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第55章 運命のテスト

1位を取れば眞知とデートできる運命のテストが始まった

 期末テストの日がやってきた。窓を開けると一面の雪だった。庭の木にも石にも雪が深く降り積もって、下に何があるのかさえわからなくなるほどの大雪だった。今年はテストの日に限って、天気が悪い。これだけの大雪だと、テストは中止かもしれない。

 ネットで学校の掲示板を見る。2時間遅れて始めるという。雪はまだ降っていたが、朝のうちには止むという予報らしい。

 大地氏は田舎だが雪は滅多に降らない。だから、たまに大雪が降ると、交通が麻痺してしまう。水都と大地市を結ぶローカル線は、電車ではなくディーゼル気動車なので、比較的雪には強いが、田舎では車の移動が中心なので、大雪は本当に困る。滅多に降らないので、雪のためのタイヤを用意していない人も多く、雪が降り積もってしまうと、そもそも危なくて車に乗れない。乗り出してもゆっくりにしか走れないので大渋滞が起きる。そうなると、バスも身動きがとれない。車で送ってもらうのは無理だな、と思う。

「お兄ちゃん、学校、あるの? うちの中学校は休みだって」

 朝食を取りに降りていくと、妹の静はもうテーブルに着いていた。

「今日はテストなんだ。2時間遅れでやるって」

「やって欲しいよね。夕べも遅くまで勉強してたもんね」

 母親がトーストを俺の前に置く。今回の試験では、那加は本気で1位を取らせようとかなり真剣らしく、前にも増してたくさんの予想問題を用意してくれた。わからないところは、ずいぶん長い時間かけて、わかるまで教えてくれた。本気で俺に命令を達成させ、晴れて眞知とデートさせようと思っているらしかった。いつもクールで素っ気ない那加の、らしからぬ情熱に押されるように、俺も、これまで以上に真剣に取り組んだ。那加の予想問題はこれまでの倍ぐらいあったが、これを全部覚えられれば、一〇〇点は夢ではないよと言われ、夕べも遅くまでひたすら詰め込んだ。

 俺はポケットに携帯懐炉を詰め込んで、たくさん着込んで自転車に乗る。まだ雪が降り続く中、ペダルをこぐ。開始時間が遅れたからいいが、まず学校にたどり着かなくては勝負にならない。そういう意味では、委員長の方が俺よりずっと大変なはずだ。あんな山の中から、こんな大雪を超えて無事来られるのか? なんとか来てほしいものだが……と思いつつ、学校へようやくたどり着く。教室に入るとあまり人がいない。委員長も来ていない。

 俺は机に座ると勉強を始める。

 委員長が大雪で来られないとどうなるのかな。たぶん公欠ということで追試の扱いだな。すると総合順位には入らない。すると、俺が1位になることはほぼ間違いないが、それじゃ1位を取ったことにはならない。今回は委員長を目標にこれだけ頑張ってきたんだから、なんとか来て欲しいが……と、内心はらはらしていたので、ぎりぎりになって委員長が入ってくるのを見た時には、すごくうれしかった。

 テストが始まる。また、最初が数学だ。最後の問題以外はたいしたことのない、易しい問題だ。最後の問題を見る。やった。那加が予想した問題の一つだ。「これは、特に難しいから、これあたりかも」と言っていたやつだ。素の俺では、絶対、解けないが、何回も解いてあって、答えを暗記しているくらいだ。「難しい問題が解けたところで、易しい問題で計算間違えたら命取りよ」と念を押されていたので、最後、入念にチェックして答案を出す。最後の問題、友部は解けたのだろうか?

 トイレに行くと女子トイレの前に長い列が出来ている。寒いからみんなトイレが近くなっているのだろう。友部も青柳とおしゃべりしながら並んでいる。通り過ぎようとしたら、珍しく声をかけられた。

「あ、ジラ、最後の問題の答え、何だった?」

「え? ああ、一九九分の八八八だと思いますけど」

「あ、やっぱり、それでいいんだ。すごい数になったから、間違えたかなとも思ったんだけど……」

「さすがです」

(俺が何度も練習してやっと覚えた問題を初見で解いちゃうんですから、と俺は心の中で付け加える。)

「透子さん、鯨岡君との賭けは今回も続いてるの」

 青柳が、友部と俺を見て言う。最近は俺の「ロバ」人気が高まったこともあって、俺をジラと呼んでくれる女子も増えてきたが、青柳だけはやっぱり少し他人行儀だ。中学時代は「たかちゃん」「さーちゃん」と気軽に呼び合っていただけに、少し淋しい。 

「ううん。前回の模試で終わり。ね、ジラ」

「とても、委員長には勝てないことが、ようくわかりましたので」

(と言いつつ、今回は密かに狙っているのですが)

「透子さん、一度デートしたっていう噂聞いたけど、ほんとなの?」

「ほんとよ。賭けに負けて、仕方なくね」

「楽しくなかったのね。もう二度と、やりたくない?」

「まあ、それなりには楽しかったかも」

「鯨岡君は楽しかった?」

「ええ、楽しかったです。委員長には感謝です」(と、言っておいた方がいいよな。那加の命令でなんて言えるはずないし)

「またデートしたい?」

「え? ええ、そうですね」なんと答えていいかわからず、少し慌てる。

「透子さん、もし、どうしてもいやというのでないんだったら、賭けも終わったことだし、順位がどうでも、また、デートしてあげたら?」

 友部はちょっとびっくりした顔で俺を見た。それから、軽いため息をついて、青柳を見た。

「佐和。あのね。結構、誤解されているみたいなんだけど、ジラはね……、この憎らしい生徒会長は、私とデ-トがしたくて、この賭けを始めたわけじゃないのよ」

「え? だって、透子さんみたいな美少女とデートできたら、最高よね。透子さんは、みんなの憧れだと思う」

「違うの。この人は、私を本気で試験勉強させたいだけなのよ。本気の私に勝ちたいだけなのよ。だから、今は、お望み通り、本気を出してるのよ。今回も、賭けはないけど、私も負けないように勉強はしてきたよ。お望み通り」

 友部は、睨むような視線で俺を見た。挑戦的な友部は、ぞっとするくらい美しい、といつも思う。

「ジラ、今回も負けないよ」



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