第43章 第三休憩所で額田に会う話(続き)
第三休憩所で俺は額田に出会った。額田はこのマラソン大会は俺の陰謀だと断言するのだった。
「とぼけてもわっしにはお見通しっすよ」
全く、いくら額田が、俺が女の子にもてないのを知り尽くしているといっても、そこまでやると思うかね。完璧にとんちんかんな誤解だ。
だが、誤解しているという意味では、酒出も完璧に俺の本質を誤解している。同じ全くの誤解でも、どちらの誤解が、俺の本当に近いかと言えば、額田の方だと認めざるを得ない。
もし本当の俺が、このマラソン大会に出ていたら、「今年は楽でいいや」などと思いながら、休憩所と休憩所の間を適当に走って、休憩所では、「どうせビリだし」とタイムオーバーも気にせず、たこ焼きの列に並んで、かわいい女の子からたこ焼きをもらって喜んでいたに違いない。額田は入学当初から同じ文芸部にいたせいもあって、俺の本質をよく見抜いている。酒出は奴隷になってからの俺しか知らないので、那加のかぶせた仮面を本当の俺だと誤解しているのは当然だ。
「いや、いくら何でも」
と言いかけるのを額田は片手をあげて制した
「いや、いいわけはいいって。別に責めてるわけじゃないっすよ。ただ、みんなはだませても、このわっしはだまされないってことが言いたいだけ。ジラみたいな、最底辺の男が考える卑怯な作戦としては、実にうまいなあと感心してるっすよ。同じ最底辺の女として、『いいね』を何個もあげたいくらいっすよ。もちろん、世の中の発展のためには、不健全すが……」
「不健全? たぶん、みんな喜んでくれていると思うけど」
「みんなが喜んでいることは認めるっす。今、この瞬間を楽しむには、素晴らしい企画っす。わっしも好きっす。思い出にも残るし、すてきな出会いもあるかもしれないもんね。まあ、ジラやわっしみたいなクズは別として……だけどね。しかーし、昔ながらの、みんな一緒に長い距離を走って、一番早い人に優勝杯を送るっていうやり方は、早く走れる人をかっこよく見せるっていう点では最高のやり方なんだな」
「早く走れる人にはそれでいいかもしれないけど、そうでない人は……」
「そうでない人ってジラみたいなクズでしょ。そんな人、世の中にいらんでしょ」
「いらないって言われても……」
「少なくとも、かわいい女の子たちには、いらないんだな。もし、ジラとセックスしたら、ジラの子どもが生まれるんだよ。ジラの子どもじゃ、九分九厘、運動音痴、社交性ゼロのやっかいな子どもでしょう。そんなろくでもない子どもが自分の子だなんて考えるだけで恐ろしいことだよ? わかる? だから、普通のマラソン大会みたいに、きちんと順位を決めることが重要なんだな。足が一番早い男子が先頭をきって競技場に入ってきて、歓声に手を振るっしょ、その颯爽たる姿が女の子たちの下半身を直撃することが大事なんだな」
「下半身を、ですか?」
「そう、美少女たちは違うのかな。少なくともわっしの下半身は直撃するっすよ。まあ、わっしは、特別、淫乱だからね。だけど、美少女たちも、その姿をすてきだとは思うでしょ。恋人にしたいと思うかもしれない。恋人になるってことは、セックスしたいってことだし、その人の子どもを産んでもいいかなっていう意味でしょ。結局は、そんなにわっしの性欲と変わりないすよね。というわけで、美少女たちは優秀なスポーツマンに恋をして、結ばれ、セックスして素晴らしい子供を産むんだな。そうすると、美少女たちにとっては優秀な子どもが生まれてうれしいし、その子たちが社会的にも優秀な人材となって、世の中のためにもなって、めでたしめでたしってわけ。だから、普通のマラソン大会は、優秀なスポーツマンとジラみたいなクズをきちんと選別して、女の子の目に正しい恋人を焼き付けるという意味で、世の中のためには大いに有益なんすよ。わかる?」
「はあ……なるほど」
俺は、いすに座ってたこ焼きを食べ始めた。暖かくて、結構うまい。額田は背が低いので、俺が座って、額田が立っていて、ちょうど話すのにいいくらいだ。
「だから、きれいに選別されるのがいやで、こんなやり方を考えたわけだ、ジラは。その努力は買うよ。わっしも選別される方だから、気持ちはわかるしね。だけど、お気の毒様。まあ、女の子の目は厳しいからね。明確な最下位はうまく避けられても、こうやって休憩所に入ってみれば、美少女からジュースをもらおうと思っても、相手にしてくれるのは、わっしみたいなブスしかいないってわけだ。あ、勘違いしないでよ。わっしはジラを恋人候補に入れてやろうと思ってるわけじゃないからね。わっしは自分がブスなのは知ってるから、贅沢を言うつもりはないっすよ。でも、ジラのレベルまで下げる気はないっすからね」
「なるほど。俺が、徹底的にもてないことだけはよくわかりました」
「わっしは、絶対に、ジラのレベルまで下げたくはないす。だけど、もしかして、誰にも相手にされなくて、最後はもしかすると、と考えると、え、え、そんな、恐ろしい……」
突然、両手で頭をかかえたので、俺はびっくりする。額田は時々、こうやって一人で暴走する。額田のおしゃべりが止まらなさそうなので、たこ焼きを食べ終わると、俺は立ち上がった。つきあっていたら、タイムリミットをオーバーしてしまう。
「額田さん。たこ焼きと麦茶、ありがとうございました。時間なんで、もう行きますね」
「ふーん。一応、頑張るふりはするんだね。女の子は頑張り屋さんが好きだから、悪くないけど、ジラの場合、どうあがいても、いずれぼろが出ると思うっすよ。まあ、せいぜい頑張って……そうそう、那加様はゴールで待ってるって言ってたすよ」
全く、額田はぞっとするくらい俺のことをよく見抜いている。いずれぼろがでる、か……
俺は、休憩所を出ると、全力で走り出した。確かにそうかもしれない。いずれ俺の正体がばれて、酒出にも、生徒会のみんなにも、見捨てられる日が来るのかもしれない。しかし、その日までは、とにかく那加の奴隷でいる限り、命令に忠実にやってみよう。今は、命令に忠実に必死で走るだけだ。
次が最後の休憩所、チェックは友部のはずだ。とにかくあそこまで、俺のできる限りの全力疾走を。




