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第47章 後期中間テストの話

マラソン大会が終わり、次の那加の命令は次のテストで1位を取ることと、大大地フェスティバルを成功させることだった。

 奇跡は起きなかった。

 テストの成績上位者が廊下に張り出された日、群がっていろいろと騒ぐ生徒にまじって、俺はある意味で呆然とそれを見つめていた。

 今回のテストで、俺は、前回2位だった時よりもいい点数をとっていた。どのテストも九十点以上で、100点のものもあった。自分でも信じられないような点数を取っていたが、友部に勝てないだろうとはうすうす思っていた。答案を返されるとき、俺が90点以上取っても、「すごい、透子、また100点?」など言う声がよく聞こえてきたからだ。

 総合で俺は2位だった。他の人をダントツに引き離していた。しかし、俺の上に、まるで当然のように、友部透子の名があった。900点満点の899点、あと1点でパーフェクトだ。俺とは40点以上差がある。文句なしの第一位だ。


「それで、ケーキはあげたのね?」

 何日か後の朝、那加にそう聞かれた。

「はい、お母さんと滝さんの分も含めて3つあげました。そっけなかったけど、ありがとうとは言ってくれました」

「本当に、透子さんは天才ね。そして、今回は、本気、出したみたいね。たぶん、ジラとのかけがあったせいね。二度とデートはしたくない! って思ったのかな?」と那加がうなずく。

「まあ、失礼な言い方だけど、うちの学校は田舎の二流進学校でしょ。うちの定期テストでは、本気の透子さんにはとても勝てないわ。定期テストは、どうしたって、この学校の生徒のレベルに合わせた易しい問題しか作れないもの。まあ、先生たちも、100点取られないように、一つか二つ難しいのを入れているんだけど、透子さんは、資料集の隅っこまで完璧に覚えてるんじゃないの? 確かに、ジラでは無理かもね。これも、こう言っちゃ悪いけど、ジラが90点取れるようなテストではね、とてもあの人に勝つのは無理。あの人は天才よ」

「那加が本気を出したら、勝てますか?」

 俺は思わず聞いてしまった。那加は、今度のテストでも、ほぼきれいに80点くらいだった。何かの理由で本当の実力を隠しているんだろうと俺は思っていた。那加に教えられて俺が90点取っているのに、那加がとれないわけがない。でも、那加は、きっと、「よけいな詮索はしないでよ」と言うんだろうな。「すいません。変なことを聞いて」

「だいぶ、私のことを買いかぶっているようね。でも、まあ、ちょっとだけ教えてあげる。テストでは、私は透子さんには勝てないわよ。なぜかって言うと、透子さんの才能はとてもテスト向きなの。透子さんは、与えられた範囲なら、隅から隅まで読んで、苦もなく暗記してしまう天才なの。数学なんかでも、決められた計算なら、素早くしかも正確に答えを出してしまうタイプね。そういう、ルーティーンを素早く身につけて正確無比に実行できる人なのよね。私にはそんなことは出来ない。ジラ、一緒に数学を勉強していて、私が計算間違いを、しょっちゅう、やっているのを知ってるでしょう? そういう能力ではとても透子さんにはかなわない。ただ、もしかすると、もう少しクリエイティブな部分なら、勝負になるかも、とは思うけどね」

「クリエイティブな?」

「そう、たとえば、小説を書いたら、ジラや私の方がうまくかけるかもってこと。ゼロから何かを生み出す能力や、曖昧で混沌としたものから何か真実を見つけ出す能力は、私たちでも勝負になるかもね」

 なるほど、そうか。那加は「私たち」なんて、無理矢理、俺を入れているけど、要するに、易しい問題を解いているうちは友部の完璧さにはかなわないが、本当に難しい問題になれば那加の方が上かもしれないと、と言っているらしい。まあ、ハイレベルすぎて、俺にはよくわからない話ではある。

 ただ、たぶん、頭のいい友部はそのことを、うすうす、感じているのかなとも思う。いつか、生徒会のメンバーででマラソン大会の準備をしていた時、こんなことを言っていた。

「ジラにテストの点数では負けないつもりだけど、本当の意味での頭の良さは、あなたにはかなわないわ。次から次に、よくこんなアイディアを出せるわね。しかも、それが実現してしまうんだから……」

 まさしく、あれは、那加に対する評価だったよな……俺がそんなことを思い出していると、那加が唐突に言った

「それで、商工会の結論は出たの?」

「あ、はい。昨日、聞いてきました。基本的には、協力するということでした」

「うーん、ほんとは、『大歓迎』って言って欲しいんだけど……だって高校の文化祭と地域の商店街がタイアップして『大大地フェスティバル』をやるなんて、それだけでニュース性があるよ。マスコミが取り上げてくれるから、宣伝費なしで人を集められる、実にうまい話よ。おまけに、最低でも600人からの生徒の親が来て、おじいちゃんおばあちゃんまで来たら、その3倍はお客が来るのよ。作れば作っただけ売れて、万々歳。しかも、生徒が喜んで売り子になってくれるから、人件費もただ。こんなうまい話に乗らない馬鹿がいる? 普通は、学校側がそんな商売っけのある話に乗ってくれないから、実現しないけど、今回は学校側から『どうですか?』って提案してるんだからね。こんなおいしい話はないはずなのよ。もうけのほんの一部は、生徒会に還元してもらうけど、それにしたって、大もうけ出来るはずなのよ。もちろん、生徒のほうも大いに楽しんで、生徒会の懐も肥えて、部費も増えるんだから、学校にとってもいい話ではあるんだけど」

「ですよね。でも、まだ、先生たちはあんまり賛成はしてくれてないようですね」

「心配なのよね。こんな3年生の受験直前にこんなことやってていいのかという気持ちもあるし、なれより新しいことをやるのが心配なのよ。万が一、何かあったら、絶対、悪者にされる立場だからね。新しい企画だと、生徒が勝手に走って転んでけがしても、学校は何やってるんだ、と押しかける親もいて、おまけにそれに同調するマスコミまで押しかけかねないっていうのが現実だものね。『新しいことをやる時にはもう少し慎重であるべきじゃないか』なんて評論家がしたり顔で言って、いっつも悪者にされるんだから、それはやりたくもなくなるよ。でも、リスク管理書は作ったんでしょ」

「友部さんが作ってくれました」

「彼女なら完璧ね。さっきの話じゃないけど、こういうことをやらせたら天下一品よ。完璧なリスク管理書なんてあり得ないけど、こういうものがあれば、いざというときのアリバイになる、って先生たちに思ってもらえれば十分。実行にこぎ着けさえすれば、たぶん大丈夫。万が一を心配する気持ちはわかるけど、万が一というのは万に九千九百九十九は大丈夫っていう意味なんだから」

「それにしても校長先生が味方になってくれたのは大きいですね」

「そう、なかなか話のわかる人ね。優秀だわ」

「商工会の副会長は、同級生で、昔、一緒にロックバンドやっていたそうですよ」

「そうなんだ。今回、企画を通してくれたのは、そこら辺の信頼関係も大きいのかな。是非、ステージ発表に舞台に乗ってもらいましょう」

 たぶん、那加は冗談で言ったのだが、まさか実現することになるとは思わなかった。


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