなりできた。運が良ければ100点も狙える。しかし、那加が予想できるということは、教科書にあるか授業でやったということで、友部にとっては、むしろ簡単な問題だということだ。つまらない計算ミスや勘違いの少ない友部を上回ることは俺には難しいだろう。もちろん、いくら友部のミスが少ないと言っても、皆無ではないだろうから、運がよければ俺にもチャンスがないわけではないが……。

 遅れて始まったので、3限目が終わる頃には、昼はとうに過ぎていた。雪はすっかり止んで、陽の光が降り積もった雪の上に、きらきら輝いてきれいだった。木々の枝に真っ白に積もった雪もきれいだった。おなかもすいたが、弁当もないし、帰ろうかと思っていたら、菅谷と中郷が来た。どちらも女子に人気のイケメンスポーツマンだが、気のいい男子で俺なんかのことも相手にしてくれる。

「ジラ、ここ、わかんないんだけど、教えてくれる?」

「ああ、これね。わかりにくいよね」

 試験範囲のうちで、特にわかりにくいところは、みんなに共通らしく、俺自身が前に那加に質問したことを、たまに聞かれる。当然、たいていは答えられる。俺自身、わからないところだったので、わかりにくい人の気持ちがよくわかるせいか、俺の説明はわかりやすいと、よく言われる。友だちの少ない俺だが、試験が近くなると、こんな風に、ちょっと「もてる」。男の子だけでなく、女の子にも、けっこうもてる。もちろん、俺自身の力ではなく、全く那加のおかげなのだが、それでも、結構、うれしかったりする。

 質問が終わったので教室を出ようとして、振りかえると、那加の周りに女の子が集まって何か教わっている。那加はもちろん普段から、女の子の輪のなかによく溶け込んでいるのだが、やっぱり、テストが近いと質問がよく集まるようだ。

 午後の日差しが教室に入り込んで女の子たちを輝かせていた。目を輝かせてうなずいている子がいる。

 ご主人様の説明のわかりやすさは、たぶん、俺が、一番知っている。みんなのために、やさしく丁寧に教えていらっしゃるのですね。と、俺は心の中でつぶやきながら教室を出た。ご主人様に教えてもらえるみんなは幸せ者ですね。

 次の日は、夜、よく晴れたために、雪はアイスバーンになってしまった。坂の多い大地市は、道路がつるつるになると、とても苦労する。自転車ではとても坂が上がれない。平らな所でも十分に危険だ。俺は家を早く出て、歩いたり、自転車をこいだりして、ゆっくりゆっくり登校したが、転んでいる人も多く見かけた。


 二日目は家庭基礎とコミュニケーション英語だった。

 家庭基礎は那加の予想問題の範囲の問題ばかりで、つまらないミスがなければ100点取れる問題だった。

 英語はちょっと面白かった。試験範囲と関係のない自由英作文があったからだ。絵があって、それを英語で説明しろという問題だった。「フリーの英作文が出れば、ジラにチャンスがあるよ」と前から言われている。「英作文って、減点法で採点するしかないの。だって、内容が明らかに間違っていなければ、内容では減点しにくいでしょ。文法や、つづりの明らかな間違いをしなければ内容が少し変でも、丸を付けざるを得ないのよ。だから、和文英訳だったら、和文の方をどんどん言い換えて中学一年の英語で書ける内容にしてしまうの。そういうのは、文芸部ジラの最も得意なことでしょう? 自由英作文はもっと楽。中学1年の英語で、目的に近いことを、ずらずら並べて語数を稼げばおしまい。でたらめを並べるのは、ジラ得意でしょ?」

 確かに、この前の模試でも、その作戦はうまくいった。要するに減点されなければいい。友部くらい優秀だと、難しい言い回しが自然に浮かぶので、それを使うから、ミスの可能性もある。俺は、今回も中学1年英語で勝負だ。

 問題の絵は男の子が手に持った鏡を見ている絵だ、ところが、鏡の中の自分が、男の子に向かってあかんべえをしている。それにびっくりしている絵だ。……というようなことを、英語で書くことが期待されていることだろう。

 そこで、俺は中学英語で書ける文章を書きならべた。こんな具合だ。

「少年は、彼の手の中の鏡を見た。そして、彼は言った。『きみは誰だ? 君は鏡の中にいる。君は俺じゃないのか。なんで変な顔を持っているのだ?』鏡の中の少年は言った。『きみは誰だ。君は鏡の中にいる。君は俺じゃないのか。なんでそんな変な顔を持っているのだ?』鏡の中の少年は舌を出した。鏡の外の少年はびっくりした」

 説明しろという問題だが、ちょっと変だとしても、十分な説明にはなっているだろう。少なくとも、減点はしにくいはずだ。中身は間違ってはいない。英語の先生はびっくりするかもしれない。友部の素晴らしい英語と比べて、なんて幼稚な内容だと思うだろう。しかし、減点はしにくい。友部の素晴らしい言い回しの英語の方にちょっとしたミスがあれば、俺の方が点が取れるかもしれない。英語の先生はこんな幼稚な英語の方にいい点をやるなんてしゃくだと思うかもしれないな、などと考えて、少しにやにやしながら答案を書く。まあ、採点者次第だから運任せではあるが、こういう正解がないような問題でもないと、あの正確無比な絶対美少女を上回れるわけがないんだから、思い切って勝負だ。

 テストが終わって、帰ろうと昇降口を出ると、雪の積もったグラウンドのほうで、女の子たちがはしゃいでいる。雪だるまを作っているようだ。通りすがりに見ていると「ジラ―」と呼ばれた。大きく手を振っている。よく見ると、ソフト部の1年生たちだ。酒出南もいる。なるほど、グラウンド整備の一環なのかな。

「おいでよー。少し手伝って―」

 というので、なんとなく楽しい気持ちになって、グラウンドの方へ小さな坂を上り始める。雪が固まってつるつるのところがあるので、用心しながら登っていたが、あと一歩というところで見事に足を滑らせて、雪の上に、仰向けに、すってんころりんと転んでしまった。

「大丈夫?」

 駆けてくる足音がして、上から酒出と笠間がのぞきこむ。二人とも笑っている。

「気を付けて、結構、滑るから」

 二人は、俺を助け起こそうと、手を差し出してくれた。俺はとてもうれしくなった。二人が俺を大切な仲間の一人と認めてくれていると思えたからだ。ソフト部の1年生は、俺がマネージャーをやって以来、ずっと、俺を仲間の一人として、いつも暖かく接してくれる。それは、長いこと、誰にも相手にされないできた、ぼっちの俺にとっては、信じられないくらい、すてきなことだ。こんなすてきなことになったのは、俺が、マネージャーという仕事をとても一生懸命にやったからだ。もちろん、それは俺自身の意思ではなく、すべては那加の命令でやったことなのだが、だとしても、俺が、今、すてきな仲間の輪のなかにいるという現実に変わりはない。

 俺はさしのべられた手がうれしくて、両手で二人の手をつかむと、ぐいっと勢いをつけて立ち上がった。それがいけなかった。


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